【設問1】
第1 本件鑑定書は証拠能力が否定されるので、「証拠」(317条)とは言えない。

  なぜなら、本件鑑定書は先行する捜査手続の違法性を承継し、証拠能力が否定さ

  れるからである。詳細を以下の通り述べる。
第2 職務質問(警職法2条1項)の適法性
 1 Pは甲に職務質問をしているが適法か。行政警察活動としての職務質問として 

 「停止させて質問」(同項)する場合に当たるか問題となる。
 2(1) 周囲の事情
    甲は、覚醒剤の密売拠点と疑われる本件アパートから出てきた人物から夜の8

   時頃、I市内の路上で本件封筒を受け取って本件カバンに入れた。このことか

   ら、甲は、覚せい剤有償譲受け罪(覚せい剤取締法41の2第1項)を犯したこと

   が推認できる。
    また、甲には覚醒剤取締法違反(使用)の前科があった。本罪の再犯率は

   非常に高いことからも、甲が本件カバンに入れたものは覚せい剤のおそれが

   あった。
   (2) 異常な挙動
    甲は異常に汗をかき、目をきょろきょろさせ、落ち着きがないなど、覚醒剤 

   常用者の特徴を示していた。そのため、甲は覚せい剤を直近でも使用していた

   ことが推認できる。
    また、この特徴から、Pが本件封筒の中に覚醒剤が入っているとの疑いを

   強め、甲に対し、「封筒の中を見せてもらえませんか。」と言ったところ、甲

   がいきなりその場から走って逃げ出した。これは、封筒の中身が警察官に見ら

   れたくないものだからと推認できる。そして、前述の通り、甲は覚せい剤を

   入手していた虞がある以上、本件封筒の在中物は覚せい剤の可能性がある。
  (3) 小括
    そうすると、甲は「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らか

    の犯罪を犯し」た「と疑うに足りる相当な理由のある者」(警職法2条1項)と  

    いえる。
 3 以上より、Pは甲を「停止させて質問」(同項)する為の要件を満たしていた。
 4 したがって、本件職務質問は適法である。
第3 所持品検査の適法性 
 1 Pは甲のカバンのチャックを甲の許可なく開け、その在中物を手で探った。同所

  持品検査は適法か。法律による行政の原理との関係で、そもそも同行為が許され

  るか問題となる。
 2(1) 所持品検査は職務質問における口頭による質問と密接に関連し、かつ職務質

   問の効果を上げる上で必要性、有効性のある行為である。そのため、所持品検

   査は、職務質問の付随行為として、警職法2条1項を根拠にして認められる。
    もっとも、所持品検査は警職法上の行為としてなされる以上、「必要な最小

   の限度において用いるべき」であり、(同法1条2項)、強制処分(法197条但

   書)によることはできない。そこで、対象者の承諾なき所持品検査は、捜索に至

   らない程度の行為であり、強制処分にあたらない限り許容される(以上、米子

   強盗事件最高裁判決参照)。
  (2) Pは、甲に対し「何で逃げたんだ。そのかばんの中を見せろ。」と言いなが

   ら、いきなり本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その中を

   のぞき込みながらその在中物を手で探った。これは、甲の意思に反して甲の私

   的領域である甲のカバン内に侵入する行為である。
  (3) 以上より、本件所持品検査は無令状捜索(218条1項)にあたる。
 3 したがって、本件所持品検査は違法である。
第4 カバンの証拠能力
 1 本件カバンは、本件所持品検査により、捜査機関に収集されている。そのため、

