オハナシ。~BHCOF3。~ | なるるのゆめ。

オハナシ。~BHCOF3。~

テッドとリリィは
石や岩が重ねられて造られた
テッドのお家の扉の前に
立ちました。

リリィが
少し心配そうに
テッドの様子を見ていると
テッドは扉に手をかけて
鍵を使う事も無く開けます。

【テッド】
「さあ、俺の家だ。遠慮せず入ってくれ。」
テッドは笑顔でそう言い
リリィに入る様に促します。

リリィは
緊張しながら
ゆっくりとお家の中へと
入って行きます。

お家の中は
灯りがあるものの
薄暗かったので
リリィは恐る恐る
室内へ進んで行きました。

テッドは
リリィの後に続いて
お家に入り
入口の扉を閉めました。

リリィは
扉を閉めた音に
少し驚いて立ち止まり
テッドの方へ
振り向きます。

【テッド】
「奥に行けばもっと明るいよ。」
テッドは笑顔で
そう言いながら
リリィの肩に手を回し
安心させます。

テッドの言葉に
少し安心したリリィは
お部屋を見回して
ある事に気が付きます。

【リリィ】
「…ここ…家って言うか…洞窟みたい…」
リリィはそう言って
不思議そうにします。

【テッド】
「洞窟だった場所に手を加えて家にしたらしいんだ。」
テッドは笑顔で
そんな事を言いつつ
リリィに寄り添いながら
一緒に歩き出します。

【リリィ】
「…らしい…って…ここ、テッドの家でしょ?」
リリィは
テッドの言葉が引っかかり
不思議そうにしつつ
歩きながらそう聞きます。

少し歩くと
再び扉があり
テッドはその扉に
手をかけました。

【テッド】
「正確には俺のじいさんの家なんだ。
 物心ついた頃にはこうだった。俺の実家って事だな。」
テッドはそう言いながら
扉を開けました。

するとその先は
とても明るくて
広いお部屋でした。

さらにそのお部屋には
長めの髭を蓄えた老人が
椅子に座っており
テッド達の方を見ていました。

【テッド】
「じいさん、ただいま。」
テッドは笑顔で
老人にそう言いながら
リリィと共に
近付いて行きます。

【リリィ】
「あの、こんにちは。
 私は“リリィ・エーギエル”と言う者で…
 手ぶらですみません。
 おじい様にお会いするとは聞かされていなくて…」
リリィは
少し慌てた様子で
老人に自己紹介をしました。

【テッド】
「そんな事気にするなよ。
 俺が勝手に連れて来ただけなんだから。」
テッドは笑顔で
リリィにそう言います。

【リリィ】
「ちゃんと説明してくれたら良かったのに…」
リリィは困った様子で
テッドにそう言いました。

すると。

「はっはっ。
 聞いていた通り、しっかりした子だな。
 テッドに振り回されて、さぞ大変だろう。」
老人は笑顔でそう言い
リリィの顔を
じっと見ました。

そして。

【ドン】
「私は“ドン=セーゼ・ベーテルスファ”…
 テッドの育ての親であり、祖父に当たる者だ。
 君の事はテッドから聞いているよ…恋人だそうだね。」
老人はドンと名乗り
笑顔でリリィに
手を差し伸べます。

リリィは
ほんの少し照れた様子で
ドンと握手を交わしました。

そうして
軽く挨拶を済ませると
ドンはテッドに目を向けます。

【ドン】
「…テッド…戻って来てくれて良かった…
 "新生魔族騎士団"の指揮者候補を受け入れたのだな…」
ドンは
嬉しそうな様子で
テッドの顔を見て
そんな事を聞きました。

【テッド】
「受け入れた覚えは無いよ。
 そんな不自由な役職、俺の性に合わないだろ?」
テッドは笑みを浮かべて
ドンに言いました。

【ドン】
「…では何故戻って来たのだ?
 指揮者選出の日が迫ったこの時期に…」
ドンは驚いた様子で
不思議そうにそう聞きます。

【テッド】
「リリィに俺の故郷を見せたくてさ。」
テッドは笑顔で
ドンにそう言いました。

【ドン】
「…相変わらず、お前の考えが分からん…
 理由はそれだけでは無いな?
 もしそれだけなら、私の元に来る必要は無いだろう。」
ドンは不思議そうにして
溜息交じりに
そう言います。

