6■はじめに
アミノ酸シャンプーやアミノ酸化粧品、アミノ酸配合スポーツドリンクなどあらゆるシーンで「アミノ酸」という表記をよく目にする。
小学生の頃、「ジャイアンツ篠塚モデル」と売り出されたグローブを購入したことがあるが、 “トップアスリートも愛用しているアミノ酸サプリメント”とか、“人気モデル○○ちゃんも愛用しているアミノ酸化粧品”など消費者の購買意欲をくすぐる戦略的販促ポップにはやはり惑わされてしまうことが多い。

■キン肉マンとアミノ酸の関係

実際、多くのアスリートが勝負の前にパワーチャージを目的にアミノ酸を摂取するとか、しないとか・・・激しい運動をすると、足りなくなったエネルギー源を補うために筋肉中のタンパク質を分解し、筋肉の組織は消費され、損傷していく。アミノ酸の中でもバリン・ロイシン・イソロイシンの3兄弟を総称して分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼ぶ。筋肉は、「アクチン」と「ミオシン」というタンパク質で出来ているが、アクチンとミオシンの主成分はまさにロイシン、イソロイシン、バリンという分岐鎖アミノ酸(BCAA)である。従って運動前に分岐鎖アミノ酸(BCAA)を補給すれば、筋肉中のタンパク質分解抑制の効果だけでなく、筋肉組織の原料が豊富にもなり、筋力アップに効果的というストーリーである。
 
「悔しいです!!」と叫びながら、変な顔をするザブングル加藤さんのカッチカチな上腕二頭筋も分岐鎖アミノ酸(BCAA)の効果かもしれない・・・
何もしないで家でDVDを見ているような“オフ”の状態でも、消費するカロリー量のことを基礎代謝量というが、この基礎代謝量は筋肉が多い人ほど高い傾向にあると言われている。なかやまきんに君のように自分の筋肉に話しかける必要はないが、「筋肉量が減ると体脂肪が増える法則」を知ると筋肉もダイエットには必要であることを理解できる。

■皮膚の保湿力とアミノ酸の関係cream
皮膚の保湿にアミノ酸が重要であることは明らかにされているとか、いないとか…人間の皮膚は、体の表面から表皮(0.1~0.3mm)、真皮(2~3mm)、皮下組織という3層構造をしている。この皮膚の3層構造を簡単に簡単にイメージしたい。コンビニでよく見かける生クリームが乗っているプリンならどうだ?上から「クリーム層」、「プリン層」、「カラメル層」の3層に分かれているが、まさに皮膚の表皮、真皮、皮下組織の3層構造をイメージするにはもってこいである。

クリーム層に相当する表皮は角質細胞がミルフィーユのように層状に並んでいる。一番下にある基底層とよばれる場所で赤ちゃん細胞が生まれ、どんどん成長して最も表面の角質層(0.01~0.015mm)までやってきて、最終的には垢となって皮膚の表面からはがれ落ち、4週間という短い人生(ターンオーバー)を終える。

 プルプル肌には必要な成分は、角質細胞内にあるNMF(天然保湿因子)と角質細胞同士をくっつける“糊”となる細胞間脂質(セラミド)と言われている。特にNMF(天然保湿因子)は、水分をつかまえて皮膚に潤いを与える働きをしている。このNMF(天然保湿因子)の主成分は各種アミノ酸(保水力No1と言われているのはプロリン)とピロリドンカルボン酸(PCA)である。つまり、角質の水分を保つためにはアミノ酸が重要となる。

 プリン層に相当する真皮の主役はコラーゲンで、弾力性やうるおいに貢献している。残念ながらコラーゲンは加齢と共に減少するので、女性には禁句である「シワ」や「たるみ」が出てくる。肌をベッドのマットレスにたとえると、スプリングに当たるのがコラーゲンで、ふわふわのクッションに当たるのがヒアルロン酸である。弾力のあるバネと、ふわふわのクッションがなければ、寝心地が悪い。
大手化粧品メーカーは水分が失われにくいようにする保湿剤として、NMFを構成している成分(アミノ酸など)と同じ成分を配合した化粧水や、細胞間脂質に含まれているセラミドと似た成分を配合した美容液などを発売し、女性がピチピチを取り戻すためのお手伝いをしている。
 ある実験(アミノエビデンス)で、乾燥肌を訴える女性に12種アミノ酸混合物を2週間摂取してもらい、摂取前後の肌に及ぼす影響をみたところ、皮膚の水分量が約2倍に、油分量が約4倍に向上し、弾力性も向上したという。

