低い鉄摂取量に身体は適応する | 最新科学の栄養学と医学が教える!ヴィーガン・ベジタリアンの健康の秘訣と注目トピック解説

最新科学の栄養学と医学が教える!ヴィーガン・ベジタリアンの健康の秘訣と注目トピック解説

病院で健康相談を担当するベジタリアン栄養学博士が科学的根拠を基に栄養学と医学的トピックをお知らせします。
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 ベジタリアンが摂取する鉄分(非ヘム鉄)の吸収率が低いことから、ベジタリアン、特に閉経前の女性については体内のフェリチン(鉄結合性たんぱく質、貯蔵鉄の指標。血清フェリチンの1ng/mlは貯蔵鉄8~10mgに相当)など鉄の状態が悪いことが予想されます。しかし、実際は多くの研究でベジタリアンと非ベジタリアンで、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Hct)、総鉄結合能(TIBC)、血清鉄の状態はほぼ変わらないことが示されています。また、多くの研究データが菜食の鉄の生物学的利用能*が低く、ベジタリアンに推奨される摂取量に対して実勢の摂取量がとても低いため閉経前のベジタリアン女性の鉄の状態は悪いと良そうされますが、予想ほど悪くないことが示されています。

 

理由としては、菜食を始めて、年数がそんなに経っていないことや身体が鉄の低摂取量に対応してきていることが考えられます。菜食の非ヘム鉄の生物学的利用能が70%低いことに反応し、ベジタリアンの便中のフェリチン量は非ベジタリアンに比較してとても低かったことが報告されています(1.0 vs. 6.6μg/日; p<0.01.Am J Clin Nut.1999;944)。さらに、男性において、非ヘム鉄の吸収が、鉄の生物学的利用能が低い食事と高い食事との差が、始めは約5倍だったのが10週間後には約2倍程度になっていたことが報告されています(Am J Clin Nut.2000;94)。つまり、鉄の生物学的利用能の低い食事に身体が対応して、鉄の損失を少なくし、鉄の吸収を良くするという両方の能力を持っているようだ、ということです。これから、ベジタリアンは米国のベジタリアン用の食事摂取基準値ほど鉄の摂取量を一般より高くする必要は無いかもしれません。

 

*生物学的利用能bioavailability: 薬剤学において、服用した薬物が全身循環に到達する割合をあらわす定数である。定義上、薬物が静脈内に投与される場合、そのバイオアベイラビリティは100%となる。一方、薬物がそれ以外の経路(例えば経口摂取など)により投与される場合は、全身循環に到達するまでに不十分な吸収と初回通過効果を受けるため、そのバイオアベイラビリティは減少する事になる。栄養素と薬物以外の食物成分の摂取を対象とする栄養学においてのバイオアベイラビリティは、体内に吸収される物質量と、使用または貯蔵される物質量の割合として定義される。

 

(R Mangels他.The Dietitian's Guide to Vegetarian Diets Issues and Applications 3rd Ed.より)