あすか(右)「みんな、『ヘンゼルとグレーテル』は知ってるよね?」
アンバー「……ちゃんと読んだことないけど継母に捨てられた兄妹がお菓子の家で魔女に食べられそうになって魔女退治する、ぐらいは知ってる」
クリスタル「私、ヘキセンハウス作ったことある。お菓子の家ってワクワクするから」
あすか「うん。だいたいは知ってるんだね。これはグリム童話で、版を重ねるうち継母という設定に変えられたけど、本当は実の母親なんだよな、これが」
双子「えーっ!」
アンバー(左)「本当の母親なのに?」
クリスタル(右)「なんでー?」
あすか(右)「お父さん木こりだったんだけど、飢饉で薪が売れなくてもう食い詰めちゃって、今日のパンもままならないほど極限状態だったんだ。実の母でも子どもが邪魔で、馬車馬のように二人をこき使ったけどいかんせんコドモなのであんまり役に立たない。一度薪拾いにみんなで行った時は用心したヘンゼルが小石をポケットに入れてたんで、それを目印に帰ったんだけど、二度目は小石が手に入らなかったんでパンくずを目印にしたら鳥がみんな食べちゃったんで迷ってしまった」
アンバー「あ、その辺はだいたい分かる」
あすか「森の中にお菓子の家を見つけた二人は無我夢中で食べ始める。すると魔女がドアから出てきて言葉巧みに二人を家の中へ入れ、二人を太らせて食べてしまおうとした。魔女は何も出来なかったグレーテルに料理をさせ、家畜小屋に閉じ込めたヘンゼルに食べさせた。グレーテルはめきめき家事のウデを上げた。魔女は目が悪く、ヘンゼルがどれだけ太ったかしょっちゅう確認したが、ヘンゼルはいっこうに太らない。なぜならヘンゼルの手だと思っていたのはザリガニの脚だったからだ」
あすか「業を煮やした魔女は、二人とも食べてしまおうと、燃えさかる火のついたかまどにグレーテルを放り込もうとした。でもその時、グレーテルはこの魔女がおのれの母親そっくりだと感じ、激しい憎悪がわいてきた。グレーテルは渾身の力をこめて魔女をかまどの中へ突き飛ばした。魔女は死に、グレーテルはヘンゼルを檻から出した。魔女の家には山盛りの宝石が置いてあったので、二人は持てるだけ持って、なんとか無事に家へ帰った。家にはお父さんがたったひとりで座っていた。聞けばお母さんが死んだので森のどこかに埋めたと言う。場所を聞いても墓石も買えないので分からなくなったと。グレーテルはその日から一家の頼もしい主婦となり、魔女から伝授された家事をテキパキこなした。ちょっと奇妙な三人暮らしが始まった。一家は魔女の宝石で不自由なく暮らせるようになった」
あすか「だが、ヘンゼルはふと思った。お父さんはもしかして自分たちがいなくなったあと、お母さんを食べちゃったんじゃ……と。グレーテルも時々思う。あの魔女はお母さんだったんじゃないかと。なにはともあれ、今、衣食足りているのだからいいじゃないかと疑念を振り払う。そうして毎日、グレーテルの作った見事な料理をみんなで食べるのだった。おしまい」
久美子「えげつない話ね」
クリスタル「ねえ、私達エヴァンズさんに捨てられてないよね?あすかっちも魔女じゃないよね?」
あすか(右)「なに、どうしたのさ。エヴァンズさんには、当分うちで預かるって言ってある。きみたちをこき使ったところで家事できないだろ。取って食う趣味ないよ。恐くなっちゃった?」
クリスタル「うーん、もう大丈夫」
久美子(左)「あんたが取って食いそうな口調で喋るからよ」
アンバー(左)「それにしてもひどい兄妹ね。勝手にひとり暮らしの老女の家を食べて、とっ捕まってグレーテルは家事を教わったのに仇で返すし老後の蓄えを奪って、よく考えてみれば強盗だわよ」
クリスタル(右)「アンバー、いったい何を聞いていたのよ。食うか食われるかじゃない。お話ではとくに説明されてなかったけど、ぜったいヘンゼルもグレーテルも、魔女の丸焼きを食べてると思うわ」
あすか「恐っ!クリスタルもその気になるほうか……」
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今回少々、長めでしたね、お疲れ様でした。
いざ食べ物がなくなると人間はどうするか?
子捨ては昔から洋の東西を問わずけっこうあったらしいですね。
しかし食べてしまうというのは?
そう遠くない過去、継母ものの童話の代表作「白雪姫」も「シンデレラ」もディズニーの軍門に下りましたが「ヘンゼルとグレーテル」はその内容の恐ろしさからかお声がかからなかったようですね。
人は人を食べてはならない。みんな分かってる。でも、お腹がすいて仕方なかった時は?
カニバリズムということをマジメに考えるなら藤子・F・不二雄センセの「カンビュセスの籤(くじ)」や「ミノタウロスの皿」あとカニバリズムは読みたくないけど食糧危機の世知辛い話を読んでみたいかたは「定年退食(原文ママ)」などをどうぞ。おそらくSF短編集の中にあると思います。
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