■肝機能強化とアミノ酸の関係
マラソンランナーがレース直後に血液検査すると肝機能のマーカーとなるGOTやGPT、γ-GTPがドラスティックに上昇していることは少なくなく、肝機能に大きな負担がかかっているという。アミノ酸を摂取してからマラソンすると、アミノ酸を飲まなかった人に比べてGOTやGPT、γ-GTPが低く、また運動による筋肉の炎症のマーカーとなるCKもアミノ酸を摂取した人の方が低くなったという実験もある。給水ポイントに置いてあるボトルには、アミノ酸が含まれていることは間違いなさそうである。
あるアミノ酸(BCAA、グルタミン、アラニンetc)はアルコールや酔いの原因となるアセトアルデヒドの肝臓での代謝を早めることが分かっているので、二日酔いの上司には「飲む前はアミノ酸で、飲んだ後はやっぱラーメンっすね」とコミュニケーションをとると出世するかもしれない・・・

 肝臓が悪いと、本来肝臓で代謝されるべき芳香族アミノ酸(AAA:チロシン、フェニルアラニン)が、代謝されずに血中濃度が高くなる。
逆に肝臓でほとんど代謝を受けない分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)は、低下する。この結果、BCAA/AAA(フィッシャー比)が低下する。つまり血液中の芳香族アミノ酸(AAA)が増加すると、(相対的に)脳内に入り込む芳香族アミノ酸(AAA)も増えるという緊急事態となる。この芳香族アミノ酸(AAA)が脳内に入ると“ぷよぷよ”のような連鎖反応が起こり、悪い物質(偽性神経伝達物質)が増えて意識不明などの昏睡状態(肝性脳症)に陥るのである。
 
このように、肝疾患時にはフィッシャー比(BCAA/AAA)の低下という特徴的なアミノ酸インバランスが認められる。フィッシャー比(BCAA/AAA)の低下を改善するためにはBCAAを増やすか、AAAを減らすかであるが、芳香族アミノ酸(AAA)の減らすことは難しいため分岐鎖アミノ酸(BCAA)を増やすことを目標に医療現場では分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含むアミノ酸諭液の静脈投与や経口BCAA製剤を使って治療する。

■まとめ
ジャイアンツのストッパーであるクルーン投手のストレートは非常に速いが、防御率が悪い。一方、タンパク質の最小単位であるアミノ酸は吸収速度も吸収率も高い。ドラゴンズの守護神・岩瀬投手のように、ストレート以外にもスライダーやツーシームが必要であると同じように、アミノ酸の作用をより高めるためには各種ビタミンやミネラルも必要となり、単独であるアミノ酸だけを摂取すればよいという単純な話ではない。
アミノ酸には種類毎に様々な薬理効果があることが人の研究や臨床試験によってわかってきており、一部ではあるが、犬でのデータも存在する。アルギニンやタウリンなどのように人では必須アミノ酸ではなくても、犬や猫では必須アミノ酸である場合もあり、全く同じではないことを知っておく必要がある。

 最後に、OTCなどでアミノ酸サプリメントを選ぶ基準を知っておくと役立つかもしれない。配合されているアミノ酸の総量が1回分で2g以上(出来れば毎日朝夕2回 2~4gの摂取を推奨)含まれていることが大切である。リポビタンDでもタウリン1000mg(1g)配合だが、「アミノ酸配合」と記載されていても数百mgでは足りなり。
 クルーン投手のようにいくらストレートが速くても、ストレートだけの勝負であればプロのバッターであればいつかは目が慣れてヒットを打たれる。アミノ酸も1種類だけを大量に摂取しても、アミノ酸バランスを崩すことになるので、組み合わせが大切かもしれない…

<監修>
大谷 勝 
東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授(学術博士)
生涯スポーツ健康科学研究センター
明治大学大学院農学研究科専任講師
日本オリンピック協会(JOC)情報・医・科学専門委員会サポート部会メンバー
アミノ酸スポーツ医科学研究会理事
日本障害者スポーツ協会(JPC)パラリンピック陸上強化委員

<参考図書>
アミノ酸で「受験脳」を育てる ホーム・メディカ・ブックス 大谷 勝(著) 
アミノエビデンス255―なぜ効くのか・何に効くのか 現代書林 大谷 勝(著)
美 アミノエビデンス155―「きれい」はアミノ酸でつくる 現代書林 大谷 勝(著)
「食とサプリ」で偏差値アップ―高校・大学合格も親次第!! ダイヤモンド社 大谷 勝(著)

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