私は神さまについて
掘り下げて考え、神秘的なこと
ばかりに知識を蓄えるより
「法」や「金」の知識を得る方が
よほど人生を生きやすくする
と考えるところがある。
「法」や「金」はこの世の中の
大枠や流れを作っている。
これこそ、
“人生はままならぬもの”
ということを
神が知らしめるため
作っているように思うから、
これを使い切ったほうが
より人としての高みに上がれる
ように思うのだ。
そしてもう一つ、
己の成長のために
ビジネスルールや
会社の規則といったものも
識っておく必要があると
思っている。
ここにもまた世の中での
生き抜き方を知らしめる
出来事があるからだ。
私は、およそ3億円の穴を
あけたことがある。
要は回収できなかった。
なぜ、こんなことが起こったのか
ここに詳しく書けないが
契約書だの政治的立ちまわりだのと
リスクヘッジを重ねても
そんなことは起こった。
その仕事は、
役員直轄のプロジェクトだった。
2年越しのプロジェクトは
常に暗雲立ち込め
撤退することを度々進言してきたが
社運をかけるという大義名分のもと
誰かのメンツを守るため
社内はブレーキをかける
冷静さを失っていく。
業務の後半は、
リスクをどれだけ最少化できるか
という話ばかりだった。
号令をかけ、前進を叫び続けた
役員は“撤退”という英断を
下すことなく私たちは、その大きな
損失を創り上げたかっこうになる。
この世の中には
反吐が出る様なビジネスをする
輩がゴマンといる。
契約書や法律、ルールやマナーも
無視をしてくる相手だ。
不満をたれても仕方ない。
強い者が、金を制する者が
ビジネスでは勝つというだけの話で。
やつらの“質が悪い”と言えば
まだ聞こえがよく
ただ、こちらが世間知らずで
ウブで、全てが後手に回った
下手を打っただけの話だった。
私は当時、この事態が腹立たしく
気でもおかしくなったかという程、
相手を攻撃しようとしたが
打ちのめされるだけだった。
相手の無謀や野心が
こちらの無用なプライドや保身に
合いまって、つけ込まれ
化け物のような仕事になり
大きなを欠損を招く。
損失とはこのようなものだろう。
結局、お互い様という話だ。
今となっては馬鹿な話だが
綺麗な仕事の仕方しか
知らなかった自分たちは
ルールを用いない相手を
自分たちの知っている
ルールに乗せることが
“正しい”とばかりに
躍起になって、無駄な時間を
費やしてしまった。
私はこのビジネスの本質を
見抜けていなかった。
ビジネスには
「マナーやルールなんて、ない」
というルールがある。
これはとても不条理で不合理だ。
相手の落ち度に付け入ることが
正当化され、まかり通る。
無理を通せば道理はひっこみ
自分たちの知っている
ルールは無用なものに変化する。
こういったビジネスルールは
物事の道理や社会的規範、
法律とも少し違うところにあって
一見、神が示した道理からは外れるが、
これもまた神が仕掛けている
ことのように思う。
なぜならこのルールは
最も無視できない存在として
私たちの目の前に
常に横たわっているからだ。
命のために、人は働く。
そのために必要なルールと思えば
綺麗なだけでは通用しない
ビジネスのルールをよく把握し
いちいち正論など吐かず、
“渡り歩いていく”
ということが必要だろうと思う。
私はこの仕事を通じ
そんなことを見せられ、
この体に叩きこまれ
人としての成長を求められた
と感じている。
『倒産情報』
というタイトルで
メール速報が届く。
こんな時、よく思い出す
女性の姿がある。
その日の上司は、とても正統な
トレンチコートを着ていた。
コートを着ながら上司は
まだ20代の私に
“こんな仕事もあるよ”
という意味で君もついておいでと
私を外に連れ出した。
上司の言う“こんな仕事”とは
債権者として未回収の代金を
債務者に回収に行くという仕事だった。
そのクライアントが
どのような状況で倒産したか
覚えていないが
そろそろやばいねという話は
業界に流れ、各社担当は
業務の縮小に躍起になっていように思う。
トレンチコートは
暑くないのかな
そんな風に思いながら、上司の後ろを歩き
電車を乗り継ぎ、北関東の小さな駅に
着いたのはもう昼過ぎ。
東京とは違って、空気は澄み
風もひんやりとしている。
車にも乗らず
延々国道を歩きながら
所在がつかめなくなった、オーナー家族の
居場所をどのように突き止めたか
そんな話を上司がはじめた。
経営者には私立の名門高校に通う
お嬢さんがいるそうだ。
その学校の前で、幾人かの
債権者たちは娘を待ち伏せる。
白亜の豪邸と言うような
邸宅に帰り続け、やがて
違うルートをたどる。
彼女が学校を辞めるまで
後を追い歩き
この居場所を確認したんだよ。
娘の跡をつけるなんて酷だよね
そんな風に上司は笑い
