時は2016年8月、場所は都内某所。
所属するサークルの関西組迎撃親睦会の席で、サークル主催者から参加者に「あるもの」が配られました。
その「あるもの」とは俗にいう「旧キット」。
テレビでファーストガンダムが放映されていた当時に発売されていた、接着剤を使用して組み立てる、古き良き時代の牧歌的なプラモデルです。
サラミス艦、ビグロ、エルメス、ゲルググ…バンダイの優秀な金型管理技術の恩恵を受けて、現在も当時と変わらぬ価格と精度で定期的に市場に供給され続ける、まさにGUNPLA THE ORIGIN。
…なんとなく察しはついてました。
この配布が布石だということは。
しかし他にいくつもの選択肢があった中、その時カナルが選んだのは、ファーストガンダムの劇中でも一際異彩を放つ、黄色いモビルアーマーでした。
そのときは、期せずして旧キットが配布された喜びで脳が麻痺していたのだと思います。
でなければ、このアクの強過ぎるアイテム選択があとあと自らの首を絞めることくらい、簡単に予想できていたでしょう。
無意識だったんすよ!
お酒ってコワイ。
「ガンプラモデラーズ」年内最後のコンペのテーマは「旧キット(1年戦争編)」
本当にサークルメンバーには普段からお世話になってばかり。
せめてこんなイベントの時くらいは盛り上げさせていただかないとということで、カナルはこのザクレロで参戦することを決めました。
……本当にどーしよーという気持ちを抱えたまま。
試しにネットで「ザクレロ」で検索してみると、ハイディテールデザインのザクレロが出てくる出てくる…。
求めるモデリングの答えはネットにはないことがわかったので、まずはザクレロのすべてを受け入れるところから始めることにしました。
相手を好きになるには、まず相手の存在を受け入れることから。
念のためにこれが何かといいますと、ガンダムに出てくるメカです。
記録によると、ジオン公国軍がビグロやグラブロに先駆けて初めて開発した宇宙戦用MA(モビルアーマー)がザクレロだとされ、地球のキャリフォルニアベースで重力下試験まで終了していたが…以下略。前回の記事を参照のこと。
そして旧キットとしてモデル化を果たして以来、2016年現在プラキットとしてのリニューアルの機会に恵まれていない不遇のキャラクターのひとつです。
今回はコンペ用のキットとして手がけるにあたり、方向性を決めることから入りました。
結果出た答えは、「カマをとるか身をとるか」
つまり、ザクレロの特徴でもある両手のカマを活かしたモデリングでいくならば、本体は大胆なアレンジを加えて、まるで別物な造形にしないと作品として面白くならない。
でもそれって、もはや元キットで使える部分なんて…バーニアくらい?
もう一つの選択は、「いーや、どう考えてもカマじゃ戦えんだろう。せめてビーム兵器なりシールドなりを与えないとただのビックリドッキリメカじゃないか」
てことで大まかな方向性は決まりました。
コンセプトはあくまでもこの旧キットをベースとし、ここから大きく逸脱したものにするのは避けること。旧キットコンペですから。
そして、少しは兵器として説得力のあるものにすることを念頭に置いて製作に入りました。
で。ザクレロは量産されたという前提で話を進めることにします。
カナルは、個人的には「だって背中にバズーカ付いてたほうがかっこいいじゃん!」とか、「いっそサイコミュ兵器も装備して…」とかいうような、裏付けのなさげなノリだけで改造するのはちょっとなぁ…と。
そういう遊び方も肯定しつつも、一応そこに必然性や裏付けがほしい。
今回でいうならば、公式に「あの」ザクレロがデミトリーによって出撃したというのなら、それは受け入れる必要がある。
ならば、量産されたならばどうか?
「ヒートナタ(カマ)を装備してみたけど、相手に致命傷与える前にやられてしまったな(考えればわかるだろ!)」とか、「ガンダムに背中から撃たれて爆散したから、背後からの攻撃に備えてなんらかの対策は必要(あそこに姿勢制御装置付けてる場合か!)」など。
そして、量産機なればこそ、あの両腕にいろんな武装が装備されたバリエーションが正当化されようというもの。
で、こういうふうに考え方を持っていきました。
連邦が開発したRX-78の優秀さを目の当たりにしたジオン上層部が、それまでの質より量に偏重しつつあった戦争観念を、MAという拠点攻略型・限定された運用条件下に於ける戦果の向上を見据えた戦略にスイッチしていく先駆けとなったのがこのザクレロであると考えれば、その巨体(とはいえMAとしてはコンパクトなサイズであるが)が可能とした大型のジェネレータ搭載による大出力のビーム兵器搭載のメリットは計り知れず、といったところでありましょう。
事実、ザクレロに搭載された拡散メガ粒子砲の技術はその後、移動砲座スキウレに転用されていることなどからも、そのある程度の有用性を物語っていると言えなくもありません。
移動砲台としての戦略的価値と、自衛のための装備がバランスしていれば、実はけっこう戦力になると思うんですよね>ザクレロ
それより何よりあの獅子舞みたいな巨大な黄色い顔面が、複数機高速で突っ込んできたら…そして各々が巨大な武器をワシャワシャ振りかざして 襲ってきたら…
ジムのパイロット達は…オシッコちびるよね。
ロービジ塗装ではなく、戦場で目立つことで相手に心理的な恐怖心を与えるためなればこその黄色という塗色ではないか。
RX-78-2が「連邦の白い悪魔」と呼ばれ畏れられたのなら、ザクレロ部隊だって「ジオンの黄色い恐怖」とかなんとか言われてもおかしくないはず。
ほらほら!
なんだか急にザクレロはすごく必然性のあるMAに思えてきませんか?
