――脳神経外科でオペ室の担当だった木村さんというナースが、ヒモの研修医に捨てられた時は妊娠していた。ヒモは専門医になった途端、同期の女医に乗り換えたのだ。木村さんは病院を辞め、ひとりで子どもを産んだ。しばらくして別の病院に仕事復帰して、うちを訪ねてきた。
木村さん「そりゃ、最初は悔しかったよ。周囲からも嫌なことをいっぱい言われた。でもこの子が生まれたときは嬉しくて嬉しくて。あたしずっとお母さんになりたかったの。どんな赤ちゃんでも育てていこうって決めたんだ。子どもって可愛いよぉ」
――数年後、彼女はまた訪ねてきた。
木村さん「慰謝料とか養育費とかほんと要らないわ。あの子授かっただけで充分、これ以上は罰が当たる。あの子とってもいい子でね、勉強出来るんだ、医者の遺伝子ってスゴいね。あたしオペ室のナースだから、そこそこの学校行かせてあげられるよ」
木村さん「息子ね、『一緒になれなかったお父さんのこと好きだった?』って聞くんだよ。聞かれるたび、あたし『今でも大好きだよ!』って答えるの。そうすると息子笑うんだよ」
木村さん「あたし、幸せだよ」
================
木村さんの息子は、その後国立大の医学部へ入りました。