国道からそれて、砂利道に曲がる。
灰色のトタンでできた塀を伝うと
小さな平屋の家が現れた。
小さな市営住宅。
上司は礼儀上ブザーを押して家主を呼ぶ。
儀礼的だったのは
冬だと言うのにその家の
扉は開け放たれていたからだ。
現れたのは、その経営者の妻だった。
消え入りそうな声で
「お金がありません」
という。40代半ばであろうその人は
ずいぶん老けこんで、存在感がない。
「1万円でも、2万円でもいいんですよ」
そう説明する上司。
「お金がない、お金がない」
そう蚊が泣くような声で答えた続けた女。
スパンコールが縫い付けられた華やかなデニムと
「ほらお金がないでしょう?」と見せる
ガマ口の財布のコントラストは
とても奇妙だった。
30分くらいそんなやりとりだったそうか。
女は、部屋の中に消え、しわくちゃの千円札を
その細い指でつまみ、ひらりと差し出した。
目を合わせるでもなく
「これで許してください」といった彼女。
私は、ただ上司の後ろにつったっていた。
初めて見た、豊かだった女の
跡形もない姿に目を見張るような
それでいて、その女の顔を覚えていない。
顔のない、ゆらゆらと揺れる影の
ような印象しか覚えていない。
それよりも、その玄関に
脱ぎ散らかしてあった
靴の多さだけ鮮明に覚えている。
玄関の外まであふれかえる
男の靴、女のサンダル、子供の運動靴。
まるで、夏の日の賑やかな大家族
という風なのに、あの日は秋が終わる
そんな一日だった。
倒産情報を私に転送するのはリキシだ。
まだ仕事をしている時、
私はそれを利用していた。
リキシは日ごろから私を眺め
「君の一番の不安要因は
“金”がなくなることだね」
と分析する。
私は、あの日、豊かな場所から
転落した女を見て、恐怖心を持った。
そして、母子家庭を営む我が身に
貧しさが忍び寄るのではないかと
恐れおののいた。
だから、リキシが言う通り
私は“金”がないということを
極端に嫌う面がある。
そしてもう一つその女の
玄関先での愚鈍なやりとりに
私は苛立っていた。
この女が、少しでも自分の身を守る
そして子供の環境を守る法律上の知識や
金にまつわる知恵があれば、
その母子の人生も
変わったのではなかろうかと
腹立たしく思えたのだ。
女が幸せに暮らそうと思えば
ある一定の経済力が必要だ。
社会的な規範の中で
どうやったら我が身の環境が
保全されるか、
もしくは最少リスクで
乗りきれるか
知っておくことは重要だと思う。
そう言った意味で
「法」を識る、「金」を識ることは
女の人生を助けてくれる事があると
私は信じているところがある。
というタイトルで
メール速報が届く。
こんな時、よく思い出す
女性の姿がある。
その日の上司は、とても正統な
トレンチコートを着ていた。
コートを着ながら上司は
まだ20代の私に
“こんな仕事もあるよ”
という意味で君もついておいでと
私を外に連れ出した。
上司の言う“こんな仕事”とは
債権者として未回収の代金を
債務者に回収に行くという仕事だった。
そのクライアントが
どのような状況で倒産したか
覚えていないが
そろそろやばいねという話は
業界に流れ、各社担当は
業務の縮小に躍起になっていように思う。
トレンチコートは
暑くないのかな
そんな風に思いながら、上司の後ろを歩き
電車を乗り継ぎ、北関東の小さな駅に
着いたのはもう昼過ぎ。
東京とは違って、空気は澄み
風もひんやりとしている。
車にも乗らず
延々国道を歩きながら
所在がつかめなくなった、オーナー家族の
居場所をどのように突き止めたか
そんな話を上司がはじめた。
経営者には私立の名門高校に通う
お嬢さんがいるそうだ。
その学校の前で、幾人かの
債権者たちは娘を待ち伏せる。
白亜の豪邸と言うような
邸宅に帰り続け、やがて
違うルートをたどる。
彼女が学校を辞めるまで
後を追い歩き
この居場所を確認したんだよ。
娘の跡をつけるなんて酷だよね
そんな風に上司は笑い
国道からそれて、砂利道に曲がる。
灰色のトタンでできた塀を伝うと
小さな平屋の家が現れた。
小さな市営住宅。
上司は礼儀上ブザーを押して家主を呼ぶ。
儀礼的だったのは
冬だと言うのにその家の
扉は開け放たれていたからだ。
現れたのは、その経営者の妻だった。
消え入りそうな声で
「お金がありません」
という。40代半ばであろうその人は
ずいぶん老けこんで、存在感がない。
「1万円でも、2万円でもいいんですよ」
そう説明する上司。
「お金がない、お金がない」
そう蚊が泣くような声で答えた続けた女。
スパンコールが縫い付けられた華やかなデニムと
「ほらお金がないでしょう?」と見せる
ガマ口の財布のコントラストは
とても奇妙だった。
30分くらいそんなやりとりだったそうか。
女は、部屋の中に消え、しわくちゃの千円札を
その細い指でつまみ、ひらりと差し出した。
