わたしがこの劇場で投光をやるようになってからもう30年も経つ。

この劇場と一緒にこの地域を盛り立ててきたという自負もあるし、劇場が私の人生と言っても過言ではないだろう。

まあ、今はわたしのような職人気質の人間はだいぶ少なくなってきたが・・・


この仕事を選んだのはどうしてかって?

それはな、学生の頃、ふとしたきっかけでふらっと立ち寄ってみたのさ。

そのときは若いがゆえに、性風俗に対する興味しか頭になかった。

しかし・・・わたしは場内に入ったとたん、立ちすくんでしまった・・・

それは言葉では表せないほど、本当に素晴らしい世界だった。

華やかな女性たちが一生懸命に舞う姿に釘付けになった。

そして同時に、「華やかながらも日の当たらない場所で頑張る踊り子にせめて一時だけでも綺麗な光を自らの手で当ててみたい」そう思ったのさ。

ただ、その時は学業に専念しなければならなかったし、投光の仕事の空きがあるわけでもなかったからその場は何もなく終わった。

やがて就職して数年会社員として勤めたが、どうしてもあの光景が忘れられなかったんだ。

そして再び、あの劇場へ舞い戻った。

あの劇場、つまりここのことだな。

でも30年も経つと劇場も色々と変わるもんだ。

劇場自体の改装もあったし、ライトや照明も進化してきたよ。

今はLEDっていうのもあってな・・・

最近ではロビーにメイドさんのお店っていうのもあるんだよ。

そこのバナナジュースが絶品でな・・・



(話が長いので中略)



まあ、つまり、進化しているのは社会だけではないってことだ。(鼻高々に)

ここ最近では、S々木っていう前に漫才をやってた人間が入ってきてな、複雑な機械で色々と映像を作ってるんだが、なかなかどうして大したものでな。

でも、前と比べてライトを当てるのが難しくなってきて油断ができなくてなぁ。

プロデューサーにも若いにいちゃんが入ってきて新しいことを色々と試しているが、奇才っていうのは、ああいうヤツをいうんだろうな、きっと。

お、もうそろそろ時間だ、それじゃあな、楽しい時間を過ごせたよ。


~開演直前~


「場内は携帯使用禁止って書いてるだろうに、またピンスポを当てなければならん。もう少し注意書きを目立つように書いておいたほうがいいかもしれないな。」



携帯を使用している客の手元が鮮やかに円状に美しく照らされた。




~○景のベッドパートにて~


「また、あの本舞台かぶりの客はメモ帳に何やら書いているな。何を書いてるか知らんが、今は本当に変わった客も増えたもんだ。投光のわたしと目が合う客なんて、30年やってきて初めてだ。」


前盆でベッドを披露する舞姫を座席から振り返るその客の視線は、どこか上向きのように見えた。


「今度、メモ帳を照らしてみるか、LEDだと青白く光るから面白そうだな。」



終わり





※登場する人物や場所は架空のものです。

  内容に関しては適当なものですので指摘などもご遠慮願います。