携帯の画面に二列で表示される見知らぬ電話番号。

身構えながら声のトーンを落とし出た先は、ドイツからの電話でした。

大学を今春に卒業する彼からは、昨年の夏前ごろから進路のことで相談を受けておりました。


彼との出会いは、私があるチームのジュニアで指導をしていた時のこと。

選手発掘のため、地域で行われてる少年大会を視察に行った時に彼を初めて見たのです。

スーパーな選手ではありませんでしたが、5年生の彼に光るものを感じました。

それからというもの、監督の承諾を受け、週に1度私のクリニックを受けるようになったのです。

グランド上で見せる姿や、毎回渡されるサッカーノートを通し、

彼のサッカーに対する情熱と真摯な姿勢はいつも感じておりました。

ただ、中学年代ではスピード面で上回る周りに追い越され、輝かしい活躍とはいきませんでした。

スタメンにも入れない時期が殆どだったとのことです。

中学を卒業すると、彼は九州にある強豪チームへ入学を決めました。

「情熱だけは負けない!」それが彼自身を動かしていったのです。

高校3年生の冬に彼から電話がありました。

「選手権の全国大会に出るんで観に来て下さい」

スタンドから彼のプレーを見守りました。

後日、どうでしたか?の問いに対し、率直な感想を言いました。

やっぱりそうですか…。もっと頑張ります。

そう言って関東リーグに所属する大学での4年間をまた必死にプレーしてきました。

昨年の夏前に受けた進路の相談。

どうしてもプロになりたい!

ただ残念ながら、キャプテンを務め、主力としてプレーしてきた彼の下には、

国内からのオファーは届きませんでした。

そこからの決断は早かったです。

海外でのコーディネーターを紹介すると、それを機にドイツへ発ちました。


「コーチ、僕です。ドイツからかけてます。」

「いくつかのチームに練習参加させてもらいながら、プレーを観てもらいました」

「先週、1部チームのU-22から打診があったんですが、最終的にダメになりました」

そうか、これからどうするんだ?

「実はその後、4部のチームに練習参加を2日間して、昨日契約を交わしました」

「チーム名はKFC UERDINGENというチームで、背番号は4番になりました」

「記者会見もさっき終わったところです」

「6月までのプロ契約で、契約金はなかったですけど、月額○○○○ユーロです」

そうか、よく掴みとったな。

「コーチ、俺やりました!」


おめでとう。

これが本当の夢のスタートだぞと言って、電話を切りました。

こっちは夕方でしたが、向こうは朝の7時だったそうです。

チームのHPを見ると、1/20に行われた契約締結の会見模様がアップされておりました。

生命力溢れる良い顔つきです。

その後、TRから事務所へ帰るとPCに彼からのメールが届いておりました。

「ラインやってください!」

金髪を黒髪に戻したらスマホに変えてもいいぞと言いましたが、

それじゃこっちでは目立たないから敢えてそうしたんだと言われました。

上位リーグのチームに移籍できたら、その契約金をあてに一括で変えてあげましょう。

Toshinori Uefune

そして、いつかテレビに映る彼のプレーを楽しみに待ちたいと思います。





by paris