「♪走り出せ〜限界も時代も超えて・・・」
虚ろな目をした老人が車椅子に座り、やや調子を外しながら歌っていた。
その右手は、手のひらを下に向け、なにかを擦る様に小刻みに水平に動かされていた。
何もない空間で動く手、それは虚しく空を切るだけだが男にとっては意味があるのだろう。
少年「ママぁ、おじいちゃん変な歌を歌ってるよ。」
母親「あらあら、お義父さんったらまた対戦してらっしゃるのね。」
少年「対戦って?他に誰もいないよ。おじいちゃん車椅子に座って手を左右に動かしてるだけじゃん。」
父親「オヤジ、また対戦してるんだな。」
母親「そうみたいね、相手はきっとあなたよ。」
父親「そうだろうな。オレが小さい頃、まだアレが稼働していた頃は、オレの頭ん中全部アレだったもんな。オヤジはよくオレに付き合ってくれてたからな。」
少年「アレってなに?何の話?」
父親「父さんが、お前位の時の歳の頃の話さ。その頃、ガンダムトライエイジって言うゲームがあってな、父さんはそのゲームが大好きだったんだ。」
少年「ふーん。どんなゲーム?」
父親「ガンダムって知ってるか?」
少年「懐かしのなんちゃらってコンテンツとかで時々観る、ロボットが闘うやつでしょ?知ってるよ、ちゃんと観た事ないけど。」
父親「ロボットじゃなくてモビルスーツな。まぁそれを、話すと長くなるからどっちでもいいんだが。で、そのガンダムをテーマにしたゲームで、GBNみたいなバーチャルバトルじゃなくって、カードを使って画面の中で闘うんだよ。」
少年「へー。昔はそんなアナログなゲームあったんだね。おじいちゃんもやってたの?」
父親「オヤジ、お前のじいちゃんの事な、は始めはやってなかったよ。父さんがな、やり始めてすごく熱中した。そして父さんがオヤジに『お父さんもやりなよ』って誘ったんだ。」
チラリと老人の方に目をやる。
老人はこの少年の祖父であり、父親の父親なのであろう。
歌は終わった様だが、なにもない空間でしきりに何かを移動させる様に両手をを水平に動かしている。
父親「それからさ。オヤジもハマって、父さんと一緒にやってたよ。二人とも自分のIC持って、ICってのはまぁなんだアカウントだとおもってくれればいいや、ガッツリやってたよ。」
少年「そんなに面白かった?」
父親「そりゃあもう!さっきも言ったけど、その頃の父さんの頭ん中全部その事ばっかだったからなぁ。よくオヤジに怒られたよ。学校の事とかやらなきゃいけない事先にやらないとダメだっ!!って。あれ?どっかの誰かみたいじゃないか?(笑)」
少年「うへっ。」
父親「まぁ、今日の所はいいにしてやって差し上げるから(笑)。で、そのゲームはミッションをクリアするモードと他人と対戦するモードがあってな、どっちも面白いんだがやっぱり他人と対戦するのが父さんは大好きだったな。同じ人と闘っても毎回カードの組み合わせが違ったり、いろんな駆け引きがあったりで。」
少年「ふぅん。闘うって知らない人と?」
父親「普通に遊びにいった時とかはほとんどオヤジとかだったな。
父親「大会とかもあって、それも対戦形式でトーナメント戦をやるんだ。お父さんは優勝した事あるんだぞ!。」
少年「うわっすごいね!強かったんだ。」
父親「まあな。大会とか出ると同じゲームをする人達、と言ってもほとんど大人ばっかりだったけど、知り合う事ができて子供にしては貴重な経験だったなぁ。さらにはサプライズで憧れのプレイヤーさんにも会えたりしたし。そんな楽しい対戦なんだが父さんが一番沢山対戦したのは、なんだかんだでオヤジだったからな。ま、チビッコがゲームするには大人に連れてって貰わなきゃできないんだから、親が最多の対戦相手だったっていうのは当たり前だけどな。」
少年「それでどっちが強かったの?お父さん?おじいちゃん?」
父親「そりゃお父さんに決まってるだろ!と言いたいところだが・・・。オヤジ、わざと負けてた時があった気がする。オヤジがガチでやってもオヤジが負けた事もあるけどな(笑)」
少年「えー、なんでおじいちゃんわざと負けてたの?闘う意味がないじゃん?」
父親「まぁそうだわな。っていうかなぁ、なんていうかなぁ、うん、そうだお前ももっと大きくなって父親になったらわかるよ。だ〜か〜ら〜ちゃんとした大人になる為に宿題とか勉強とかちゃんとやらないとダメなんだぞ!」
少年「いっっっっっつも、お父さんは結局そこじゃん!」
