わたしは、時々
わたしの、もうひとつの人生を
もの思うことがある。
それは今の自分と
全くかけ離れた人生
と言うのとは違って
わたしの傍で、
寄り添うように存在する。
少しだけその姿を変えて
存在するパラレルな
世界だったりする。
あの時、こうしていたら
あの時、あれを選択していたら
あの時、あれが叶っていたら
少しだけ叶えられなかったことが、
その世界では叶い
今この世界で顕在化し
救われていることが
まだ隠れたままに
なっていたりしている。
わたしはその世界を時々想い
そこに住まう自分に話しかけるのだ。
昨日から
娘は高校の部活の遠征に出かけ
時同じく、リキシは長期の
海外出張に出かけてしまった。
わたしは本当に久しぶりに
ひとりになった。
早朝娘をあわただしく送り出し
「今日のお昼、一緒にだべられるよ」
と言うリキシの電話に
あわただしく銀座に出た。
今回の出張はひとりで出かける
ということだから
そのまま成田空港まで見送り
そして一人家路につく。
マンションの扉をひらくと
そこは真っ暗で
物音のひとつもなく
空気が静かに静かに沈殿していた。
そのまま
リビングに向かい
身に着けていたストールを
椅子にかけ
やっと灯りをともす。
自分以外の体温のない部屋。
「あの時、娘を生む選択をして
いなかったら、わたし毎日
こんな風だったのかしらね」
ともう一人のわたしに話かけてみた。
「あなたが独身ということ?
あったかもね、
仕事ばっかりしてるんじゃない?
そのまま大病してたかもよ。
でもね、でもあのヒトと
結婚してるでしょ、わたし」
と返答されて。
当時の別れ道まで記憶をたどる。
そうね、もう一人の自分に
幸せを持って行かれることが
多かったわ、わたし。
灯りのともった部屋には
荷造りをした娘が
出しっぱなしに
散らかしたあれこれが
点在している。
まったくと呆れながら
拾って歩く。
彼女のTシャツを拾いながら
このどうしようもなく
言うことを聞かない娘を愛しく想い
わたしのための
夕食の準備にとりかかる。
あの頃想像できなかった幸せが
ちゃんとここにある。