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体内の自衛隊とも言うべき「免疫システム(生体防御機構)」について考えてみました。

車を運転するのに、エンジン内の爆発力がクランクシャフトに連動して往復運動を回転運動に変えることにより動力を出力するなどという薀蓄などはどうでもよく、アクセルとブレーキの役割と給油口の開け方さえ分っていればカーライフはエンジョイできます。
難しいことは免疫学者や分子生物学者にお任せして、ペットオーナーが知っておいても得はしないかもしれないけど、少なくとも損はしないレベルに設定してあります。


<登場人物>
好中球:特攻部隊(尖兵)
マクロファージ:特攻部隊(尖兵)
リンパ球:自衛隊
(1)Tリンパ球(T細胞):攻撃を指令する総司令官
(2)Bリンパ球(B細胞):ミサイルを発射する戦闘機
肥満細胞:化学兵器を使用する特殊部隊

<免疫システム(生体防御機構)>
「免疫」と聞いただけで拒絶反応を示す人がいるかもしれませんが、単純に「疫病(病気)から免れる」という意味です。我々同様、動物達の体も自分と自分でないもの(非自己=他人)を区別して、自分でないものを排除することで自分の体を守っています体内に侵入した病原菌は「自分ではない他人」として認識され、体内から排除されていきます。「他人」とは例えばノロウイルスや病原性大腸菌O-157などの病原体のことで、専門用語を使ってみると抗原(こうげん)となります。


<「自分」と「他人」の違い>
小学校の時、自分の持ち物には全て名前を書くように教わりましたが、それと同じように動物達の
体内の細胞には、ひとつひとつに「自分のもの」という名札がついています。このため、この名札がついていないものは自分以外のものとして認識され排除されていきます。
臓器移植とは
機能しなくなった臓器を健康な臓器に取り替える治療のことですが、この臓器移植を例にとって考えてみると、「他人」の臓器を移植した場合は「自分」を示す名札がついていないので、「自分ではないもの」に相当します。従って自分の体を守るためにせっかく移植された臓器をも異物として排除(拒絶)するように働きます。


<エリートと呼ばれる由縁>
動物達の体の中でも「免疫」という危機管理体制が確立していることは理解できましたが、体のどこで活躍しているのでしょう。
我々人間も含め犬や猫の体には血管の他にリンパ管という管が広がっており、その管の中にはリンパ球という自衛隊が巡回しており、侵略者に備えて厳戒態勢が敷かれています。
リンパ球はTリンパ球(T細胞)とBリンパ球(B細胞)に大別されます。T細胞は高度教育を受けたエリート集団で、防衛システムの司令塔の役割を果たします。なぜエリートと呼ばれるかというとT細胞は
「自分」と「他人」を厳密に見分ける教育を受けているからです。


Bリンパ球のBの意味とは?>
Tリンパ球を
司令官に例えるならば、Bリンパ球は実際に戦場で戦う爆撃機とイメージしてみます。爆撃機であるBリンパ球は抗体という名の各種弾道ミサイルを生産し、事前にプログラムされた誘導システムによって飛行し、意図された目標に向けてミサイルを発射します。B細胞が製造する弾道ミサイル(抗体)は、免疫グロブリン(Immuno-globulin)の頭文字を取ってIgを使い、それぞれIgG,IgA,IgM,IgEという名前が付いています。これらの現象が連鎖的に反応してついには終戦を迎えます。
余談となりますが、B細胞のBはニワトリの総排泄腔(Bursa)の頭文字から名付けられていますが、ご年配の方は戦略爆撃機B-29 のB、またアニメファンの方はパーマンに出てくるバードマンのBと覚えると理解しやすいかもしれません。


