本で読んでやってみたかった


三題噺をやってみます!落語じゃないけど・・・


お題は「和風」「猫」「勉強」。


ではスタート!


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 とても日本らしい木造の住居や茶屋が立ち並ぶ、古風な町がある。その中に和風の小物を扱う雑貨屋が一軒、ぽつねんと店を構えていた。

 その店で働いている中年男性の主人と、主人のことが大好きな三毛猫は常に勉強に勤しんでいた。雑貨の知識から商いのコツまで、あらゆることを学び、身に付けていく日々。


 そんなある時、猫は街から少し離れたところに小さな家を見つけた。小屋のように素朴だが、どこか人を惹きつけるその家に魅せられた猫はそっと中へ入ってみた。

 静かに、ひっそりと、一歩一歩を大切に踏み出し、進んでいく。


 そのうちに家の中心と思われる場所へ着いた。


 そこには小さな少女の写真が飾られ、裏には『明日香八才』とあった。

 猫に文字は読めない。でもわかる。


 明日香は主人の一人娘で、別れたあとになくなった奥さんの忘れ形見だった。別れたのは明日香が生まれてすぐ。彼女を引き取ったのは5歳の時だった。

 人懐こい笑みを浮かべて、優しい瞳で見つめながら他愛もないおしゃべりを繰り広げる可愛い子だった。


 そして、この家は主人と明日香、ふたりの思い出の場所だった。


 夏には蝉の声を聴きながら狭い縁側でスイカをかじり、冬には積もった雪でいろいろな形の雪だるまや、うさぎをつくる。秋には木の実を集め、ジュースにしたり、小物も手作りした。大好きな和小物を。そうやってまた春が来る。春には満開の桜の下でふたり、お手製のお茶を飲む。


 家でパソコンに向かう忙しそうな主人―父―におずおずと声をかけ、仕事の間に遊んでもらう。少しの時間なのに本当に楽しそうだった。


 けれど、体の弱かった明日香は十五の夏に流行病に負けて、呆気なく逝ってしまった。本当に寂しく一人で。


 そのときから、主人は和風の小物を扱う小さな雑貨屋を始めた。仕入れるだけではなく、手作りもしながら、一人で商売をしていた。


 時折見せた明日香の切なそうな顔を思い出して、時々泣く。無性に自分を責め立てる日々。


 そんな頃、ぼーっと散歩をしながら向かった駅に、その三毛猫は捨てられていた。

 すさんだ瞳は自分に似ているようで、明日香が大好きだった三毛柄のその猫を、主人は看板猫として、愛猫として大事に育てた。

 猫も捨てられ、汚かった自分に手を差し伸べてくれた主人を精一杯なぐさめ、支えようと寄り添った。

 こうして似た者同士、大切なものがいない同士の固い絆でお互いを助け合ってきたのだ。


 この和風の古風な家は主人と娘の思い出の場所。けれど、主人はここから踏み出して街で暮らしている。

 自分はあの雑貨屋で主人の新しい大切な思い出になろう。一人と一匹で勉強に勤しむ日々もかけがえのないものにしよう。

 猫はそう心に誓い、古風な家をゆっくりと後にした。