  本件カバンとその在中物である注射器は違法週証拠として、証拠能力が排除され

  る。理由は、以下の通りである。
 2(1) 違法捜査によって収集された証拠を「証拠」(317条)として許容すると、

   令状主義(憲法33条、同35条1項、法199条1項本文、217条1項)や将来の違

   法捜査の抑止といった「適正」手続(憲法31条、法1条)上の問題が生じる。

    しかし、証拠集手続きが違法だからといって、それによって収集された証拠

   を全て証拠排除すると、「真相」(1条)究明の観点から妥当でない。特に、

   物的証拠は、収集手続に瑕疵があっても、証拠価値に変わりはない。
    そこで、違法収集証拠の証拠能力が否定される場合とは、㋐証拠収集手続に

   令状主義の精神を没却する様な重大な違法性があり、㋑証拠能力を認めると

   将来の違法捜査抑制の見地から妥当ではない場合に限定すべきである。
  (2)ア Pは、甲に対し「何で逃げたんだ。そのかばんの中を見せろ。」と言いな

    がら、いきなり本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その

    中をのぞき込みながらその在中物を手で探った。Pとしては、真摯に甲を説

    得し、任意でカバンの在中物を確認すべきであった。また、一人での説得が

    困難であれば無線で応援を呼び、複数人で説得するべきであった。
     それにもかかわらず、Pはこれらの説得をせず、突然甲の意に反して本件

    所持品検査に及んだ。これは、㋐本件所持品検査に令状主義の精神を没却す

    る様な重大な違法性があることを意味する。
   イ また、Pはその後の捜索差押許可状の発布手続において、捜査報告書①②

    を作成した。その際、捜査報告書①には職務質問の経緯として、覚醒剤の密

    売拠点と疑われる本件アパートから出てきた人物から甲が本件封筒を受け取

    って本件カバンに入れたこと、甲には覚醒剤取締法違反(使用)の前科があ

    ること、甲が覚醒剤常用者の特徴を示していたこと及び甲は本件封筒の中を

    見せるように言われると逃げ出したことが記載されていた。
     しかし、捜査報告書②には、本件かばんのチャ ックを開けたところ注射器

    が入っていた旨記載されていたが、Pが本件かばんの中に手を入れて探り、

    書類の下から同注射器を発見して取り出したことは記載されていなかった。  

    この様に、Pは自らが令状主義に反する違法な所持品検査をしたことを糊塗

    しようとして、この点については記載しなかった。
     このような経緯で収集された本件カバンとその在中物の注射器に㋑証拠能

    力を認めると将来の違法捜査抑制の見地から妥当ではない。
  (3) したがって、本件カバン・その在中物の注射器は、違法収集証拠として証拠

    能力が排除される。
第5 鑑定書の証拠能力
 1 本件鑑定書は、証拠能力のない本件カバン内側のサイドポケットにあった覚せい

  剤に関するものである。本件覚せい剤は、証拠能力のない証拠によって発見され

  た証拠であり、いわゆる毒樹の果実といえ、証拠能力が否定される。以下、その

  理由を述べる。
 2(1) 証拠能力のない証拠によって収集された証拠の証拠能力を肯定すると、違法

   収集証拠の証拠能力を否定した目的が没却される。しかし、常に毒樹の果実の

   証拠能力を否定すると、両証拠間の関連性が乏しい場合にまで証拠能力を否定

   することになり、「真相」究明を害する。

    そこで、毒樹の果実が証拠能力を否定される場合とは、ⓐ第一次証拠の収集

   手続の違法性の程度、ⓑ両証拠間の密接関連性を考慮して決する。
  (2)ア 前述の通りⓐPのした本件カバンに対する所持品検査には重大な違法性が

    ある。

    イ 次に、本件覚せい剤は、本件カバンの在中物であったことから、ⓑ本件

    カバンと本件覚せい剤に関する鑑定書の間には密接関連性がある。
    ウ また、本件では、鑑定書を作成する上で第一次証拠に関する証拠の違法性

    が希釈化されるような事情はなかった(希釈化の法理、不可避的発見の法

    理、プレインビューの法理)。
  (3) したがって、本件鑑定書は、毒樹の果実として証拠能力が排除される。
【設問2】
第1 捜査①の適法性
 1(1) 捜査①のビデオ撮影は、五感の作用で人・物・場所等の状況を認識する検証

   としての性質を有しているため、強制処分(197条但書)に当たる場合、検証

   令状(218条1項)が必要となる。しかし、本件では同令状がなく、令状主義に

   反することとなる。そこで、捜査①が強制処分に当たるか問題となる。
  (2) まず、相手方の同意がある場合は「強制」(同但書)とはいえない。また、

   憲法35条が例外的に令状のある場合に限り「住居、書類及び所持品」について

   「侵入、捜索及び押収」を認めていることから、これらに準じるような個人の

   重要な権利を制約する場合に限り、強制処分を認めるべきである。
    そこで、「強制の処分」(同但書)とは、❶相手方の意思に反して、❷個人

   の重要な権利利益を実質的に制約する捜査のことを意味する。
  (3)ア 本件アパート201号室の男性は、警察官から捜査のために撮影されるこ

    とを了解していない。また、同男性が撮影された場所は、喫茶店である。喫

    茶店は、京都府学連事件の事案と異なり、公道ではないので、同男性はみだ

    りに自己の容貌を撮影されない自由(プライバシー権、憲法13条後段)を

    放棄していないとも思える。
     しかし、本件喫茶店は公道よりは閉鎖された空間ではあるが、不特定多数

    人が出入りする空間であり個室でもない。そのため、本件喫茶店は、不特定

    多数人から見られる場所である。この意味で、同男性は、肉眼で視認される

    程度の容貌を見られることを容認していたと言える。この意味で上記自由は

    放棄されている。
     したがって、撮影①は❶相手方の意思に反していない。
   イ また、同男性は上記容貌を撮影されない自由を放棄しているので、捜査①

    は、❷個人の重要な権利利益を実質的に制約していない。
   (4) したがって、捜査①は強制処分に該当しない。
 2(1) 強制処分に当たらないとしても、「捜査…目的を達するため必要な」捜査

