エルドアン大統領は、とても強運な人と言わざるを得ない。


突然始まった軍事クーデターの首謀者は、テレビの前で理念の一つも発表できずに、実施的に1日程度で敗北が明確となった。中途半端な軍事クーデターのおかげで、エルドアン大統領は、より強固な支持を固め、この機会を最大限利用して政敵を根絶やしにするであろう。

トルコには、もはや「世俗派」も「イスラム原理派」もない、「エルドアン大統領派」のみが選択肢として残されるだけとなった。


エルドアン大統領が強権を手にするのは、その個人の政治的な力量の結果であろうか?それとも、トルコが置かれている国際政治的な環境が、必然的に独裁者を欲しているのであろうか?


‹中東の地域大国へのステップ›

筆者は、強権的なロシアの復活、不安定化する中東情勢、弱体化するEUの環境から、どちらかというと国際政治的な必然性があると認識している。イラク・シリアにおける民族間の分裂と、権力の空白に生じたISの活動が続く中東において、トルコ軍が果たす役割の重要性は高まってる。

シーア派とスンニ派の権力闘争しているサウジアラビアとイランの覇権争いは、予断を許さない状況であり、トルコが欧米と中東の「橋渡し」もしくは「通訳」をする役割として、重要となっている。


そのような中での今回の軍事クーデターは、短期的にはトルコ軍への信頼低下をもたらし、トルコ国全体としての国威低下をもたらすが、中長期的には強力な独裁体制を敷いた国家として、更なる地域大国に躍進へのステップとなるであろう。


<参加した兵士はどうなる>

現時点では首謀者も明確でないが、少なくとも参加した数千人の兵士は、上官の命令に従って行動したに過ぎないと思われる。兵士にとって上官の命令は絶対であり、それがどんな命令であっても従う義務がある。ただ、今回はエルドアン大統領の呼びかけに応じた、武器を持たない人たちが戦車に向かってきたときに、発砲するだけの兵士はほとんどいなかった様子である。理念も共有せずに「命令」で参加したため、時間経過とともに、「何のために戦うのか」を兵士自ら考え、投降してしまうのは必然であろう。


かつて、日本でも226事件などの軍事クーデターがあったが、参加した兵士は上官の命令に従った普通の兵士達だった。いつの時代も兵士は「駒」として扱われ、使い捨てされる。

今回の参加兵士が見せしめとして「処罰」されるとしたら、悲劇としか言いようがない。