男と女の恋のお話。
私は“世界の”と枕詞がつく男と付き合っていた。
確かに、この男の実績は賞賛に値し
その賞賛に比例して魅力あふれる男だった。
大胆で繊細で、少し臆病。
会話の間合いが独特で、
毒もあればその中に優しさもあった。
ウィキペディアに書かれた自分の説明文が
あまりに散々で、繊細に傷つき、高きプライドを持って
自分で書き直してみたりする、いじらしさもあった。
ビジネスにおいて
“100あるものを100伝えてはいけない”
なぜなら、相手に考えさせる時間と余白が
相手の“ほしいと思う欲求をくすぐる”に必要だから。
と常日頃から言う人だった。
この男、ビジネスもすごかったが
女の扱いも、なかなか味なものがあった。
少しだけ好きに“なりすぎ”そうになった私。
その気配が漂い始めた頃、
妻子ある彼が言った。
「よくさ、彼女がね、
「浮気しないで」って言うんだけど
でも“お前も浮気”だって話なんだよね~」
妻以外はすべて浮気。
どんな会話の流れだった覚えていない。
そんなことは関係ない。端的な結論に
「そうね」とだけ答えただろうか。
このフレーズだけで、私はそれ以上
彼に深入りすることは避けられた。
自然と抑制することができた。
不思議な関係はしばらく続いたけれど
彼と私はいつしか友人になることができた。
このろくでもない男は
修羅場なく、さりげない会話で私を制した。
それが優しさからなのか、臆病ゆえなのか
今となってはわからないけれど、
決して憎めないいい男だった。
100あることを100伝えてはいけないというお話。
これは言いかえれば“100が何か”を
知らなくてはコントロールできない。
彼は私にあえて打つ手のない、考える余白のない
100の情報を、あの時私に与えたのではないかと思う。