あすかっち宅。
あすか「じゃ、奥さんの苗字に替えられる?」
ツヨシ「それはイヤだな。男のプライドがあるから。あすかっちは自分の苗字好きなの?」
あすか「好きというより、今まで出会ったあらゆる男子の苗字が、すべて私を不幸にする字画だった。名前変えるの手続き面倒くさいし、字画で不幸になりたくない」
ツヨシ「ぼく男でよかった~面倒くさくなくて。女子は大変だよね。でもあすかっちらしくないよ、姓名判断気にするなんて」
ノンコ「なんであんなこと言うの!妻が夫に苗字をあわせるのは日本の伝統なのよ」
あすか「新しいよ。せいぜい明治からじゃん」
ノンコ「あんたね、いつもそうやって体制に反抗してばかりじゃない。夫婦別姓賛成なんてネットに書いたりしないでよね。パキスタンのマララさんみたく命狙われるわよ」
あすか「あの子は女の子にも教育を、でしょ。全然違う。だいたい誰が私の命狙うの。みんなネットでは熱い論争してるよ」
ノンコ「右翼とか特高警察の生き残りとか、危ない人はまだいっぱい生き残っているの。どんなところでも自分の意見は言っちゃダメ。意見は持たず誰にでも『そうだね』ってあわせてニコニコしてないと幸せはやってこないの。政治と思想の話は男に任せておきなさい。あの人達議論好きだから、生意気な女を見かけたらストリートビューでうち探し出されて、あんたを殺しにくるわよ」
あすか「いつの時代の話してるの?」
ノンコ「口答えしないの。女の子は政治について考えちゃ駄目。ノーベル賞もらったって命がなくなったら無意味なのよ。結婚するときはどんなに字画が悪くなっても相手に合わせて、あんたは下の名前ひらがなか通称に変えなさい」
あすか「名前がなくなっちゃったらアイディンティティもなくなっちゃうじゃない」
ノンコ「子供っぽいこと言わないの。大人になれば姓名判断なんて気にならなくなるわよ。だいたいね、占い師ってのはヤクザの情婦がなる仕事よ。信じる者は騙されるの」
あすか「お母さん結婚前は健康で幸せだったのに、字画悪くて苗字変わった途端病気がちになったじゃないの。日本でも10本の指に入る不幸な女だって自分で言ってるじゃない」
ノンコ「あなたを授かったんだから、お母さんはどんなに身体が弱くて不幸でもいいの。男のプライドはエベレストより高くて恐いのよ。最近の人は短気だから逆らったら殺されて埋められてしまうわ。女に生まれたら男に従うしかないのよ」
ノンコ「でも騎士元くんとはだめよ。あの子ピアニストになりたいみたいだけど、音楽で食べていける人なんてごくわずかよ。いずれ身を持ち崩して、金のある女探して入り浸ってヒモになるわよ。あんたのお金で一日中ダラダラすごして、そのうちあんたのベッドに女連れ込んで好き放題のだらしない生活をするようになるわ。貧乏な人とは付き合っちゃ駄目。顔は悪くてもいいから健康でお金持ちとしか交際認めないからね。今のうちから少しずつ遠ざけなさい。少しずつ少しずつ縁を切っていくのよ」
あすか「ツヨシくんがどういう人かお母さんよく知ってるじゃない!そんな子じゃないでしょ」
ノンコ「貧乏だから、いずれそうなるわ」
あすか「そもそもただの友達じゃないの」
ノンコ「とにかく、少しずつ遊ぶの断りなさい。いつか必ずお金貸してって言ってきて、そのまま大金持って消えるわ、あの子は」
ノンコ「あんた、体制を変えようなんて大それたこと考える人だから、危なくて。どっかでプラカード持って走り回るんじゃないかと心配でしょうがないのよ」
あすか「あたしはアカでもアオでもないよ」
ノンコ「世間はそう見ないの。こんな治安のいい素晴らしい国に生まれたのに、これ以上何かを望むのは欲よ。この守られた国で不満を持つなんてとんでもないわ。とにかくおかしな人とは付き合っちゃ駄目よ。あと、あんたは友人が多すぎる。友人っていうのは2人か3人、何かあったときに頼める人が居ればいいの。しょっちゅうあちこちの家に遊びに行ったり来たりする度面倒だし、私も迷惑だわ。友達を家に連れてこないでって小学生の時言ったでしょ?あんたがトイレに立った隙に引き出しや押し入れ開けて見てるのよ、ぞっとするわ」
