私事で恐縮ですが、今年の3月2日で30歳になります。わりと最近まで歳を取るのが嫌だったんですが、30歳を超えてもかっこいいと思える人や楽しそうに生きてる人が有名人や周りにたくさんいるせいか、最近は密かに30歳になるのを楽しみにしてたりします。皆さん、お祝いの言葉やプレゼントをお待ちしてます(笑)。
 
 

さて、そんななか、何とはなしに、洋楽ラップを10倍楽しむマガジンでもお世話になっているRAqくんのブログを眺めていたら、最初に読んだ時よりも読み返した今のほうがしっくりくる記事に出会いました。今日はそれについて書きたいと思います。

 
 
 
 

見栄から解放されたJ.Coleは、洗濯物をたたんで歌う。

 
 
 
 
そう、J・コール(J. Cole)についての考察記事です。コールは言うまでもなく僕が好きなラッパーの一人です。
 
どこが好きかと訊かれれば、特筆すべきはストーリーテリングだと思います。特に『2014 Forest Hills Drive』(2014年、以下“2014FHD”)と『4 Your Eyez Only』(2016年)の2作はアルバム全編にわたってストーリーテリングみたいなところもあり、その物語を紡ぎ出すスキルに何度も唸らされ、そして感動させられました。
 
でも、なぜ自分がここまでコールに心動かされるかを考えると、単にストーリーテラーとしての才能があるからだけでなく、いろんな意味で彼にrelateできるからなんだろうなと思います。上掲の記事を読んで、改めてそう感じさせられました。
 
 
具体的にどの部分かというと、この辺りです↓
 

《前略》J.Coleはディーラー的なイケイケな遊び人タイプではなくて、真面目で大学にいくタイプだったと。それで当時はお金もそんなにないし、母子家庭だし、自分は冴えない奴だと思っていた。そのコンプレックスをバネに音楽活動に励んでたんだと思うんですよ。

だから、音楽で成功したときは、ついにこれで誰にもバカにされないイケてる俺になったぜ!!みたいなところで、それがムキになってる感もたまに醸し出したりしてたと思うんですが。

つまり、以前のJ.Coleは「冴えないユースを過ごしたけど、音楽で成り上がって、今ではめっちゃイケてる俺」というコンセプトが強かったと。だから何だか無駄にトゲトゲしてたりして。まぁここら辺は当時の僕の勝手な思い込みもあるかもしれませんが、《後略》

 
 
自分のことで恐縮ですが、2013年に、それこそコールの「Crooked Smile」の歌詞を対訳してから、このブログではちょくちょくヒップホップのことを書いてきました。それが時々好評を頂いて、幸運にも心優しいOG各位にフックアップしていただき、国内盤のライナーノーツやネット記事やミックスCDのコラムを書くまでになりました。もちろん全然まだまだペーペーだけど、その一番の原動力となっているのは「自分の好きな音楽・文化を人に伝えたい」という気持ちです。それは今も昔も変わりません。
 
 
しかし、正直に言うと、その原動力は必ずしもポジティブなものに限りませんでした。
 
ブログ記事を書き始めた頃は、たまにクラブに行ったりストリート系ファッションの人を見かけたりしては、「こいつらストリート気取ってるけどリリック理解してんのか? どーせカッコだけだろーな」と心の中で悪態をついたり、
 
それからクラブで会う知り合いが増えて楽しくなってくると、「濃厚な記事を書く人はパーティー嫌いのもっさりしたオタク」と、誰に言われたわけでもないのに言われたような気がして、それに抗うかのように必要量以上のテキーラをカウンターで注文してみたり(つい数年前の話ですよ?笑)、
 
それが落ち着いてくると今度は「カルチャーを作るのは内省的な文化人じゃなくて若いイケイケな奴ら」みたいな言説に「いや、それも一理あるけど、真摯に向き合ってる人間を軽んじるのは違うでしょ」と冷静に心の中で反論してみたり…
 
普通にイタいなとは自分でも思うんですが、そういうネガティブな気持ちをモチベーションに変えて頑張ってきたのも事実です。
 
 
でも、そんなふうに違和感を覚えるもの・抗いたいもの・チクッと物申したいものなんて、探せばキリがないほどありますよね。そういういわば仮想敵を定めて、それに対する反骨心をモチベーションに頑張るのが一概に悪いことだとは思いません。とはいえ、特段自分の生活や幸せが脅かされているわけでもないのに、常に心のどこかにネガティブなものを抱えながら走るのも健康的じゃないなと、昨秋くらいから思うようになりました。それよりも自分が得たものに目を向け、穏やかでいたいなと。
 
 
上掲の記事を読むと、若き日のコールもムキになったりトゲトゲしたりと、同じように見えない何かに抗ってきたのかなと思います。それは記事中で言及されているリリックに照らし合わせても納得できる部分です。
 
そんなコールが、広義での「賢者モード」に入ったのが2014FHDからだと僕は思います。Complexのインタビューでも話していましたよね、「俺はこれでいいんだ」って。恵まれた自分というものに気づき、無理に何かと抗うことをやめた彼が、心から発した言葉が“No such thing as a life that’s better than yourz”なんだと思います。
 
 
コールが2014FHDをドロップしたのは、彼が30歳になる直前。自分ももうすぐ30歳。上述したようなネガティブな感情がまったく湧かなくなったとまでは言いませんが、奇しくも最近、なんだかんだ自分は恵まれてるなと思う機会が増えてきました。反抗期でもないのに何かに抗いたがる20代の時期を抜けた先に、違う景色が広がっているような気がして、楽しみです。
 
 
 
 
そして、そのJ・コール、Dreamville Recordsのコンピレーション盤『Revenge of The Dreamers III』を制作中とのこと!
 
 
Image via @JColeNC on Twitter
 
 
10日間にわたるレコーディング・セッションにはDreamville内外から多数のアーティスト/プロデューサーが参加している模様。少し古いですが、1月9日時点で参加が確認されているアーティスト/プロデューサー一覧はこちら。当のコール本人も、ヴァースを書いていて涙を流したとツイートしています。
 
 

 

 

これはめちゃくちゃ楽しみですね! 続報を待ちましょう。
 
 
 
 
※明日は成人の日。新成人の皆さん、おめでとうございます。皆さんの多くは今、未来への希望に溢れていて、しかし同時に、これから老いていくという現実を直視したくない気持ちを少なからず抱いていることと思います。でも、大丈夫。これからもきっと余裕で楽しいです。J・コールや僕と同じように、何かトゲトゲとしたものを抱える時期や、そんな自分を省みて自己嫌悪に陥る時期もあるかもしれません。しかし、それらもすべて、よりよい人間になるために必要な経験なんだと思います。どうか、そういう感情を無下にせず、向き合ってみてください。そして、皆さんにも心の底から“No such thing as a life that’s better than yourz”と言える日が訪れることを祈っています。1.5倍長く生きてきた奥田より。