藤村博士(左)「臼田、ぼくらの不老不死の薬を狙っているやつらが入国したらしい」
アインシュタイン先生(右)「そう。ここに来る可能性はあるかな」
藤村博士「否定はしない。気をつけろ」
アインシュタイン先生「きみこそ大丈夫なの?」
藤村博士「古本屋に何の情報もないさ。原料がアヴァロン島のリンゴだということはまだ知られていない。アヴァロン島には権力者や独裁者が入ってこられないよう結界が張られてる」
アインシュタイン先生「結界って……」
藤村博士「張ったのは魔術師マーリンだよ。アーサー王と円卓の騎士がいつまでも島でのんびり暮らせるようにって」
アインシュタイン先生「非科学的だよ」
藤村博士「ぼくもアヴァロン島のリンゴを食べる前まではそう思っていた。だが現実にアヴァロン島は空からも海上からも確認できない。どこからも侵略されない島だ。それだけにアヴァロンがどういうところか知りたがってる人間は少なくない。怪しい奴らが手がかりを求めてここへやってくるかもしれないから、いつでも避難できるようにしたほうがいい」
アインシュタイン先生「どこに?」
藤村博士(左)「……アヴァロン島。水と緑豊かな妖精の島だ。自然災害がない。いつでもリンゴが食べられる。何千年でも住めるぞ」
アインシュタイン先生(右)「おいおいおいおい。ぼくらは忙しいんだよ。明日は下宿してる子のピアノコンサートで」
藤村博士「こうしている間に家が襲われたら、コンサートどころじゃないだろ」
アインシュタイン先生「それは地震みたいなものだよ。いつ来るなんて分からない。それにアヴァロン島にはお店も何もないじゃない、生活できないよ」
藤村博士「アヴァロン島ではアーサー王と円卓の騎士達が毎日、クリケットの試合をしている。店は郵便局のあるところに揃ってるし、電気と電波は来てるから衛星放送のTV見られるぜ。娯楽もそれなりにあるから――」
アインシュタイン先生「いや、以前異世界に住んでいたことがあるから、そういう美味しい話は信用できないんだ。ゴブリンに襲われたり、グリズリーみたいな熊がやってきたり、恐竜退治することになったり、そんなんばっか。子供たちが心配だった。異世界は楽園じゃない。ぼくらはそんなところへ行かない」
藤村博士「アヴァロン島は異世界ではないが、住人はここ数百年顔ぶれが変わらない。みんな刺激を求めてよく旅行に出掛ける」
アインシュタイン先生「それじゃ異世界と一緒だよ」
アインシュタイン先生「だいたい、今までアヴァロン島が権力者や悪意を持った人達に侵略されなかったのは、秘密を守って、世界から隔絶されてきたからだろ?生活に必要な物は不死人組合から届けてもらっていたんじゃない?アーサー王とやらが何百年も遊びほうけていられるのは仕切るのが好きな組合員のおかげだろう。不死人組合はPTAと違って、有志がやってるからな」
藤村博士「それはその通りだ。島の秘密は守らなければならない。組合がぼくの店に不審者がいると連絡してきたら、すぐヨットに乗るさ」
アインシュタイン先生「きみだってのんびりしたもんだよ。そんなに好きな時に行き来できるような島の秘密をどうやって守るの。ぼくらはここに残るよ。それに、アヴァロンのリンゴに関する資料はもう、ここにはないんだ」
藤村博士「この会話が誰ぞに聴かれていなければいいがな」
そして。
アナウンサーの声『なお、海上保安庁によると、白いヨットは高波に――』
アインシュタイン先生「バカだなあ、却って目立っちゃって」
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藤村博士は救助されましたが、かなり目立ってしまいました。
不審者が藤波博士が経営する書店「哲山堂」に本当に現れたかどうかは分かっていません。