<リゲインのCMから学ぶこと>
全身に張りめぐらされた「リンパ管」を “高速道路”に例えると、 “パーキングエリアに相当する「リンパ節」という部分に先ほどのリンパ球であるT細胞やB細胞がたまる場所があります。免疫部隊はここで抗原に出会うのです。風邪を引いた時などに「扁桃腺がはれた」という人も多いでしょう。これはT細胞やB細胞と抗原が衝突したために起こる炎症なのです。
24時間闘えますか?」というリゲインのCMのようにリンパ球は
動物達の体を24時間臨戦態勢で監視しており、異物が体内に侵入してくるとスクランブル(緊急発進命令)が下ります。


<いざ、鎌倉!>
動物達の体内に異物(抗原)が侵入してくると、まず最初に、「敵が侵入してきたぞ!」尖兵部隊(「好中球」や「マクロファージ」)駆けつけ、異物に対して攻撃をしかけます。さらに仲間も集結し本格的な戦いが始まります。尖兵部隊は外部から侵入した細菌、ウィルス、寄生虫や、さらに老廃物やごみなども食べてしまいます。


<特殊部隊「Tリンパ球」の出動>

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しかし、敵が強力で処理しきれない場合は、尖兵部隊(「マクロファージ」)は侵入者の情報を“司令官”であるTリンパ球に伝えます。

「ついに敵の身元が判明した!この敵に適合したミサイルで攻撃を開始せよ」


という緊急指令を受け取ったTリンパ球(naive helper
T cell :Th0)はただちに戦闘モードに入り、Th1型helper T cell 1)Th2型helper T cell2)に役割分担します。ウイルスや細菌のように小さくて細胞の中にまで入って悪さをするものにはTh1型が活躍し弾道ミサイル(IgG)を発射し、寄生虫や花粉のように大きめで細胞の中にまでは入らないけれど外敵と認識したものにはTh2型にスクランブルが下り、別の弾道ミサイル(IgE)で攻撃を加えます。

<「アレルギー」という名の戦場>

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健常の動物は敵(アレルゲン)が侵入してきても無害なのでミサイルは作られません。しかし、敵(アレルゲン)に反応しやすい素質(アトピー素因)を持つ動物は、敵(アレルゲン)が、体内に進入し続けると、司令塔(Tリンパ球)が過敏に敵に反応し、Bリンパ球に敵を攻撃するよう命令し、弾道ミサイル(IgE)を配備させます。つまり少し専門的な用語を使って説明すると、アトピー素因とは、弾道ミサイル(IgE)を産生しやすい体質のことです。アレルゲンが再び体内に侵入した時に弾道ミサイル(IgE)がこれをキャッチして肥満細胞に結合します。すると肥満細胞に大量に詰まっている“化学兵器” (ヒスタミンやセロトニン)が発射(脱顆粒)されます。このヒスタミンが皮膚の痒みの原因となります。アレルギーの正確なメカニズムは解明されていませんが、ヘルパーT細胞(Th)のバランスの不均衡が深く関係があると考えられています。

つまり、


弾道ミサイル(IgE)を産生しやすい体質=Th1細胞<Th2細胞 → アトピー素因
弾道ミサイル(
IgE)を産生しにくい体質=Th1細胞>Th2細胞 → 非アトピー素因


「免疫」を出来るだけ解りやすくするため、爆撃機やバードマンを例にとって概説しましたが、逆に意味が理解できないという不本意な心境の方も多いかもしれませんが、専門医学用語を乱用して説明すると”アレルギー反応”がでるかもしれません。

仕事でも部活でもお遊戯でも、イニシアティブを取って統括するタイプの”Tリンパ球型人間”と上司や先輩の指示に従い実務を忠実に実行する”Bリンパ球型人間”の双方の連係プレーが「勝利への道」へと繋がっているのではないでしょうか?・・・

はぐれ獣医

   


【監修】
スペクトラム ラボ社 (SPECTRUM LABS, INC) テクニカルディレクター 獣医師 荒井延明

学歴:帯広畜産大学 獣医学科卒業 北海道大学大学院形態機能学専攻  修士課程終了
翻訳:やさしくわかる犬の皮膚病ケア (ファームプレス社刊)