こいつを受け取ってからの3ヶ月、ずーっとこんなことを考えながらコンセプトを練ってました。
コンセプトが固まってからはひたすら盛って切って削って貼ってそのまま塗って…
ストックしてあったコトブキヤやらバンダイのサポートパーツをここぞとばかりに使いまくり、ジャンクパーツを切り刻み、黒瞬着をパテ代わりに盛り付けて硬化促進スプレーを吹きまくり、240番の紙ヤスリでバリバリと段差を消して…
それが終わったら即塗装。
パーツ洗浄などすっ飛ばし、歯ブラシとハンドピースの空吹き豪快にプラの削り粉を飛ばしただけ。
造形作業には新調したハイパワーリューターが大活躍です。
で、ハイパーカットソーの刃こぼれを乗り越えて、虹の彼方へ…
てことで、部分画像とともに、作品を振り返りたいと思います。
まず目を付けたのは、両腕。
陸戦用ならいざ知らず、仮にも宇宙空間用の兵器の近接戦闘用の武装が「カマ」というのは現実的ではないように思います。
そう、いくら「ヒートナタ」といういかにもな武装名が与えられていたとしても。
ここは思い切って新造しましょう。
まずは適当に説得力のありそうなマニピュレーターを見繕ってフィッティング。
ジムの胴体を捻り潰せればOKです。
それにザクレロには、通常のMSタイプの腕は似合わないでしょう。
デンドロビウムにおけるオーキス的な発想から、背中にザクを埋め込んで様々な武装を扱う…という案も思い浮かびましたが、それってザクレロじゃなくても成立するよね、ということになり、廃案。
胴体との付け根の接続部分は適当なメカパーツを組み込んだほうが見栄えが増しそうですが、旧キットに無駄にパネルラインなどのディテールを追加するのは野暮というもの。
ディテールダウンの方向性で直接イモ付け。
ああ恐ろしい。
今回は単純にストックしてあったジャンクパーツからそのまま流用しましたが、それは考えるのが面倒だったから…ではなくて、キャノン部分の基部が、両腕で異なる機能を持たせるというコンセプトに合致したから。
すなわち、右手はレールガンのエネルギーサプライケーブルとして、そして左手はいうまでもなくビームサーベルの発振基部として。
ここがシンメトリーだとボール的なシルエットになって異形感が薄れるので、最初からこんな感じをイメージしていました。
同時に実際に運用されたことを想定して武装を選定していきます。
脚部に装備された大型のブースターで一気に敵の喉元まで迫り、敵の戦艦に、口内に仕込んだ大出力のメガ粒子砲を打ち込んで轟沈、そこから全力で離脱。
拡散メガ粒子砲を装備、というのがザクレロの設定ですが、1年戦争末期にはジオンも収束型のメガ粒子砲の開発に成功していたので、このザクレロにはより攻撃力の高い新型のメガ粒子砲を装備。
向かってくる敵には、右腕に装備したレールガンと、左腕のビームサーベルで対応。
レールガンがガンダム世界の表舞台に姿を表すのは、SEED系のMSの登場を待たねばなりませんが、原理自体は宇宙世紀以前の西暦1970年代には既にその概念が存在していたため、ミノフスキー理論を発見したミノフスキー博士により熱核融合炉の小型化を実現したジオン軍には、それほど実装までに時間を必要としなかったと考えられます。というか、ぶっちゃけ「ザクレロ」はいくらなんでもないだろうと。
レロってなんだよ、レロ、レロ…レール…ん、ザクレール、これならなんとかいけそうだナというところから今回の方向性が決まったというのは真面目な話。
機体容量に余裕があるので、大容量のコンデンサを搭載しており、ビームサーベルはガンダムタイプのそれに対し、おおよそ140%ほどの出力を確保することで、射程もより広範囲に。
左腕と右腕では通常のMSタイプとは異なり、それぞれ使用目的に特化した機能を与えてあるため、ショルダーの形状も異なります。
レールガンを装備した右腕は、ピッチング方向とロール方向への射角調整のための僅かな可動が確保できれば問題ないため、ショルダーフレームそのものを剥き出しにしたような形状を、対してビームサーベルを発振させるための左腕には、三次元的な動きを阻害しないために、シーリング処理されただけの簡素なディテールに留めた形状を与えました。
機体の構造上、手薄になりがちな背面の敵に対しては、機体上部に2門装備された拡散型ビーム砲で応戦。
本来この場所には姿勢制御用のバーニアが装備されていましたが、実際の戦闘ではMAはそれほど下方向への方向転換は必要としないため、空いたスペースに自衛のためのビーム兵器を搭載することに。
ブースターユニットは前後に長く。
元キット比で2.2倍ほどの推進剤を装備することになりました。
パイロットには生きて還ってきてほしいのです。
機体下部には、下顎を模した装甲板を装備。
この装甲板は、口内のメガ粒子砲の整備のための大型メインテナンスハッチと搭乗のためのタラップを兼ねており、ヒンジで開閉する構造を有しています。
特徴的な目の部分には、ハセガワフィニッシュシートの限定品、「偏向フィニッシュ」を使用しており、見る角度によってマジョーラカラーのように光ります。
カラーリングはトーンを落とした色調でまとめ、マーキングはシンプルに留め、旧キットの良いと思われる点を残して仕上げました。
今回は、制作に入る前に打ち立てたコンセプトをほぼそのまま引き継いで形になったので、ほっとしたと同時にプランニングの大切さを再確認しました。
てことで、旧キットコンペ出展作品、ザクレールの解説記でした。
作っていくうちに、なんだかザクレロさん(やっぱりさん付けで呼びたくなる…)のことがだんだん好きになっていきました。
好きになるには、まずはやっぱり相手のことを受け入れなくては、ね。