咽喉頭外傷、と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。


比較的稀なものですが、救命できたものの、後になって咽喉等の瘢痕、狭窄、音声障害や嚥下障害などが明らかになる場合があります。

外傷の程度によっては頸部からの経皮的な胃チューブ挿入や気管カニューレの装着をされていたりします。


さて。

今回は、舌骨骨折に伴う嚥下障害について書きたいなと思います。


舌骨の骨折。

これも稀です。


舌骨は喉頭(のどぼとけ)の上に位置する、三日月型の小さな骨です(ざっくり言った)。

手足の骨と違い、舌首の筋肉で吊るされているような感じで、飲み込んだり、舌を動かしたりするときに連動して動きます。


その位置、それから筋肉で吊るされている、という特殊な骨なので、可動性に富み、通常、骨折することはありません。

舌骨骨折は絞首か、特殊な外傷(暴力など)が多いようです。


回診で初めて「この人舌骨骨折なんだ。なんか、誤嚥してるみたいだから、STさんよろしくね」と言われたとき、


私は「はっ?」て思いました。


STであれば、舌骨が嚥下で重要な役割を果たしていることは解ると思います。

嚥下の分野では、舌骨の上下についている、所謂「舌骨上下筋」の働きがとても重要といわれています。

この筋肉がうまく動かないと、「ごくん」の力が弱くなってしまい、食べ物が気管に入りやすくなってしまうからです。

しかし、筋肉そのものの筋力低下や、麻痺などの問題ではなく、

骨の問題は聞いたことがなかったので、

「はっ?」となったわけです。


教科書を開いたって、載っている訳がない。

論文を調べても、STからの報告は皆無で、多くは救命医や耳鼻科医からのもの(嚥下について触れている論文はない)。しかも当時、調べても調べても日本語の論文は数本しか出てこなかった。


あーあーあー。手探り状態、でした。


幸い舌骨の一番太い中央部(体部)の骨折ではありませんでした。

救命医いわく「折れてても場所的に動かすしかないから。気にせずやって!」ということだったので、

早速初診。


舌骨骨折した人の嚥下時の舌骨挙上を触診したとき、これまた衝撃を受けました。

右と左で動きがバラバラっていうか…階段上ってるような、ガクガクした動きっていうか。

舌骨を左右から圧迫してみると、噛み合わないし、水平に動かない。

筋肉が頑張ってくれているおかげで何とかバランスとってる?というような。

患者さんは「痛くないけど、へんな感じ」と。

水は、むせる。ゼリーもむせる。


えーと。リハビリ的にどうしたらいいの?


しかしやるしかない。


折れてるからって、唾液は飲まないといけないわけだし、

筋肉は問題ないんだから、動かさないと硬くなっちゃいますよね。

それにこの人の場合は、咽喉頭の粘膜損傷はないので、むせる=誤嚥てわけじゃなさそうでした。


とりあえず、少量の水からトライ。

リハビリは飲んでもらうことくらいだったので、毎日嚥下機能評価を行いました。


最初ガタガタだった喉頭挙上は10日ほどでだんだんと整ってきました(CTでは折れたままだったけど)。

慣れてきた、のか。回復の原因は解らないながら、しだいに挙上の範囲も改善されてきました。

むせ方も軽くなってきたので、それにあわせて食上げ。

だいたい2週間くらいで、嚥下障害は消失しました。

まあ、筋肉の動き問題ないから、それもそうなのかもしれないけども。


舌骨の左右運動は相変わらず噛み合わない感じでしたが、上下運動はスムーズに。

その患者さんは、舌骨が左右で離れたまんま、退院してゆきました。



と、上の患者さんは純粋に舌骨骨折だけでしたが、

これに粘膜損傷などが重なるほうが多いので、あまり参考にならないかな・・・


学会発表しようかと思いましたが、VFもやってなくて、トントンと良くなっちゃったので、してません。

したかった…