老人は、ボタンを、連打する様な手の動きをしている。
しかし、その目線は何処を見ているのかはっきりしない。
母親「お義父さん、本当ににゲームしてるみたいね。」
父親「オヤジがさあ、この病気になったってわかってからショックだったよなぁ。記憶や思い出がさあ、少しずつ、少しずつ、一つ消え、二つ消えしていくんだぜ。自分が何者で、何がしたいのかまでわからなくなるなんてさ。」
母親「仕方ないですよ。病気はなりたくてなるものじゃないですし。」
少年「おじいちゃんがいろいろわからなくなったのは病気だからしょうがないんだよ。」
父親「うん。まぁ頭ではわかってるんだよ。だけどなぁ正直お前達より付き合い長い人間がだよ、もうオレの事すらわからないなんてさぁ・・・。」
少年「お父さんとおじいちゃんの思い出は、いっぱいあったんでしょ?」
父親「そりゃ沢山あったさ。ただなぁトライエイジが終わった頃からかなぁ、オレもそれなりの歳になってたからオヤジと遊ぶより、部活や友達と遊んだり、彼女と・・・おっと。」
母親「そこを詳しくお聞きさせていただいてよろしいかしら?」
父親「えーその件に関しましては今後の研究課題とさせていただくという事で。そんな事より、オヤジとの関わり合いはだんだん減ってったんだよ。まぁ成長ってやつだよ。子離れ、親離れってやつだな。」
少年「えぇっ!やだなぁ、友達と遊んだりするのも楽しいけど、お父さんと遊ぶのもすごく楽しいよ。それがなくなるのはヤダよ。」
父親「うれしい事いうねぇ。だからってテストの点数悪かったのは別問題な。」
少年「ちぇっ。」
父親「繰り返しだけどさぁ、成長していくと自然とそうなるもんだって。だからそん時は辛くもなんともないし、当たり前なんだって。ただ、こうなった今思うと、もう少しオヤジと絡んでおきゃあ良かったかなぁとも思わないでもなくはない。」
母親「男の人ってそういうものなんでしょ?特に『彼女』とか出来たら。」
父親「もうもたない」
少年「まだあきらめるな!」
父親「よくそのセリフ知ってるな。」
少年「お父さんが、よく僕に言うよ。だから覚えてるよ。」
父親「そうだったか。まあ、お前とは遊べるうちに遊び倒しておけって事だな。」
母親「お父さんあの歌を歌う時くらいしか声を出さないのよ。それってきっと最後の記憶があなたとトライエイジで遊んだ記憶、あなたとの対戦だって事じゃないかしら?もしそうだったら、あなたはお義父さんと十分大切な時間を過ごして来たんじゃないのかしら?」
父親「もし、本当にそうだとしたら心底うれしいな。ただ・・・」
父親の頬に一筋の線がゆっくりと描かれていく。
少年の瞳は潤み、母親はハンカチで目頭を押さえている。
父親「これだけ科学や医学が進歩したんだからさぁ、オヤジの病気って治らないもんなんだろうか。そして、トライエイジ復刻版もリリースされないかなぁ。そしたら親子三代トライエイジができるじゃないか。」
母親「医学の進歩は信じるべきよ。昔は不治の病なんて言われた病気も今じゃ普通に治せるものも沢山あるじゃない。トライエイジの、復刻も可能性は0ではないでしょ?」
父親「そうだな、信じてみるか!」
少年「おじいちゃんが治ったらみんなでトライエイジだ!」
その先に在るものは・・・
老人「♪僕らは 僕らの 明日を作り出せ Build up 迷わないトライエイジ」
完
トライエイジに対する想いや思い出、関わりあったGコマンダーの方々の事など、書こうと思った事は数多くありました。
しかし稼働終了を迎えた今、それらを書き連ねるより、こんな感じの未来小説風に表現した方が、自分にとってのトライエイジがどの様な存在だったかを的確に表現できる気がしました。
今の気持ちは、
もう出来なくなると思うと、
もっと対戦しておくんだった、
もっといろんなところに遠征すればよかった、
でも、コロナでもうそれも叶わない、
後悔の嵐が吹き荒れてます。
トライエイジのブログを書くのもあと僅かでしょう。
ある先輩Gコマンダーさんのブログを読んだのがきっかけで始めたこのブログ、
最後の記事をアップするまでお付き合いをよろしくお願い申し上げます。
(その方はブログを少し前にに閉じられました。それも何かの暗示だったのかも知れませんね。)
それではまた
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。