ノンコ「お母さん、家でワイワイ騒がれるのキライなの。人の家入って覗いて何喋って歩くか分からないし、小さい子がベランダから落ちたりしたら責任問われるし、わずらわしいの。だからこの家に入れていいのはゆきちゃんとキラりんさんだけにして」
ノンコ「お母さんのせいだなんて言い出したりしないでしょうね。あんた昨日夜更かししすぎたのよ。私は悪くないわよ」
テルコ「あんた、きょうのはちょっとあすかちゃんにひどかったんじゃない?夫婦別姓が叶わなくなったのは私もがっかりしてるのよ」
ノンコ「テルコ姉さんは旦那さん、外国人だからいいじゃない。関係ないでしょう」
テルコ「あんた、ひどい旦那さんと結婚したからひねくれたのよ。マサオさんがもう少し優しかったら…」
ノンコ「でも結婚は後悔してないわ、あすかちゃん生まれたから」
テルコ「ほら、そうやってきれい事にするのあんたの悪い癖よね。あすかちゃん、100%あんたの理想通りに育てたら作家になれないわよ」
ノンコ「なれるわよ。結婚して家庭に入って子供育てて子育て一段落したらエッセイでも書き始めればいいじゃないの。群ようこさんか林真理子さんみたいなエッセイ、あすかちゃんなら書けるわ」
テルコ「みたいな、じゃないでしょ。あすかちゃんの持ち味ってブラックユーモアでしょ?購読層、女性じゃないわよ。それに自分の意見を言わずニコニコしてるだけの作家なんていないわよ。ノンコの理想は作家の娘を持つことじゃなくて、良妻賢母を育てることじゃない?そんな人の文章誰が読みたがるの。毒がなくちゃ」
テルコ「ノンコはあすかちゃんがエッセイしか書けないと思ってるでしょ。小説も書いてたけどあんたには見せないでしょうね。あんた松本清張以外の創作嫌うもんね」
ノンコ「作り事というか、絵空事が好きじゃないだけよ。SFもファンタジーも嫌い。伝記なら読むわ」
テルコ「その教育方針で、うちからはいい作家は出ないわ。自伝や自分史はたくさんいろんなモノを書いてきた人にだけ許されるジャンルなの。無名でコネのない素人がいきなり自伝出したって売れるわけないでしょ」
ノンコ「ペンネーム使えばいいじゃない」
テルコ「あんた、なんにも知らないこと知った顔で言うクセやめなさいよ。あんたの好きな林真理子も群ようこも、ニコニコ男に従う女じゃないし、瀬戸内晴美面白いって言ってたけどあすかちゃんにあの生き方はさせないでしょ」
ノンコ「お姉ちゃんしつこいわよ。ハイハイ、本当は私、あすかちゃんを作家にする気なんかなかったわよ。学校の先生か市役所の人になってほしかったわ。だけど作家になりたいって言うから読んであげて感想言ってるだけよ。でもね、作家って非難囂々に耐えて初めて大成するじゃない。あの子それに我慢できるかしら。大胆な本性と目立つのキライってとこ。本気でやる気のある人は周りが何を言っても書き続けるし投稿するわよ。それができないってことはあの子に才能はないの」
ノンコ「あの子は昔から醜いものが好きで、どこかゆがんでるの。美しく可愛らしいものを好まないの。死、殺、狂、あの子が読んでる本のタイトルはそんなモノでいっぱい。そういうものは取り去らないと。私恐くて恐くて仕方ないのよ。あの子の気持ち悪い本が部屋にあるだけであの子の部屋に入れないの。不吉で不吉で、いつか病気になっちゃうわ」
テルコ「思春期はいろんな本読むものよ」
ノンコ「だめよ。本の影響で人を殺したり自殺したりされたら私のしつけが悪かったと責められるわ。私、あの子の読む本やDVD、本当にダメなの、気持ち悪くて。捨てても捨てても買ってくるし、あの子きっと私が嫌いなのよ」
