第1 設問1 甲の罪責

 1 甲はAの頭部を拳で殴り、腹部を繰り返し蹴り、人の身体に不法な有形力の行使

  をしたので、甲はAに「暴行」(208条)をしたといえる。同暴行の結果、Aは肋

  骨骨折等の「傷害」(204条)を負った。甲は上記暴行を意図的に行ったので、

  傷害罪の故意もある(204条、38条1項本文)。

   そのため、甲には傷害罪が成立する。

 2(1) 甲がAの財布を入手した行為につき、強盗罪(236条1項)が成立する。理由

   は以下の通りである。

   (2) 本件財布は、Aが所有し占有していた財産的価値を有する財物であるから、

   「他人の財物」(236条1項)にあたる。

   (3)ア 次に、甲はAの意に反してAの財布の意占有を自己に移転させているが、

    これは「暴行又は脅迫」(同項)を用いて「強取」(同項)しといえるかを

    検討する。

   イ 強盗罪の本質は、犯行抑圧程度の暴行又は脅迫を用いて財物の占有を自己

    の下に移転させる点にある。そこで、「暴行又は脅迫」とは、犯行抑圧程度

    の暴行又は脅迫を意味し、「強取」とは、かかる「暴行又は脅迫」を用いて

    他人の財物の占有を自己に移転させることを意味する。

   ウ この点、甲は「この財布をもらっておくよ。」と言ってAの財布を自分の

    ポケットに入れたに過ぎない。そうすると、犯行抑圧程度の暴行・脅迫は

    なく、単なる「窃取」(235条)をしたに過ぎないとも思える。

     しかし、甲は上記発言の直前にAに対し、殴る蹴る等の暴行を加え、肋骨

    骨折等の重傷を負わせ、転倒させた。そして、甲はAが転倒したままで、恐怖

    で抵抗できないことを知りながら、上記発言をした。本件犯行に及んだ場所

    は、人がいない夜の公園であり、Aとしては助けを求められる状況ではなく、

    犯行抑圧状態にあった。この様な状況下で、直前にAに激しい暴行を加えた甲

    が、上記発言をすれば、Aとしては犯行が抑圧される。この意味で、甲の本件

    発言は、犯行抑圧程度の「脅迫」(236条1項)にあたる。

   エ したがって、甲はAの財布を「強取」(同項)したといえる。

   (4) 甲は、上記発言を意図的に行っており、強盗罪の故意(38条1項本文、236

   条1項)がある。また、財布に在中している6万円を自己の物にしたくなり財布

   の占有を取得したことから、甲には不法領得の意思もある。

   (5) 以上より、甲には強盗罪(236条1項)が成立する。

 3(1) 甲は、人のいない夜の公園で、Aをその場に留め置きAを追求しようとして

   見張っていた。そして、その後、見張りの為にグループの配下の乙を呼び、Aの

   見張りをさせた。

   (2) 「監禁」(220条)とは、人の身体を直接する態様である逮捕以外の方法

   で、人の身体の自由を制限することをいうので、上記行為はまさに「監禁」に

   あたる。

    そして、甲は上記行為を意識的に行っているので監禁罪の故意(38条1項

   本文、220条)がある。また、以下の通り、本件では、甲乙は監禁罪の共同

   正犯(60条、220条)となる。

   (3) したがって、甲は乙と共にAに対する監禁罪の共同正犯が成立する。

 4 以上より、甲には、①傷害罪(204条)、②強盗罪(236条1項)、③監禁罪の 

  共同正犯(60条、220条)が成立する。①は②に吸収され、②と③は「確定裁判

  を経ていない二個以上の罪」であるから併合罪となる(45条前段)。

第2 設問1 乙の罪責

 1(1) 乙は、甲の代わりにAを見張っていたので、Aに対する監禁罪の共同正犯(60

   条、220条)となる。以下、その理由を述べる。

   (2) 共同正犯(60条)の本質は、犯人が相互に因果的影響力を及ぼし合い、特定

   の犯罪を実現する点にある。そうすると、共同正犯の成立要件は、①特定の

   犯罪に対する共謀、②共謀に基づく実行行為である。また、共同正犯も正犯で

   ある以上、③正犯意思(38条1項本文)が必要である。

   (3)ア 甲に呼ばれB公園に行くと、甲から「小遣いをやるから、Aを見張って

    おけ。」と指示を受けた。これに対し、乙は「分かりました。」と答えた。

    その為、甲乙間には、①監禁罪の現場共謀が存在した。

   イ 次に、乙は甲の代わりに公園から逃げぬよう、Aを見張っていた。Aと乙

    は、夜で人のいないB公園におり、Aは骨折をし、倒れていた為、犯行抑圧

    状態にあった。この状態で、Aが乙から逃げ出すことは困難であり、乙の見張

    行為は、②監禁罪の共謀に基づく実行行為といえる。

   ウ そして、乙は甲から対価として財布の中身の半分に当たる3万円を甲から

    受領している。利益の分け前から乙の本罪における貢献度は大きいといえ、

    また乙が一人でAを見張っていた時間もあることから、乙には➂監禁罪の正犯

    意思もある。

   (4) したがって、乙は甲と共にAに対する監禁罪の共同正犯(60条、220条)と

   なる。

 2(1) 次に、Aの預金カードの占有を取得した乙がAから同カードの虚偽の暗証番号

   を聞き出した行為について、乙には、強盗利得未遂罪(243条、236条2項)が

   成立する。以下、その理由を述べる。

   (2)ア 乙は、Aに犯行抑圧程度の脅迫をしているから、「前項の方法」(236条