【テッド】
「ん~…あとはほら…
 じいさんにも会わせたいなって思って。」
テッドは笑顔で
ドンにそう言いました。

明らかに
ごまかしている気がして
リリィが口を開きます。

【リリィ】
「…だから、そうならそうって私にも言ってよ…
 別の理由があるんじゃないの?何か隠してるでしょ?」
リリィは
少し心配そうにして
そう聞いてきます。

すると次の瞬間
テッドはリリィを
抱き寄せました。

【テッド】
「俺、リリィと結婚するよ。」
テッドは笑顔で
ドンにそんな事を言います。

リリィとドンは
テッドの突然の発言に
驚きました。

【リリィ】
「え、ちょっと、聞いてないよ!?急にそんな事…」
リリィは
当事者である筈なのに
不意の知らせの様で
驚き戸惑いながら
そう言いました。

【テッド】
「リリィを驚かせたかったんだよ。
 リリィと一緒に、故郷の偉観を眺めながら
 良い雰囲気になった所で求婚するつもりだった。
 だからリリィに故郷を見せたかったってのも
 じいさんに会わせたいってのも本当だよ。
 でもこれは失敗だな…やっぱ計画性無いな、俺。」
テッドは
笑顔でそう言い
笑っていました。

【リリィ】
「…十分驚いたけど…って言うか…本当に…」
リリィは
少し照れた様子で
テッドの事を見て
そう言いました。

【テッド】
「あぁ。結婚しよう。」
テッドは
リリィと顔を見合わせて
改めてそう伝えました。

リリィは
笑顔になり
力強く頷きました。

【ドン】
「そうか…二人共、心より祝福するぞ…
 ならば尚の事、指揮者になる良い機会では無いか?」
ドンは首を傾げて
テッドにそう聞きます。

【テッド】
「元から故郷に留まるつもりはないんだ。
 求婚の場を故郷に決めたのは、決別も兼ねてた…
 俺はドナルグネで、リリィと一緒に生きて行くよ。
 向こうにはリリィの両親が居る…
 リリィを両親から引き離したくないんだ。
 新生何たらの指揮者が不自由って事もあるけど
 故郷を離れるって言うのに、主要な役職には就けない。」
テッドは笑顔で
ドンにそう説明しました。

【ドン】
「…そうか…お前の事情は分かった…
 しかし我等の事情も考えてはくれないか?
 何度も言伝を送った通り
 お前は既に候補者の一人なのだ…
 最早、指揮者になれとは言わん…
 だが選出会への参加だけでもしてくれないか…?
 ベーテルスファの一族から候補者に選ばれた者は
 ドナルエリの首長の一族として体裁を保つ為にも
 最低限、指揮者選出会には参加して欲しいのだ…
 このまま不参加では、一族に恥をかかせる事になる…」
ドンは椅子に座ったまま
困った様子で
テッドに哀願します。

リリィは
ドンの様子を見て
不憫に思い
テッドに目を移します。

テッドは
軽く俯いて
少し考え
すぐに顔を上げました。

【テッド】
「…じいさん、ごめん。
 一族の為とかも性に合わないんだ…」
テッドは苦笑いをして
ドンにそう言うと
リリィを抱き寄せて
お部屋の奥へと歩き出しました。

