第1 設問1小問1

 1 Dの相談を受けた弁護士としては、Dが本件株主総会1をやめるように求める手

  段として、①監査役による株主総会の差止請求権(385条1項)、②同請求権を被

  保全債権とする仮の差止を求める申立て(民保法23条2項)があると回答すべき

  である。以下、理由を述べる。

 2(1)ア ①監査役による株主総会の差止請求権(385条1項)が認められる為に

    は、差止の対象となる行為をしようとする者が、「取締役」(同項)でなけ

    ればならない。

    イ しかし、本件で株主総会を開催しようとする者は株主乙である。そのため

    本件では「取締役」要件を満たさず、同請求権は発生しないとも思える。

    ウ しかし、乙は、甲の取締役に代わり株主総会を招集しようとするものであ

    る(297条4項柱書)。そのため、乙が本件招集を適法にできるのであれ

    ば、「取締役」と同視できる。そして、乙は以下の通り適法に本件株主総会

    を招集している。

   (ア) 乙は、かねてより公開会社(2条5号)である甲の発行済み株式の20%

     にあたる100万株を保有していた。そのため、乙は「総株主の百分の三…

     以上の議決権を六箇月…前から引き続き有する株主」(297条4項柱書)

     にあたる。

   (イ) 乙は、令和3年7月20日、甲に対し、問題文2の①~④の各議題を明示

     して株主総会の招集を請求した。そのため、乙は、「取締役に対し、株主

     総会の目的である事項…及び召集の理由を示して、株主総会の招集を請

     求」したといえる(同項)。

   (ウ) 以上より、乙は「第一項の規定による請求をした株主」にあたる

    (297条4項柱書)。

   (エ) そして、甲は乙の請求を受けても株主総会の招集通知を発しなかった 

    (299条1項)。その為、本件は「第一項の規定による請求の後遅滞なく招集

     の手続が行われない場合」(297条4項1号、同項柱書)にあたる。

   (オ) そして、乙は「裁判所の許可を得て」(同項柱書)、本件株主総会を

     招集した。

   (カ) したがって、本件で乙は、甲の取締役に代わり、本件株主総会を招集

     しているから、「取締役」(385条1項、297条、299条1項)といえる。

  (3) 本件株主総会に「法令…違反」(385条1項)があり、甲に「著しい損害が

   生ずるおそれがある」(同項)といえる場合、監査役による株主総会の差止請

   求権の要件が認められる。

  (4) 以上より、Dは本件株主総会1をやめるように求めるために、①監査役によ

   る株主総会の差止請求権(385条1項)を行使できる。

 3 また、Dは、上記差止請求権を被保全債権として、仮の差止の申立(民保法23

  条2項)をすることもできる。

 4 したがって、Dの相談を受けた弁護士としては、Dは本件株主総会1をやめ

  るように求める手段として、①監査役による株主総会の差止請求(385条1項)と

  ②同請求権を被保全債権とする仮の差止を求める申立て(民保法23条2項)があ

  ると回答すべきである。

第2 設問1小問2

 1(1)ア 本件決議に不満のあるEが、本件株主総会決議の取消訴訟(831条1項柱

    書)を提起する場合、同項1号に当たると主張することが考えられる。詳細は

    以下の通りである。

    イ Eは、甲の「株主」である(同項柱書)。

    ウ 本件株主総会が行われたのは同年10月20日であるから、Eが提訴しようと

    した同年11月15日は、「株主総会の決議の日から三箇月以内」である(同項 

    柱書)。

    エ(ア) 次に、本件では、招集手続きを行った乙が、招集通知に本件書面を同

      封していた。本件書面には、乙提案の各議案のすべてに賛成した者へは

      1000円相当の商品券を贈呈する旨が記されていた。そこで、Eとしては

      本件「株主総会等の決議の方法」には、株主平等原則(109条1項)違

      反、利益供与違反(120条1項)違反があり、「法令…違反」(831条1項

      1号)があると主張する事が考えられる。具体的な主張は次の通りであ

      る。

     (イ) すなわち、本件株主総会では、乙の提案に賛成した株主とそうでない

      株主を区別し、1000円相当の商品券を贈呈することを内容としている

      が、この取り扱いは「株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、

      平等に取り扱わなければならない」(109条1項)とする株主平等原則に

      反している。

     (ウ) また、本件取り扱いは、甲の株主の議決権行使(105条1項3号)につ

      き、財産上の利益を与えるものであるから、「株主の権利の行使に関

      し、財産上の利益の供与」(120条1項)をするものである。

    オ 以上より、Eは本件株主総会決議には「法令…違反」があると主張し同決

    議の取消訴訟を主張することが考えられる。

  (2)ア しかし、Eのこの主張は妥当ではない。なぜなら、本件では、「法令…違

    反」があるとは言えないからである。

    イ まず、109条1項の主体は、株主が株式を有している「株式会社」である

    ところ、乙は甲株式会社の株主に過ぎない。そのため、乙による商品券の贈

    呈は、「株式会社」によるものではないから、109条1項に違反していない。

    ウ また、120条1項の主体も109条1項と同じく株主が株式を有している「株

    式会社」である。そのため、乙の本件行為は120条1項に違反していない。

 2(1)ア そこで、Eとしては、本件株主総会決議の取消訴訟(831条1項柱書)を提

    起する場合、同項3号に当たると主張することが考えられる。詳細は以下の通

    りである。

    イ 1号で述べた通り、Eの原告適格(同項柱書)、出訴期間(同柱書)の要