    2項)を用いている。理由は次の通りである。

   イ 乙は、甲からAが暴力を振るわれて倒れていることを認識していた。その

    上で、乙は、本件カードをAの財布から取り出して、倒れたままのAに見せ

    つつ、持っていたバタフライナイフの刃先をAの眼前に示しながら、「死に

    たくなければ、このカードの暗証番号を言え」と言った。先行する暴行で    

    立ち上がる事すらできないAにとり、バタフライナイフという性質上の凶器

    を眼前に示されて「死にたくなければ」といわれれば、反抗することはでき

    ない。

     そのため、乙は、Aに対して犯行抑圧程度の脅迫を用いている。

   (3)ア 次に、乙はAから同カードの暗証番号を聞いたに過ぎない。この場合、

    暗証番号の聞きだしにより、「財産上…の利益」(236条2項)を取得した

    といえるか。

   イ 強盗罪(236条1項)との均衡から、強盗利得罪の「財産上…の利益」と

    は、一定の財産上の利益を使用・収益・処分する地位を取得したことを意味

    する。

   ウ 暗証番号自体は、単なる4桁の数字の羅列であり、それ自体に財産上の価値

    はない。しかし、Aのキャッシュカードを占有している乙が、同カードの正し

    い暗証番号を知ると、乙はATMから現金を引き出すことができる。そし

    て、本件では、B公園の付近にコンビニエンスストアがあり、現に乙がB

    公園に着いてから15分程度で同コンビニのATMから金銭を引き出せる状況

    であった。

     そうすると、乙が、同カードの正しい暗証番号を知ることは、同カードを

    用いてAの預金を引き出せる法的地位を取得することしたことを意味する。

     しかし、本件番号は誤りであり、乙はAの預金を引き出す地位を得ては

    いない。

     エ したがって、乙は「財産上…の利益」(236条2項)を得てはいない。

   (4) 乙は、上記行為を意図的に行っているので、強盗利得未遂罪の故意を有して

   いる(243条、236条2項)。

    また、乙はAの預金を引き出して奪おうとしていたのだから、不法領得の

   意思もある。

   (5) 以上より、乙には、強盗利得未遂罪(243条、236条2項)が成立する。

 3(1) 次に、乙はコンビニATMからAの預金を引き出そうとしたが、引き出せなか

   った行為について、乙に窃盗未遂罪(243条、235条)が成立する。以下、理由

   を述べる。

   (2) ATM内の金銭は、ATMを設置した銀行の管理者が占有する財産的価値を有す

   る有体物であるため、「他人の占有する財物」(235条)である。

   (3)ア 次に、乙は正しくない暗証番号をAから聞いたにすぎず、ATMから現金を

    引き出せなかったので、占有者の意思に反して担任の財物の占有移転をした

    とはいえないため、「窃取」(235条)をしたとはいえない。しかし、窃盗

    罪の「実行に着手」(43条本文、235条)したとして、未遂罪の客観的構成

    要件に該当していないか検討する。不能犯と未遂犯の区別が問題となる。

   イ 不能犯、未遂犯のいずれにあたるかは、構成要件該当性の問題である。そ

    して、構成要件は、当罰的行為を社会通念に基づき類型化した行為規範であ

    る。

     そうすると、㋐行為時に、㋑行為者が認識していた事実で客観的に正しい

    事実および一般人が認識しえた事実を基礎とし、㋒一般人を基準として、法

    益侵害の現実的危険性が肯定できる場合、未遂犯となり、そうでない場合は

    不能犯となると解する。

   ウ 本件暗証場号は虚偽であった。しかし、一般人からすると、人気のない夜

    の公園で倒れたままのAが乙から性質上の凶器を眼前に示されて「死にたくな

    ければ、このカードの暗証番号を言え」と脅迫をされて、Aが述べた暗証番

    号は正しいものと認識するのが通常である。なぜなら、これが虚偽だと乙に

    知られると、Aはナイフで攻撃をされるおそれがあるからである。

     そうすると、㋐乙の現金引き出し行為時に、㋑一般人が認識しえた事実を

    基礎とすると、乙がAから聞いたカードの暗証番号は正しいものである。そ

    して、同番号を用いてATMにその暗証番号を入力すれば、㋒一般人を基準

    として、法益侵害の現実的危険性が肯定できる

   エ したがって、乙は窃盗罪の「実行に着手」(43条本文、235条)したとし

    て、窃盗未遂罪(243条、235条)の客観的構成要件に該当する。

   (4) 乙は、上記行為を意図的に行っているので、窃盗未遂罪の故意を有している

  (243条、235条)。

    また、乙はAの預金を引き出して奪おうとしていたのだから、不法領得の意

   思もある。

   (5) したがって、乙には、窃盗未遂罪(243条、235条)が成立する。

 4 以上より、乙には、①監禁罪の共同正犯(60条、220条)、②Aに対する強盗利

  得未遂罪(243条、236条2項)、➂ATMを設置した銀行の管理者に対する窃盗未

  遂罪(243条、235条)が成立する。②と③は被害者が異なるので、吸収関係はな

  い。そこで、①②③は全て「確定裁判を経ていない二個以上の罪」であるから併

  合罪となる(45条前段)。

第3 設問2(1)

