3月16日、クリミア自治共和国にてロシア編入の可否を決める住民投票が実施される。

一見すると、「自分の意思に基づいてロシア編入を決めることに何の問題があるのか」と思うかもしれないが、事態はそんな簡単ではない。


「ウクライナ動乱の経緯」

 簡単に言うと、ウクライナはもともと東西で分裂気味で、EU側とロシア側の綱引きの場となっていること。一応選挙で選ばれたヤヌコビッチ(前)大統領は、激しいデモ隊を前にして首都キエフを脱出してしまい、実質的な権力の座から落ちてしまった。暫定政権が発足したが、間髪入れずにロシアが侵攻してきた。


一方のウクライナの「暫定政権」は、野党・反政府側が政権を力で奪取してしまい、出直し選挙も経ていないため、政権の正統性が弱い。そこをロシア・プーチンは突いている。今の状況であれば、正統性の弱い政権から、ウクライナの領土をかすめ取ることができると判断。軍隊をクリミア半島を中心に展開し、実質的に支配下に置いた。


「ウクライナの主権を侵害」

「ロシア系住民が60%おり、ロシア軍が展開するのは当然」と思う人がいたら、一度よく考えてほしい。
主権国家とはなにか、と。


領土の保全は、主権国家のもっとも根本的な権利である。したがって、ロシア軍が「正体不明の武装組織」と名乗ってクリミア半島に侵攻した行為は、明確にウクライナの主権を侵害している。


これを他国が見過ごし、許容することするべきではない。同様の行為としては例えで極論すれば、カナダ・バンクーバー在住の中国系カナダ人を保護するために、中国軍がカナダに侵攻するのと同じだ。


世界は、さまざまな民族が国境をまたいで暮らしている。そもそも「民族」といっても色々な定義で、何か明確な区別をできるわけでもない。


クリミア半島の「ロシア系」住民といっても、何がロシア系なのか。日常言葉としてロシア語を話す人を指すのか。モスクワ周辺からご先祖が移住してきて、その子孫同志でしか結婚してこなかった人を指すのか。ウクライナ人やタタール人、ベラルーシ人、リトアニア人、ポーランド人等の周辺国の人たち結婚した人の子孫は?ロシア系?何系??


あいまいで、誰にも明確に決めることはできないことだ。


つまり、「ロシア系住民」という言葉一つでも、ロシア側の意図として、今回の軍事侵攻を正統化させる理屈づくりの一つといえよう。


「パンドラの箱」

2度の湾岸戦争を経て、イラクは実質的に崩壊、北部クルド人自治区は独立国の体を成している。バグダッド等はシーア派とスンニ派の抗争が激化し、終わることのないテロの嵐が吹き荒れている。それなのに世界は無関心だ。「民主化」の名のもとで、中東各国はドミノ現象のように騒乱が続いている。シリア内戦も激化しているが、勝者なき戦争により、国土は荒廃するのみ。


ロシア国内にも「民族自決」を掲げた分離独立運動は多い。グルジアやモルドヴァでも分離独立運動が盛んだ。テロへの懸念も強い。そんな中、「ロシア人」の保護を謳い、他国を侵害する行為は、自己矛盾を曝け出している

。今後はロシアへの国際的な経済制裁に加えて、国内の分離独立派による活動は勢いづくであろう。ロシアは自らのパンドラを箱を開け放ち、更なる混沌に踏み出したのである。


「自分の身は自分で守る」

最後に、今回の騒乱で一つ言えるのは、「自分の身は自分で守る」がやはり重要なこと。国際社会はウクライナのことを心配しているが、自らの苦境を訴え、自重を重ねている。「内戦」という最悪な事態を回避する意図であろうが、ロシアには付け込まれる一方だ。どこかでとことんまで戦う腹を決めて反撃をする意思を示し、実際に反撃しない限り、一度始まったロシアの侵略はどこまでも止まらないであろう。