外国投資法の概要
外国投資法の概要
ベトナムに進出する外国投資企業はベトナム国内の会社法には準拠せず、外国投資法に基づいて事業を実施する。外国投資法はドイモイ政策の導入に伴い、対外経済開放を進めるために1987年に制定され、その後1990年、1992年、1996年、2000年に一部改正が行われ、現在に至っている。実際に外国投資が増えたのは1993年以降であり、1996年と2000年の改正は、それぞれそれまでの外国投資受入経験を踏まえ、より戦略的な法律に改正されている。2000年の改正では、一度取得した優遇措置の継続、各種法定強制積立基金の廃止、利益送金税減税などを実施した。
外国投資法とその細則は、商法の外国企業版と言えるもので、外国投資企業の認可範囲と手続き、取締役会の役割、各種優遇措置とその条件(法人税、利益送金税、輸入税など)、法定会計監査要求などが定められている。
現行の外国投資法に関する規定としては以下のものがある。
・ 外国投資法(1996年公布、2000年改正)
・ Decree24(2000年改定外国投資法施行細則政令)
・ Circular12(外国投資法ガイドライン)
・ Decree27(Decree24の改正補足)
各種会計処理
l 財務諸表の表示
ベトナムの財務諸表の表示で特徴的なのは損益計算書の表示形式である。ベトナムでの損益計算書では受取利息・支払利息等の財務関連収益・財務費用に関しても営業利益項目となっている。
l 税効果会計
2005年2月に税効果会計に関する基準が制定・施行され、2005年3月期決算の企業より適用されている。主な一時差異としては、繰越欠損金(5年間)、貸倒引当金繰入超過額、減価償却費超過額、在庫引当金超過額等が上げられる。繰延税金資産・負債については貸借対照表上固定項目として計上される。
l 外貨建取引
2002年12月決算以前は為替差損益については全て資本の部へ計上するという基準が採用されていたが、2002年度中の会計基準の変更によりPL計上されることとなった。
期中取引に関しては発生日レートにて換算することが原則とされているが、前月末レートを用いて換算を行うことも実務上認められる。また期末には貸借対照表科目のうち、貨幣性資産・負債につき期末日レートでの換算が必要となる。
l リース取引
ベトナム会計基準においてもオペレーティングリースは費用計上され、ファイナンス・リース資産については、賃借人(Lessee)の会計帳簿に固定資産として計上することが必要になる。ベトナムにおけるファイナンス・リースとは、以下の条件のうち一つを満たしたものとされている。
a) リース期間終了時に、所有権が移転されるか、又は再リースの定めのあるもの。
b) リース期間終了時に、定額による買取権が与えられるもの。
c) リース期間が、法定耐用年数の75%以上であるもの。
d) リース料の総額が、契約時の市場における実際価値を上回るもの。
l 金融商品会計
現状ベトナムには金融商品会計に関する会計基準が導入されておらず、金融商品を有する企業の場合には国際会計基準を準用している。
l 減損会計
現状ベトナムには減損会計が導入されておらず、また著しく価値の低下した固定資産を減損処理する場合には事前に政府の承認が必要となる。
l 連結会計
2004年より連結会計に関する会計基準が施行されている。ベトナム証券取引所へ上場している、又はする予定の企業で子会社を有する企業は連結財務諸表の作成及び会計監査が義務付けられている。
l 企業結合会計
現状ベトナムには企業結合会計に関する会計基準は導入されていない。ベトナム国内の現地法人同士の合併又は買収事例は未だ少ないが、会計処理としては個別に財務省へ確認する必要がある。
主な会計基準及び日本基準との違い
主な会計基準および日本基準との違い
2002年度以前は日本基準及び国際会計基準等と大きく異なる点が見受けられたベトナム会計基準であるが、現行はほぼ国際会計基準の内容に準拠した形となっている。
現状減損会計、退職給付会計、金融商品会計は未だ導入されていないが、2005年より税効果会計が導入された。
ベトナム会計基準と日本基準の主な違いは下記の通りである。
項目 |
ベトナム会計基準 |
日本基準 |
棚卸資産の評価 |
低価法により評価。時価が簿価より低下している場合には棚卸資産評価引当金を計上 |