 1  まず、前提として丙は2回にわたり意図的にCに殴打をしている。そのため、こ

  れらは、それぞれ暴行罪(208条)の構成要件に該当している。

   しかし、以下に述べる通り、丙には正当防衛(36条1項)が成立する。

 2(1)ア 丙は、興奮したCから一方的に顔面を拳で数回殴られた後、Cがまた丙に殴

    りかかろうとしていたので、「不正の侵害」(36条1項)があった。そのた

    め、この直後に行われた1回目殴打との関係では、「不正の侵害」があった。

   イ また、丙の2回目殴打の直前に、Cは丙に殴りかかっていたので、丙の2回 

    目殴打との関係でも、「不正の侵害」があった。

   (2)ア 次に、正当防衛は、国家による救済を待っていられない場合に私人が行う

    ものであるから、「急迫」性(36Ⅰ)とは、法益侵害の現実的危険性が現存

    している場合または間近に迫っていることをいう。

   イ 本件では、1回目殴打の直前に、Cは丙に殴りかかろうとしていた。また、

    2回目殴打の直前に、Cは丙に殴りかかっていた。そうすると、両方の殴打行

    為の直前に、丙の身体の安全という法益に対する現実的危険性が間近に迫っ

    ていた。

     ウ したがって、上記「不正の侵害」には、いずれも「急迫」性があった。

   (3)ア 次に、違法性の本質は、社会的相当性を欠く法益侵害であるから、客観面

    だけでなく主観面も含めて違法性の判断をする。そうすると、正当防衛の要

    件である「防衛するため」(36条1項)とは、防衛の意思を意味する。

     そして、正当防衛は、緊急状態で行われるものである以上、防衛の意思

    は、急迫不正の侵害を避けようとする単純な心理状態を意味し、攻撃の意思

    が防御の意思と併存していても肯定される。

   イ 1回目殴打の際、丙はCから殴りかかれそうだったので、殴り返したに過ぎ

    ない。そのため、1回目殴打の際、丙には急迫不正の侵害を避けようとする単

    純な心理状態があったといえる。

   ウ 2回目殴打の際、丙はCから殴りかかれたので殴り返したが、この際、丙

    には反撃の意図もあった。しかし、攻撃の意思が主体ではなく、防御の意思

    と併存したにすぎないため、2回目殴打の際にも、丙には急迫不正の侵害を

    避けようとする単純な心理状態があったといえる。

   エ したがって、丙のした2回の殴打のいずれも、防衛の意思の下で行われてお

    り、「防衛のため」にした行為といえる。

   (4) 丙がCに殴らないと、丙がCから殴られる状況であったから、丙の2回の殴打

   行為は、いずれも「自己…の権利を防衛する」行為(36Ⅰ)であった。

   (5)ア 次に、「やむを得ずにした行為」(36Ⅰ)とは、㋐防衛行為の必要性、㋑

    相当性(武器対等の原則)を意味するが、正当防衛は、緊急状況下で行われ

    るものであるから、厳格なものは要求しない。すなわち、㋐はその防衛行為

    をすることが必要であったことを意味して唯一の手段であったことまでは要

    求されない。また、㋑は防衛行為が相当であったことを意味し、正対不正の

    関係に立つ以上、正対正の緊急避難程には厳格に解さない。

   イ まず、1回目殴打の際、丙はCから殴りかかられそうになっており、「Cを

    殴るのもやむを得ない」状況であった。そのため、1回目殴打には、㋐防衛

    行為の必要性が認められる。

     また、2回目殴打の際、丙はCから殴りかかられていたので、「Cを殴るの

    もやむを得ない」状況であった。そのため、2回目殴打にも、㋐防衛行為の

    必要性が認められる。

   ウ 次に、1回目殴打の際、丙の近くに甲がいたので、丙側は数的有利な状況に

    あり、㋑防衛行為の相当性はなかったとも思える。しかし、甲は2m離れた