    件を満たしている。

    ウ(ア) 「決議につき特別の利害関係を有する者」(同項3号)とは、株主総

      会決議に関し、他の株主と異なる特殊な利害関係を有する者を意味す

      る。

     (イ) 乙は、自己の提案内容を本件株主総会の議題とし、同総会を招集し

      た。この意味で、乙は株主総会決議に関し、他の株主と異なる特殊な利

      害関係を有する者である。

    エ(ア) 「著しく不当な決議がされた」(同号)とは、多数決の濫用により著

      しく少数者の権利を害するような決議がされた場合を意味する。

       (イ)  乙の提案はいずれも出席した株主の議決権の約75%の賛成により可

      決した。同決議に賛成した株主の議決権数は例年よりも約30%増加して

      おり、行使された議決権数のうち賛成票の割合は従来の決議よりも高か

      った。そして、事前に送付された議決権行使書面には、白票が存在しな

      かった。

       この様に、従来よりも多くの賛成票を獲得したのは、乙が自己の議題

      にいずれも賛成した者に1000円の商品券を贈呈としたためである。

       そうすると、本件投票は、乙が甲の株主を利益誘導し、多数決を濫用

      して著しく反対派株主の権利を害するような決議をした場合に当たる。

     オ したがって、本件決議は、831条1項3号の要件を満たす。

  (2)ア Eの主張は妥当である。同項3号の要件の主張につき、以下の通り検討す

     る。

    イ(ア) 「決議につき特別の利害関係を有する者」といえるかという点につい

      ては、甲の多くの株主が乙の議題に賛成し、賛成票が75%にも及んでい

      るから、乙は「決議につき特別の利害関係を有する者」とまでは言えな

      いとも思える。

    (イ) しかし、乙は、自己の提案内容を本件株主総会の議題とし、同総会を

      招集した。この意味で、乙は株主総会決議に関し、他の株主と異なる特

      殊な利害関係を有する者である。その為、乙は「決議につき特別の利害

      関係を有する者」である。また、この様に甲の多数派が賛成している以

      上、「著しく不当な決議がされた」とも言えないとも思える。

   ウ(ア) また、上述のように甲の多数派が賛成している以上、本件決議は「著

      しく不当な決議がされた」とは言えないとも思える。

    (イ) しかし、乙の提案に賛成した株主の議決権数は例年よりも約30%増加

      しており、行使された議決権数のうち賛成票の割合は従来の決議よりも

      高く、事前に送付された議決権行使書面には、白票が存在しなかった。

      今回増加した投票の多くは、乙に賛成する者である。

       この様に、従来よりも多くの賛成票を獲得したのは、乙が自己の議題

      にいずれも賛成した者に1000円の商品券を贈呈としたため為である。

       そうすると、本件投票は、乙が甲の株主を利益誘導し、多数決を濫用

      して著しく反対派株主の権利を害するような決議をした場合に当たる。 

第3 設問2

 1 丙は、本件株式併合(180条1項)の効力を争う為に、株式併合の差止請求

 (182条の3)の手法を採ることはできない。なぜなら、本件では既に株式併合

  がされているからである。

 2 また、株式併合の無効の訴えは法定されていないので提訴できない(828条1項

  参照)。

 3(1) そこで、丙としては、本件株式併合(180条1項)の効力を争う為に、本件

    株主総会決議の取消を主張する事が考えられる。

  (2) 丙は甲の「株主」(831条1項柱書)であるから同訴訟の原告適格がある。 

  (3)  また、本件提訴が、本件株主総会から「三箇月以内」であれば、出訴期間

    要件(同柱書)を満たす。

  (4) 本件では、適法に株主総会が招集されているので(299条1項、180条2項

    柱書)、「招集の手続」に「法令…違反」はない(831条1項1号)。

  (5) また、本件では、適法に株式併合の説明がされているので(180条4項)、

    招集手続に法令違反はない(831条1項1号)。

  (6)ア 「決議につき特別の利害関係を有する者」(同項3号)とは、株主総会決

     議に関し、他の株主と異なる特殊な利害関係を有する者を意味する。

      甲の株主はABC丙である。ABCは、本件株主総会で株式併合をする

     ことで、丙の持ち株数を端株とすることを目的としている。この意味で、

     ABCは株主総会決議に関し、丙と異なる特殊な利害関係を有する者であ

     る。

    イ 「著しく不当な決議がされた」(同号)とは、多数決の濫用により著し

     く少数者の権利を害するような決議がされた場合を意味する。

      本件議案は甲株主の中から、丙の持ち株を端株とすることを目的とする

     ものである。その理由としてAは「甲社と競合関係にある丁社のために経

     営に介入されることを防ぎ、甲社の独立を維持するために、弊社を締め出

     す必要がある」としている。

      しかし、ABCが賛成する独立を維持する案も、丙が賛成する甲を丙の

     完全子会社とする案もどちらもあり得る見解であり、どちらかが優れてい

     るとは言えない問題であった。それにもかかわらず、十分な議論もなく、

     ABCの多数派が少数派の丙を甲の株主から締め出すことは、多数決の濫

     用により著しく少数者の権利を害するような決議がされた場合にあたる。

      そうすると、本件決議は「著しく不当な決議がされた」場合に当たる。

    ウ したがって、本件決議は、831条1項3号の要件を満たす。

 4 以上より、丙は、本件株式併合(180条1項)の効力を争う為に、本件株主総会

  決議の取消を主張する事が考えられる(831条1項柱書)。

以上