目を合わせるでもなく
「これで許してください」といった彼女。
私は、ただ上司の後ろにつったっていた。
初めて見た、豊かだった女の
跡形もない姿に目を見張るような
それでいて、その女の顔を覚えていない。
顔のない、ゆらゆらと揺れる影の
ような印象しか覚えていない。
それよりも、その玄関に
脱ぎ散らかしてあった
靴の多さだけ鮮明に覚えている。
玄関の外まであふれかえる
男の靴、女のサンダル、子供の運動靴。
まるで、夏の日の賑やかな大家族
という風なのに、あの日は秋が終わる
そんな一日だった。
倒産情報を私に転送するのはリキシだ。
まだ仕事をしている時、
私はそれを利用していた。
リキシは日ごろから私を眺め
「君の一番の不安要因は
“金”がなくなることだね」
と分析する。
私は、あの日、豊かな場所から
転落した女を見て、恐怖心を持った。
そして、母子家庭を営む我が身に
貧しさが忍び寄るのではないかと
恐れおののいた。
だから、リキシが言う通り
私は“金”がないということを
極端に嫌う面がある。
そしてもう一つその女の
玄関先での愚鈍なやりとりに
私は苛立っていた。
この女が、少しでも自分の身を守る
そして子供の環境を守る法律上の知識や
金にまつわる知恵があれば、
その母子の人生も
変わったのではなかろうかと
腹立たしく思えたのだ。
女が幸せに暮らそうと思えば
ある一定の経済力が必要だ。
社会的な規範の中で
どうやったら我が身の環境が
保全されるか、
もしくは最少リスクで
乗りきれるか
知っておくことは重要だと思う。
そう言った意味で
「法」を識る、「金」を識ることは
女の人生を助けてくれる事があると
私は信じているところがある。
今日、思い出しちゃった。
朝から病院に行っていて。
あの独特な匂いを感じた瞬間。
昔、腸の調子が悪くって
病院に行ったのよ。
品のないお話になるのかしら。
完璧に美しくメイクして
そこそこ小綺麗な服装で
診察に向かってしまう、私は
まだ若かったわ。
出てきた先生が
それはそれはオトコ前で
程よい筋肉質
足が長くて、グレーの上質な
パンツに、白シャツブラウスを
着ているだけなのに
センスがいい男はかっこいいのね。
眼鏡が素敵ね。
眼鏡に弱いのよ。
あー電話番号ぉ教えてぇくれ。
そんな、そんな。
「じゃ、下着取って
こっちにおしりむけて寝てください」
“触診です”
美しいあなたの指が、
その穴じゃない穴に
わけ入ってくる。
あーっ違う場面で
あなたと出会っていたならば。
恥ずかしさで違う自分になりたかった。
静かな時間が流れてたね。
ついに私は口を開いたよ。
だって時計はお昼を告げていたから。
「先生、昼食に、カレーうどんとか食べたりするの?」
「カレーうどん、えぇ、食べますよ」
力強く答えるあなたを
変な姿勢で見つめた私。
「すっごいですねー」
そんな風にしか答えられなかった。
どうしてこんなことを突然
こんなこと、思い出したのかしら。
秋なのに暑い、病院の帰り道。
彼は今でも、元気かなー。
病院っていつも苦い思い出を
少しだけ体験させてくれるのね。
なんだか、切なくて
リキシを羽田まで
突然迎えに行ってしまったわ。
下品な話になってしまったわ。
全く違うお話を用意していたのにね。
では、おやすみなさい。
朝から病院に行っていて。
あの独特な匂いを感じた瞬間。
昔、腸の調子が悪くって
病院に行ったのよ。
品のないお話になるのかしら。
完璧に美しくメイクして
そこそこ小綺麗な服装で
診察に向かってしまう、私は
まだ若かったわ。
出てきた先生が
それはそれはオトコ前で
程よい筋肉質
足が長くて、グレーの上質な
パンツに、白シャツブラウスを
着ているだけなのに
センスがいい男はかっこいいのね。
眼鏡が素敵ね。
眼鏡に弱いのよ。
あー電話番号ぉ教えてぇくれ。
そんな、そんな。
「じゃ、下着取って
こっちにおしりむけて寝てください」
“触診です”
美しいあなたの指が、
その穴じゃない穴に
わけ入ってくる。
あーっ違う場面で
あなたと出会っていたならば。
恥ずかしさで違う自分になりたかった。
静かな時間が流れてたね。
ついに私は口を開いたよ。
だって時計はお昼を告げていたから。
「先生、昼食に、カレーうどんとか食べたりするの?」
「カレーうどん、えぇ、食べますよ」
力強く答えるあなたを
変な姿勢で見つめた私。
「すっごいですねー」
そんな風にしか答えられなかった。
どうしてこんなことを突然
こんなこと、思い出したのかしら。
秋なのに暑い、病院の帰り道。
彼は今でも、元気かなー。
病院っていつも苦い思い出を
少しだけ体験させてくれるのね。
なんだか、切なくて
リキシを羽田まで
突然迎えに行ってしまったわ。
下品な話になってしまったわ。
全く違うお話を用意していたのにね。
では、おやすみなさい。