2005年2月 | gidion note

2005年2月

ハシやん(バグダッドで凶弾に倒れた戦場カメラマン)が言っていた。
「世の中、たまに楽しいことがあるから、生き抜いてください」
数え切れない人の死をみてきた、橋田信介の言葉だ。
戦場から帰国し、この国で携帯やゲームにうつつをぬかしている、
おびただしい普通の人をみて、唖然とするハシやんに共感する。
ハシやんは61だったけど、同じ視点を持つ朋友に感じる。
私もかつて、空港から東京へかえるとき、
いつもいやな気分になったのを思い出す。
生きることをスポイルしているとしか、見えなかった。

エリトリアがまだ、エチオピアだった頃、
内乱をしているエリトリアに入った。
25年ほど前のことだ。
旅行者は、入れなかったので、ある人のつてで何とか入った。
内乱のなかで、生活している人の家に泊めてもらって、
特別なもてなしを受けた。
多くの若者は土地を捨て、国外へ出て行った。
戦車が砂埃にまみれて、転がっている。
どんぱちの現場には行かなかったけれど、
そこで、日々生活している人々と時間を過ごした。

その国からでるとき、検問で呼び止められた。
1本のフイルム。そこで、撮った大事なフイルムをハンカチにくるみ
パンツの下に隠していた。
軍事的な写真ではなかったが私にとっては、大事な友人との思い出だ。
「生理です」
業務をまじめにこなしている、そのおじさんはなにも言わず通してくれた。
こういうところでは、ハシやんの言うとおり、そのときの運ですべては回っている。
生き抜くという、確信だけがすべてを動かしている。
あのころのことを、前世のように思い出す。
あの前世では、杖をつくこともなく、ハシやんと歩いていた気がする。
あの前世を思い出すたびに今の心にポッと穴があく。
だけどハシやんみたいに家族に別れを告げて、行ってきま~すなんて
旅立つことはできないもの。これでいいんだ。
ハシやんは死んじゃったから、この世で生き抜く覚悟をしよう。
杖をついて。
あの世で会うことになっているハシやんの分まで、りっぱに生き抜くよ。