久美子「あ、あすかっち、ヘンなこと聞くけど……あたし声楽の高専の1年よね?学校へ行ったらあたしの席がなくて、アルフレッドに訊いたらあたし、私立の音楽学校の中学3年だって……どうなってるのかな。高校受験全部落ちた記憶あるし、お母さんは会社役員の人と逃げちゃったし、お父さんは妹連れてアメリカに帰っちゃったのよね、でもなぜかそうじゃなくて」
あすか「落ちついて、久美子ちゃん。久美子ちゃんは多分、私が探していたもとの世界の久美子ちゃんだ。今まで別の平行世界にいたんだよ。ここでは久美子ちゃんは中学から音大附属の中学に通ってる。そして、伯父さんと伯母さんはずっと昔に久美子ちゃんをうちに置いていなくなったらしい」
久美子「なんで――!あり得ない!あたし別世界へ来ちゃったの?あすかっちどうして知ってるの?」
あすか(左)「だから、私も平行世界を随分回ったんだってば。やっとここで安定しちゃったけど、ここも私の世界じゃないんだよ。久美子ちゃんの過去が全然違った。私のもといた世界が、今の久美子ちゃんがいたところなんだね」
久美子(右)「なにそれ。あんたも平行世界から来たの?」
久美子(右)「どうしたら帰れる?」
あすか(左)「帰れなくてもいいんじゃない?もとの世界だとまた受験が待ってるけど、ここの世界では久美子ちゃんは大学までエスカレーター式だよ。声楽やってるのももとの世界と同じだし、私も事情知ってるから便利じゃない?」
久美子「じゃ、ここの世界にいたあたしは?」
あすか「どこか別の世界へ行ったんじゃないかな」
あすか(右)「学校の友達とか慣れるの大変かもしれないけど、きっと大丈夫だよ」
久美子(左)「なんだか脱力したわ。ここにいたあたしがよその世界でひどい目に遭ってなきゃいいけど」
久美子(左)「ここの世界でも私、ソプラノ張れるかしらね」
あすか(右)「大丈夫。ここの久美子ちゃんも学校の歌劇ではずっとヒロインだったから」
あすか「もとの世界の私は小説で稼いでるかな?私はいま、小説の他にいろんなことやってるけど」
久美子「あすかっちは谷崎潤一郎賞、最年少でもらって文壇ではちょっと騒ぎになったわよ。耽美な世界に行っちゃってる」
あすか「やっぱり私とは違う私なんだね……」
久美子「だったら、SF書けばいいじゃない。これまで体験してきた、現実ではなかなかないSFな出来事を『SFマガジン』にでも書いたらウケると思うけど」
あすか「うーん。『SFマガジン』には知り合いいないんだよね。『惰性時代』で書かせてもらえるかな。今の連載、もうすぐ終わるからそのあと考える」
あすか(右)「谷崎潤一郎賞は無理だけど、星雲賞を目指して平行世界について書くよ」
久美子(左)「星雲賞!大きく出たわね」
あすか「というわけでナタリーさん、SF書かせて」
編集部のナタリーさん「変な夢を見たものね。イマドキのSFは理系を網羅してないとつらいわよ。資料は用意してもいいけど、書いてもいかにもお勉強しました感の強いものは掲載できない。はっきり言って、あんたのファンはSF読みたがらないわよ。新しく40代独身のおっさんたちがファンとして参入してくるかもね」
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明らかに乗り気でなかったナタリーさんの返事。SFでも短編ならという条件で、あすかっちの、筒井康隆を彷彿とさせるものが『惰性時代』に載りました。風刺が利いていたためかあまりSF好きでない有識者からの評価が高く、のちに「世にも奇●な物語」の原作として実写化されました。星雲賞には遠いですが、新しいファンは出来たようです。どんなファンかは知りませんが。