【テッド】
「それじゃ、俺達はそろそろ行くよ。
 ここには気が向いた時に来るからさ。」
テッドは
ドンを背にして
歩きながら
そう言いました。

リリィは
戸惑いながらも
テッドと足並みを揃えます。

ドンは
残念そうな様子で
椅子に座ったまま
俯いていました。

【リリィ】
「ねぇ、良いの?おじい様…哀しそうだった…」
リリィは心配そうにして
テッドにそう聞きつつ
共に歩いていました。

【テッド】
「大丈夫。じいさんは俺の事分かってくれてる…」
テッドは笑みを浮かべて
そう答えました。

そうこうしている内に
テッドとリリィは
お部屋の奥にあった
大きめの扉に
辿り着きました。

そしてテッドが
その扉を開くと
扉の先は光で溢れており
向こう側が見えませんでした。

リリィは
さらに戸惑いますが
テッドは
そんなリリィを気にせず
リリィの手を取り
肩に手を回して
共に扉を潜って行きました。

すると
扉を潜った先は
何処かの屋上のようで
辺りの景色を
眺められる程度に
高い場所でした。

【リリィ】
「わあ…すごい…
 あ…あれってさっき見えてた樹?」
リリィは
周りの景色を見ていると
大樹が目に入り
見上げるようにして
そう聞きました。

【テッド】
「あぁそうだ。近くだと迫力あるだろ?」
テッドは笑みを浮かべて
そう言いました。

リリィは
屋上の縁にある
手摺りに近付きながら
大樹を見上げました。

【リリィ】
「あちこち光ってるね。あれは何?」
リリィは
大樹を見上げながら
そう聞きます。

大樹の幹や枝は
所々光っており
それについて
疑問を抱いた様子です。

テッドは
リリィの隣まで近付いて行き
一緒に大樹を見上げます。

【テッド】
「大樹の足元を照らす為の灯りだよ。
 この大樹は俺達が今居る“ベーテルスファ神殿”を
 広く覆うように立ってるから
 灯りを付けておかないと、この一帯が陰になるんだ。」
テッドは
そんな説明をしながら
リリィの様子を見ておりました。

【リリィ】
「そっか、それで…」
リリィはそう言いながら
大樹の足元に広がる
街並みを見渡しました。

幾つもの建物が立ち並び
大樹の陰と明かりと
大樹の外側から指す明かりが
何処か神秘的な雰囲気を生み出し
ただの街並みとは違う
幻想的な景色が広がっておりました。

リリィは
景色を見渡して
感動している様子でした。

【テッド】
「こんな景色そうないだろ?
 ここはこの街並みを広く見渡せる、数少ない場所だ。」
テッドは笑顔で
そう言いました。

【リリィ】
「…うん…ドナルグネには無いよ…」
リリィは
微笑んでそう言い
街並みを見渡しながら
テッドに寄り添いました。

【テッド】
「…ここで言うつもりだった…
 改めて…俺と結婚してくれるか?」
テッドは笑顔で
リリィにそう聞きます。

リリィは
テッドの顔を見て
微笑むと
ゆっくりと頷きます。

しかし。

【リリィ】
「…でもその前に…おじい様が言ってた話…
 どう言う事だったのか、詳しく聞きたいな。
 …私、全然理解できなかったし…
 おじい様を哀しませたままじゃ気持ち良くないよ…」
リリィは
心配そうな表情で
そう言いました。

テッドは
リリィと顔を見合わせ
少し目を泳がせて
悩みました。

そして。

【テッド】
「…分かった。」
テッドは笑顔で
そう言いながら
頷きました。

リリィは
嬉しそうにして頷き
テッドの言葉を待ちました。

【テッド】
「ドナルエリには昔、魔族騎士団って言う
 魔族の戦士達による団体があったんだ。
 王国の戦士団と似たような物で
 魔族達が王国側…主にドナルグネとの
 協力や交流をするに当たって結成された組織だ。」
テッドは
そう言いながら
説明を始めました。

【テッド】
「だけど当時のドナルグネとは上手くいかなかった…
 元々魔族とヒトの間には差別意識があったから
 王国側は魔族の集団に対して、快く思わなかったんだ。
 全てのヒトがそうって訳じゃないけど
 次第に王国の人々に不安が募って行った…
 それで…少し端折るけど、ある事をきっかけにして
 魔族騎士団はドナルエリへ追い返されたんだ。
 そしてその結果、魔族騎士団は解体された。
 解体って言っても、戦士達が消えた訳じゃないけどね。」
テッドは笑顔で
そんな事を説明しました。

リリィは
哀し気な表情を浮かべつつも
テッドの話を聞き続けます。

【テッド】
「それで今この国…って言うか
 ドナルグネ地方では争いが起きてるだろ?
 南端地域に住んでる君は実感ないだろうけど…」
テッドは
そう言いながら
リリィの様子を
見ていました。