テルコ「馬鹿なこと言わないで、子供のもの勝手に捨てまくるのやめなさいな。あの子が反抗的に見えるのは、あんたが徹底して弾圧するからよ」
ノンコ「私は悪くないわ!うちに気持ち悪いモノがあるってだけでいやなのに、気持ち悪い作品なんて読ませられたら」
テルコ「あんたには見せないでしょ、大丈夫よ」
ノンコ「ダメよ、そういうこと考えてるってだけで許せないわ」
ノンコ「なれないわ。私が病弱なのは姓名判断のせいじゃなくて、あの子が持ってる悪い本のせいよ。本が私を嫌ってるの。私きっと妊娠中に変な薬飲んで、だからあの子が生まれたんだわ」
テルコ「ノンコはきっと疲れてるのよ」
ノンコ「私はただ、あの子に淡路恵子さんみたいな人生を送ってほしくないだけなのに」
テルコ「ハイハイ、あんたの大好きな不幸な芸能人のバラエティね。私はこの芸能人と同じぐらい不幸ですってあすかちゃんにアピってるのね。あんな人生送らせたくないしそんなの見たくないから、結局平凡な人生送ってほしいのね」
ノンコ「からかわないで」
テルコ「平凡が一番難しいのよ。エベレスト並みのプライドのカタマリのあんたには、常に褒め称えてくれる夫が必要だったのよね。だったら外国人の妻になればよかったでしょ。なのにあんた、『外国人でも優しいのはごく一部、あとはどうせ日本と一緒』って蹴っちゃって」
テルコ「今からでも遅くないわ、正式に離婚しなさい」
ノンコ「それはできないわ」
テルコ「どうして。教会に顔向けできない?いまさら?そしてまたあすかちゃんに『外国はハグの国、歓びも悲しみも分け合う豊かな感情いいわね』って言っておいていざあすかちゃんが外国人連れてくると『どうせ無職でしょ、日本人と結婚しなさい』って撥ね付けるんでしょ」
ノンコ「姉さん意地悪いわ、私姉さんに何かした?」
テルコ「ノンコが自分にウソばかりつくからよ。『ノンコって○○よね』って誰かが言うと『違う!』って全力で否定する。全部自分への悪口だと思い込む。理想は決して手に入らないと、幸せは決して手に届かないと子供に植え付ける。本音はあすかちゃんに結婚してほしくない。あんたの悪口ばかり言ってたマサオさんの代わりに、常に自分を立ててほしい。そう思ってるでしょ」
ノンコ「私、そんな親じゃないわ。誰からも褒められなくていいわ」
テルコ「どうして本心を知られることをそんなに嫌がるの。どうしていつもかっこつけるの」
ノンコ「私は悪くないわ!」
テルコ「どんなに嘘をついても自分自身からは逃げられないわよ。どうして娘の好むもの全否定なの」
ノンコ「否定したことなんかないわ。欲しいと言えば全部買い与えたわよ」
テルコ「あんたに気を遣って言わなかったのよ。あんたの嫌いなものがそこにある限り、365日毎日それが嫌いだと言い続けるあんたに疲れたんでしょ」
ノンコ「私悪くないわよ…なんでみんなで私を悪者にするの…母さんはヤスノ姉さんに取られちゃったしとうさんは死んじゃったし、まーくんはもう私の知ってるまーくんじゃないわ。私の味方はだれもいない。私はあの子に裏切られた。私はあすかちゃんの陰口言ったことないのに、どうして姉さんに私の悪口言うのかしら。私は男は逆らうと恐ろしい生き物だって言っただけよ。なのに」
テルコ「ノンコだけじゃない、あすかちゃんも自分の本音がどこにあるのかもう分からないのよ。人に承認されるかどうかだけで物事を計ってる。作家目指す人が陥る悩みとしてはよくあるけど」
ノンコ「私責めて何が面白いのよ!」
テルコ「私はあんたが心配よ。あんたがいなくなったあとのあすかちゃんもね。生き甲斐がお互いの存在だけなんだもの。子離れできるところはしなさいよ。もう私も寝るわね、厳しいこと言ってごめんね」
ノンコ「…」
(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)(+_+)
むずかしいやくどころです。