原価法又は低価法の選択が可能 |
土地勘定 |
土地は国有であり全てリースとなるため、前払・長期前払費用として計上し経過年数に従って費用化する。 |
土地勘定として計上。償却は実施しない。 |
減損会計 |
減損会計は未導入。政府の承認を得た場合にのみ固定資産の減損計上が可能。 |
減損会計導入済み |
税効果会計 |
2005年より導入された。繰延税金資産・負債は長期性資産・負債として計上される。 |
繰延税金資産・負債は対象項目に従い、流動・固定分類される。 |
退職給付会計 |
退職給付会計は未導入。労働法に規定されている退職金規定に従いよう支給額の100%を引当計上する。 |
退職給付会計導入済み |
帳簿組織・会計帳簿の保存/決算業務
帳簿組織・会計帳簿の保存
ベトナム会計基準では4つの帳簿組織が規定されており、企業はその中より一つを選択し採用することが要求されている。しかし、4つの帳簿体系のうち、日本又は国際的に一般的とされている帳簿体系は一つのみであり、進出企業の殆どがその体系を採用している。帳簿組織としては下記の通りである。
・仕訳帳
・総勘定元帳
・補助元帳
・試算表
・貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書
会計帳簿の保存に関してはベトナムでは会計記録の証憑とともに5年間保存することが要求されている。
決算業務
ベトナムにはチーフアカウント(会計主任)制度があり、企業はチーフアカウンタントを1名は最低採用する必要がある。チーフアカウンタントとなるためには資格要件があり、その要件を満たしたものを置く必要がある。
ベトナムでの決算業務に関してはチーフアカウンタントが責任を負い実施する。
ベトナムでの決算業務の流れは他国のそれと同様であり、下記のような流れで行われる。
① 日々の会計記帳(仕訳帳・総勘定元帳・補助元帳への記帳)
② (必要あれば)月次決算業務
③ 期末決算(試算表作成、決算整理、期末財務諸表作成)
④ 会計監査対応及び税務申告書作成
12月決算の場合、12月末での期末決算、2月末までの個人所得税申告、3月末までの会計監査及び法人税確定申告等業務が集中するため決算業務のスケジュール調整が重要である。
ベトナムの会計原則
ベトナムの会計原則
ベトナムでは1995年にベトナム会計基準(Vietnam Accounting System:VAS)が設定され、1996年より施行されている。現在ベトナム財務省は2005年までに35の会計準則を公表する予定であり、2004年までに22の会計準則が公表されている。
外国投資法第37条にて、外国投資企業及び事業協力契約の外国側当事者は、ベトナム会計システムを採用しなければならないと規定されている。その他の一般に認められる会計制度を使用する場合には、財務省の認可が必要になる。さらに、外国投資法にて、外国投資企業及び事業協力契約の外国側当事者は、独立したベトナム監査会社又はベトナムで営業を認可された独立の監査会社による財務諸表監査を受けなければならない。
ベトナム会計システムは、次のように構成されている。
· 標準勘定科目体系及び各勘定項目の解説
· 会計報告システム及び財務諸表作成のガイドライン
· 会計帳簿システム
· 会計書類システム
Circular 60によると、全ての外国投資事業主体は、他の会計制度を採用する正当な理由がある場合を除いて、ベトナム会計システムを採用しなければならないとしている。しかし、Circular 155では、銀行、証券、ファイナンスリース、プロジェクト管理など、一部の特殊分野については、まだベトナム会計システムの採用を要求しないと定めている。その他の事業分野については、ベトナム会計システムの採用が要求されている。
<ベトナム会計システムの特徴>
· 勘定科目名と勘定コードが固定されており、どの企業も同じ勘定科目名と勘定コード番号を使用しなければならない。
· 財務諸表の様式が特定されている。
· 損益計算書の様式に特徴がある。
· 会計帳簿類にベトナム語表記が必要。
· 輸出の割合が多い企業は、財務諸表通貨単位に米ドルを使用するのも可能。
· 特定の産業の特殊な事情がある、来て以外のものを採用する場合には、事情を説明するレターを財務省へ提出し承認を得られれば規定外の処理を実施することが出来る。