はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-toh常同症の定義は人によって様々である。かっこよく言えば「いくつか仮説がある。」となるが、簡単に言えばよく分かっていない。

ルースチャー(1978年)は常同症を「持続的ではっきりした目的を持っているとは思えない繰り返される行動であり、例えば、ハエをパクつく、グルグル回る、歩き回る、固まってしまう、周期的に吠える、ウ-ルを扱う、自傷などが含まれる。」と定義している。

パギート(1997年)は常同症を「少数の同一行動の規則的繰り返し、あるいは繰り返される行動群である」と定義している。

オーバーオール(1997年)は「特にはっきりした目的とか機能を持たない反復性を持った、比較的単調な連続行動である」と定義している。

これらの簡単にまとめると「無意識に繰り返す行動」でいいだろう。

常同症というのは一つの症状であって、診断結果ではない。常同症はいくつかの症候群を伴うこともある。例えば、過度の行動、不安、気分の変調、解離性障害である。これらのいくつかは自傷行動に発展していく。常同症にはチック症は含まれない。チック症とは急に起こり、素早く繰り返される不規則な筋肉の動きである。例えば、顔の引きつけ、舌のもつれ、唇をなめる行動などである。

常同症に伴う行動障害
多動性障害(HD)
診断基準は次の通り。
○過度の自動的行動、繰り返し行われ抑制がきかない。
○自律神経症状(心拍数・呼吸数の増加、血管の拡張)
○犬は多動である。数秒も座っていたり伏せていることはない。吠えることも多い。
○犬は学習を習慣化することはない。
○犬は普通の犬に比べて睡眠時間が少ない。(Beaver 1994)

恒久性不安障害(PAD)

診断の基準は次の通り。
○ある心理状態が他の心理状態を妨げている状態。
○転位行動がそのまま常同症になっていく。例えば、自分の体をなめる行動はacral-lick dermatitis (ALD) やacral-lick granuloma (ALD)など自傷(SIB)に発展していく可能性がある。
○自己防衛の消失
○障害は何才からでも始まる。

Deritualization Anxiety Disorder (DAD)
診断の基準は次の通り。
○つき合う仲間(成犬)が変わって始まる障害
○仲間とつき合う気力がなくなる障害
○外に出て行くのを嫌がり、引きこもる時間が長引く
○身体接触があると、攻撃を持って自己防衛をする。
○コミュニケ-ションの手段(吠えるなど)で常同行動を起こす。
○舐性皮膚炎
○身体接触で起こる自律神経症状

単極性障害(UDD)

次の主な兆候で診断する。
○環境の変化が起きていないのにもかかわらず急に起こり、長い間続く変化。それらの特徴は次の通りである。
○注意過敏性と過度の興奮
○興奮あるいはある種の行動の連続が止められない
偶発的に起こる少なくとも二つの兆候。
○フラストレ-ションから来る攻撃性
○常同行動
○非常に早い食物の摂取、その後の嘔吐と再摂取が続く。
○数秒から数分の全く動かない時間がある。
○普通なら従う命令に対して危険を伴った反応をする。

解離性障害(DD)
次の徴候に基づく診断
○思春期前期と5歳までの間に始まる障害
○環境に対する感受性が弱まる。
○幻覚を見ている間に起こる常同行動
○グル-ミングや舐めるといった体感覚の行動を受けると愚鈍状態(失神状態や幻惑状態など)になる。
○同じ刺激で起こる幻覚

強迫性障害(OCD)
診断基準は次の通りである
○普通の機能に求められる過度に繰り返される行動。
例えば、グルグル回る、尾を追う、フェンスを走る、ハエを噛む、脇腹を吸う、自分の手足を噛む、空気を噛む、異食、コマのように回る、じっと見つめて吠える、布を吸う、など。
○型にはまった行動をすることによって、普通の日常生活の行動や機能をじゃまする。


常同症の犬は外部からの刺激に対し敏感には反応しないので、行動療法は効果が得られないため、治療は向精神薬(鎮静剤、睡眠薬、精神安定剤、抑鬱治療剤、覚醒剤、幻覚剤など)が最も効果的である。

実際の治療には次の4つから選ぶことになる。
1.ド-パミンの活性化と調節
2.ド-パミン拮抗薬
3.セロトニンの活性化と調節
4.GABAの活性化

1.ド-パミンの活性化と調節
セレギリン(選択的モノアミン酸化酵素阻害薬:MAO-B阻害薬)
2.ド-パミン拮抗薬
リスペリドン(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
3.セロトニンの活性化と調節
フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
クロミプラミン・アミトリプリチン(三環系抗うつ剤)
4.GABAの活性化
GABA

TBSドラマ「MR.BRAIN」で木村拓哉さん演じる脳科学者 九十九龍介のように、的確な原因分析ができるなら、犬や猫の脳内で起こっている“事件”も解決するかもしれないが、現実は非常に複雑であり、ドラマのように一話完結とはいかない・・・

<引用>はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-jhhClinical management of stereotypies in dogs
Lecture presented at the AVSAB meeting in Baltimore, July 27, 1998.