リリィは
テッドの言葉に
頷きます。

【リリィ】
「実感も実害も無いけど、当然知ってるよ。
 解放軍と王国軍の戦いだよね。
 …今は王国軍が追い詰められてるって…
 でも今の王様…独裁的で、私は好きじゃない…」
リリィは苦笑いをして
そう言いました。

【テッド】
「そうなんだよ。
 殆どの国民が今の国王に否定的だ。
 そしてそんな国王を失脚させるために
 解放軍が密かに活動を進めて、勢いを増して来た。
 そんな折に、解放軍に与した王国の戦士達が
 ドナルエリに協力を求めて来たんだ。
 魔族とヒト…地方は分断されてるけど
 同じ国民同士だから、他人事じゃない…
 だから俺の一族…ベーテルスファの一族を筆頭に
 解放軍への協力体制に入ったんだ。
 一部魔族の戦士達は、早々に協力に向かい
 ドナルエリでは、過去にあった魔族騎士団の名前を
 新生魔族騎士団に変えて、新たに結成する事になったんだ。」
テッドは
そんな事を
話しました。

さらに続けて。

【テッド】
「じいさんが話してたのは
 その騎士団の指揮者を決める話だ。
 新生って事で、古い戦士よりも
 若者から選ぶ事になって
 二十一から三十までの戦士が候補者に選ばれた。
 候補者は各地で簡単な調査をして
 実力や実績や人気を元に、数名が選ばれたんだけど…」
テッドは
そんな説明をして
言い淀みます。

すると。

【リリィ】
「テッド、それに選ばれたんだ。」
リリィは
少し驚いた様子で
そう言いました。

テッドは
軽く頷きます。

【テッド】
「…そう言う事。
 元々戦士って柄でもないし、大した実績もない…
 ベーテルスファの一族から無理やり選ばれたんだ。」
テッドは笑顔で
そう言いました。

【リリィ】
「…それでも凄い事じゃないの?
 …せっかくだし…参加してみるのも良いんじゃない?」
リリィは
少し言い辛そうに
そう言うと
さらに
「…おじい様の為に…お別れ前に…さ。
 …おじい様は今後もこの街に居るんでしょ?
 体裁…保ってあげるのも、良いと思う…けど…」
リリィは
苦笑いをして
そう言いました。

【テッド】
「…そりゃ、参加するくらいで済めばな…
 俺は天才だからな。参加したら指揮者に選ばれるぜ?」
テッドは笑顔で
冗談交じりに
そう言いました。

リリィは苦笑いをして
テッドに冗談で返そうとした
その時でした。

「選ばれて見せてよ。」
そんな声が
テッドとリリィの後方から
聞こえて来ました。

二人が振り返ると
そこには
金系の長髪と
青系の瞳を持った
女性が居りました。

【テッド】
「あれ?“ヴィアナ”か?久しぶりだな!」
テッドは
女性を確認すると
笑顔でそう言いました。

【ヴィアナ】
「テッド…久しぶりね。」
ヴィアナと呼ばれた女性は
そう言いながら
二人の方へと
近付いて来ます。

【テッド】
「彼女は“ヴィアナ・ベーテルスファ”。
 俺と同じ、ベーテルスファの一族だ。」
テッドはリリィに
軽く紹介しました。

リリィは
軽く頷いて
ヴィアナを見ていました。

【ヴィアナ】
「貴方を呼びに来たの。首長様が御呼びよ。」
ヴィアナは
テッドにそう言うと
リリィの方を見ました。

リリィは
ヴィアナに見られて
少し緊張しました。

【リリィ】
「あの、初めまして。
 私はリリィ・エーギエルと言う者で…」
リリィは
少し焦りながら
自己紹介をします。

すると
ヴィアナが
割って入ります。

【ヴィアナ】
「テッド、早く下に来なさいね。」
ヴィアナは
リリィの方を見たまま
テッドにそう言うと
その場を去りました。

【リリィ】
「…何だか…怒ってる…?」
リリィは
心配した様子で
そう言います。

【テッド】
「…俺の所為だな…面倒な事になったな…」
テッドは苦笑いをして
リリィにそう言いました。

そうして
テッドとリリィは
ヴィアナの指示に従い
屋内に入り
建物の下層へと
向かいました。


おしまぃ。(o_ _)o