祈るまえに、恋をして。

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欲望とか
欲望の果てとか
まるで矢沢永吉の
世界観みたいだわと
先日書いたブログの
タイトルを見ながら。

2つ記事を書いたのだから
さくさくと3つ目もと
思っていたら
我が屋のエアコンが
壊れてしまい
地獄の果てみたいな
数日を過ごしていた。

なんていうの。
普段ね
そんな風に
書いたりしないけどさ
けっこうスカシタ
生活をしているわたしがね
もう小奇麗なんて話じゃないのよ
うーんと綺麗にしてる
わたしがよ

エアコンが壊れるのよね。
なんかね

Vちゃん、だっさっ。
ださい。かっこわるー。

このマンションに
引っ越すとき
ねぇVちゃん、もう1機
エアコンいるよ
ちゃんとつけてね
とリキシさんが言って
いたのに

わたしはうんうん
すんすん聞くふりして
エアコン好きじゃないもっ
って、言いつけを守らなかった。


エアコンが壊れた日の朝も
Vちゃん、ホテルを取るから
修理できるまで
そちらに行ってと
言ってくれたけど
そんなことそんなこと
荷物つくんのめんどくさーい
と、のらりくらりと返事を
はぐらかし言いつけを守らなかった。


後悔したのは暑さで眠れぬ夜のこと。
今度ね、リキシさんが言うことは
ちゃんと聞きますよ。
わたし。
皇居に棲むと駄々をこねる
というけれど

その時わたしはなんて
リキシさんに返事しただろう。

タクシーは霞が関から
皇居に突き当たると
ゆるやかに右折し
銀座を目指す。


深々と繁る緑の奥にあるパレスで
やんごとなきご夫婦は
今日も静かに
お過ごしであろうか。




あれはいつだったか
わたしの通う女子校に
このご夫婦を
お迎えすることがあった。
まだ父帝在位の時代にね。

必ずや前日は生徒総出で
お出迎えのリハーサルがあり
一糸乱れぬ整列を求められ
ついでに、頭髪や制服、はては
下着の色や上履きの汚れ具合まで
厳しいチェックを受ける。


必ずやあの“庁”の者たちが
やってきてご夫婦の立ち位置に
その身をもって代わり立ち
いっせいに手を振るわたしたちを
一瞥するのだ。

手を振る時は
脇をしめ
右手指先を顎から上に
出してはならぬ。

微細にいたるお達しは
守らねばならぬものだった。


御車が正門につき
両御方が外に出られたのを
見計らい、いっせいに手を振る。
美しき作法にのっとって。

あの時歓声などあげただろうか。
あげてはならぬだったっけ。

そう思いながら
タクシーの中で
リキシさんにむけて
正しい手の振り方を
伝授してみせた。

ほうらね、ほうらね。

あら、知ってる?
手を振る時は
指の間をあけたら
叱られちゃうのよ。


リキシさんは
たいていあきれ顔で車窓
に目を移し、そして言うのだ。

ひとの話、聞かないよね。


そうだろうか。
話はちゃんと聞いているよ。
皇居になんて興味ないよ。

だってそれ
買えないじゃない。
「君の欲望は果てしないよ、
そのうち君は皇居に住みたい
と言いだすだろうさ」


と、リキシさんが言ったのは
ちょうどタクシーが皇居に
さしかかった時だ。


港区に住めば
そのうち南麻布限定といいはじめ
そのうち番町麹町にも棲みたがり
果ては皇居に住まわせろと
言うほど、君の欲求は果てなく
金がかかるということが
言いたかったらしい。


魅惑の一等地。




親にしか予見できない
子の未来というものがあるのだろうか。


わたしは父の経済力が
隆盛を極める時期に
少女時代を過ごした。
何事も贅沢に育てたは
いいけれど、気がつけば
このようなありさまで
一般のサラリーマン家庭を
守る賢妻にはなりえぬと
心底悩んでいた。


贅沢好みを指しては
お前を養える年収がある男が
この世にどれほどいる?
と、問いかけては
足るを知りなさいと説き

ほしいものができた時の
わたしの執拗な交渉に
閉口しながら
諦めることも覚えなさい
と諭し続けた。

結婚するときなど
挨拶に訪れた元夫を一瞥し
お前の好みの男では
なかろうにと言い。

お前の好みはもうすこし
ずんぐりして大柄で
身長はこれくらいで
年上でしっかりしたかんじの
経済力がある・・・云々。

だからおまえ、
離婚するような気がするが。



あの時の父は、
わたしのどのくらい先の
未来を見て予見していたんだろう。



リキシさんと喧嘩するたび
「あーっもうっ他の人と結婚する!!!」
と言って暴れるのはわたしだ。

そう言うたびに
ひんやりと
君を養える人はあんまりいないよ
と言うリキシという人は
あの時父が明言した“男”の姿に
そっくり重なる。

そう引き継ぎでもしたように
そっくり重なる男は
わたしの果てない欲望を
やんわりとごくやんわりと
たしなめるのだ。

わたしはぷいっと
よそ見する。

僕はね、君のお父さんに文句を
言いたいんだ。

どうやったらこんな怪獣育つんだよ。


そう言う頃には
銀座の街に
タクシーが滑り込む。