   (197条1項本文)といえず違法ではないか。任意捜査の限界を越えていないか

   問題となる。
   (2) 任意捜査は、捜査比例の原則(同本文)から、当該捜査をする必要性・緊急

   性があり、その捜査により得られる利益と制約される利益を比較衡量して相当

   と言える場合、適法である。
   (3)ア 本件被疑事実は、覚せい剤有償譲渡罪(法41条の1第1項)である。同罪 

    には、1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金が法定されており(同条2

    項)、重大犯罪である。
     また、同罪は、被害者なき犯罪であること、暴力団組織等による組織的犯

    行によりなされること、覚せい剤は容易に廃棄ができること等から、他の犯

    罪に比べ、捜査が困難である。そのため、同罪の捜査に当たっては、密行的

    な捜査が必要である。
     したがって、同男性が乙と言えるかを確認するために、捜査①をする必要

    性があった。
   イ 上記事情に加えて、覚せい剤売買により得た収益は、多くの場合、暴力団

    組織に流れて反社会的組織の資金源となる。そして、薬物乱用者による犯罪

    等のリスクも高まる。そのため覚せい剤が市中にこれ以上出回る前に、捜査

    を進める緊急性もあった。
     そのため、捜査①をする緊急性もあった。
   ウ 本件捜査により得られる利益は、上記重大事件の捜査の進展である一方

    で、制約される利益は、同男性の要望を撮影されない自由である。しかし、

    同自由は前述の通り放棄されている。したがって、捜査①で得られる利益が

    大きい。
   エ 以上より、捜査①は相当である。
  (4)したがって、捜査①は任意捜査として許される。
 3 以上より、捜査①は適法である。
第2 捜査②の適法性
 1(1) 捜査②のビデオ撮影は、強制処分に当たるか。捜査②は、捜査①と異なり、

   喫茶店ではなく、201号室の玄関ドアやそこに面している共用通路を映してい

   るため、強制処分に当たらないか。強制処分に当たる場合、本件撮影は無令状

   検証となるため、問題となる。
   (2) 強制処分の意義は、【設問2】第1.1.(2)の通りである。
   (3)ア 本件アパート201号室の男性は、警察官から捜査のために撮影されるこ

    とを了解していない。また、同男性が撮影された場所は、201号室に面した

    共用通路と同室の玄関である。共用通路は、他の人から見られる可能性もあ

    る以上、自己の要望を見られることは容認していたと言える。そのため、共

    用通路において撮影されない自由は放棄されていたと言える。
     一方で、玄関は男性の「住居」でもあり、憲法35条も令状を要求している

    私的領域である。この点を強調すると、合理的に推認される同男性の意思と

    しては、撮影を容認していなかったといえる。
     しかし、本件玄関は、公道から見える場所にあり、Pが撮影したビルの

    部屋からも視認できるものであった。この見通し状況や、見られる場所が

    玄関付近に過ぎないということを考えると、本件玄関を外部から見られるこ

    とは容認していたと言える。そのため、本件玄関において撮影されない自由

    は、放棄されていたと言える。
     したがって、撮影②は❶相手方の意思に反していない。
   イ また、同男性は上記容貌を撮影されない自由を放棄しているので、捜査②

    は、❷個人の重要な権利利益を実質的に制約していない。
   (4) したがって、捜査②は強制処分に該当しない。
 2(1) 強制処分に当たらないにせよ、捜査②は任意捜査の限界を越えていないか。
   (2)任意捜査の限界に関する基準は、【設問2】第1.2.(2)の通りである。
   (3)ア  本件被疑事実は、前述の通り重大であり、捜査の密行性が特に必要であっ

    た。そのため、被疑者乙と本件男性の同一性を確認する必要性は高かった。
      そして、本件では、公道からだとすぐに同男性に撮影が発覚してしまうの

    で、本件ビルから撮影する必要は高かった。
   イ また、市中に覚せい剤が回らないようにするため、本件捜査手法による

    緊急性もあった。
   ウ 本件捜査により得られる利益は、上記重大事件の捜査の進展である一方

    で、制約される利益は同男性の要望を撮影されない自由である。しかし、同

    自由は前述の通り放棄されている。したがって、捜査①で得られる利益が

    大きい。
   (4) したがって、捜査②は任意捜査として許される。
 3 以上より、捜査②は適法である。
                                    以上