私は、父や母に
嫁入り前のひと時
というものを
経験させてあげることは
できなかった。
電話で
「妊娠しました。
生んでいいですか?」
と聞いて、
そのまま入院してしまい
元夫と並んで
恭しく両親に挨拶などと
いうことはしなかった。
生んでいいと
即答した父も
腹の底では苦々しく
怒りたい気持ちも
あったろう。
父は「出産」と「結婚」は別と
考える節もあったが
この結婚に際して
元夫の実家を興信所を使って
調べ上げた。
急場をしのいで
選んだ興信所だったせいか
すぐに相手の知れ渡ることになり
相手の両親も激怒する。
父は、娘を嫁にやるのに
家柄や血筋を、どのような家か
調べるかは当然だと意を曲げず
彼の両親は、その慣れない状況に
困惑し、プライドが傷つき、
怒りがおさまらない。
両家はもめにもめていた。
それが私の結婚の最初。
今になって、両親と
嫁入り前の緩やかな時間を
過ごしていたら
それはとても幸せな
思い出だったろう
と思うことがある。
受け継ぐべき母の味や
育ててくれた父の想いを
知る時間。
育ってきた時間を遡り
自分を確かめ、
嫁ぐ日が来る。
そんな親孝行ができなかった。
私は自分の体調の悪さに
考える思考もなく
病院ベットに横たわるばかり。
もうすぐ桜が咲く季節。
藍白とでもいうのか
そうだvertd'eauという色の
地色に上品な柄の入った着物と
それに合わせた帯が用意されていた。
父には、突然の娘の結婚に
様々な想いがめぐっていただろう。
苛立つ気持ちが声に出て
母を困らせたように聞いている。
その父が、ある日ふらりと街に出て
京都から出てきたという呉服屋に入り、
父が思うこの逸品という着物と帯を選んだ。
後日母を同行させ
細やかなあれこれを一通りそろえ
私の嫁入り道具とした。
何よりも早く
嫁入り道具として用意されたのは
その立派な着物で、
それは本当によく似合うと
褒められた。
父が選んだその着物は
今実家に預けている。
そろそろ手元において
着て見たくなった。