    ところで丙とCの様子を見ているだけであり、実質的に見ると、丙とCは1対

    1であり、丙が数的有利だったとは言えない。また、丙の殴打はCの殴打と同

    じ殴打行為である。そのため、1回目殴打には、㋑防衛行為の相当性が認め

    られる。

     また、2回目殴打の際、丙側には丁もいたが、丁はバイクから丙を見守っ

    ただけであり、丙が数的有利だったとは言えない。また、丙の殴打はCの殴打

    と同じ殴打行為である。そのため、2回目殴打にも、㋑防衛行為の相当性が

    認められる。

   エ したがって、丙の両方の殴打行為は「やむを得ずにした行為」である。

 3 以上より、丙には正当防衛が成立する。

第4 設問2(2)丁の罪責

 1 丁は、丙の2回目の殴打行為に対して、「頑張れ。」と応援しているが、同行為

  に現場助成罪(206条)は成立しない。なぜなら、丙には暴行罪(208条)

  が成立するに留まり、傷害罪(204条)・同致死罪(205条)が成立しない

  ため、「前二条の犯罪が行われる」場合(206条)に当たらないからである。

 2(1) 次に、丁が丙の2回目殴打行為につき応援した行為につき、暴行罪の幇助犯 

  (62条1項、208条)が成立するか。

   (2)ア 狭義の共犯の処罰根拠は、共犯が正犯に因果的影響力を与え、法益侵害を

    した点にある。そうすると、幇助犯の場合、共犯が正犯に実行行為を物理

    的・心理的に容易にすることが、「幇助」行為(62条1項)に当たる。

     丁は、「頑張れ。ここで待っているから終わったらこっちに来い。」と丙

    に伝え、丙はそれにより発奮し、Cに殴打している。そのため、丁は丙の実

    行行為を心理的に容易にしたといえる。

    イ また、上記行為を丁は意図的に行っているので、暴行幇助の故意(38条1項  

    本文、62条1項、208条)がある。

    (3)ア そうだとしても、丁に正当防衛が成立しないか。狭義の共犯の場合、誰を

    基準に正当防衛の成立要件を判断するか問題となる。

    イ 共犯と正犯の間では「違法性は連体し、責任は個別に判断する」というもの

    が原則である。そうすると、正犯とは別に共犯の正当防衛の要件充足性を検

    討すべきと思える。

     しかし、狭義の共犯は、正犯の存在を前提とする以上、共犯なき正犯は認

    められない。この意味で、正犯が正当防衛により違法性阻却される場合、正

    犯が存在しなくなるので、狭義の共犯にも正当防衛により違法性が阻却され

    る。

   ウ 本件では、正犯の丙は本件暴行につき、正当防衛により違法性が阻却され

    る。そのため、丙には暴行罪が成立しない。そうすると、幇助犯である丁も

    正当防衛により犯罪が成立しない。

   エ したがって、丁にも正当防衛が成立しない。

 3 以上より、丁には犯罪が成立しない。

第5 設問2(2)甲の罪責

 1 甲には、2つの殴打行為について暴行罪の共同正犯(60条、208条)が成立す

  る。理由は以下のとおりである。

 2 甲は丙にCを殴るよう指示し、丙がCに殴っている。そのため、甲丙間で暴行の

  現場共謀があり、実行行為もある。

 3 この点、共犯間においては、違法は連帯し責任は個別に判断する。そうすると、

  本件では丙に正当防衛が成立する以上、甲も違法性が阻却されるとも思える。

   しかし、正当防衛には個別に要件を判断するため、正当防衛の成立は、共犯間

  で独立して検討する。そうすると、甲には、積極加害意思があり、侵害の窮迫性

  がなく、防衛の意思もないので、正当防衛が成立しない。                                       

                                    以上

 

設問2(2)は実質的に見て途中答案