第1 設問1課題1
1 任意的訴訟担当の意義
 (1) 任意的訴訟担当とは、自己の代わりに第三者に訴訟当事者として訴訟追行を

   担当させる制度をいう。訴訟担当者は、訴訟代理人と異なり、当事者適格を有

   することが必要である。 
 (2) 任意的訴訟担当には、明文がある場合と明文が無い場合がある。前者の例が

   選定当事者(30条1項)であり、後者の例が明文なき任意的訴訟担当である。

   後者を認めるか否かは明文に無いことから、争われることがある。
2 明文なき任意的訴訟担当の要件
 (1)ア 任意的訴訟担当は、当事者適格を有する者に訴訟遂行を委ねるものであ

    る。そのため、明文なき任意的訴訟担当の要件としては、①他の当事者適格

    を有する者からの授権が必要である。
    イ また、自由に明文なき任意的訴訟担当を許すと、弁護士代理の原則(54条1

    項本文)や訴訟信託を禁止した法の趣旨である、三百代言の跳梁を許さない

    という理念が害され得る。そのため、同訴訟担当の要件として、②弁護士代

    理の原則を害さないことも必要である。
    ウ したがって、明文なき任意的訴訟担当の要件は、①他の当事者適格を有する

    者からの授権、②弁護士代理の原則を害さないことの2つである。
 (2) この点に関し、本件最判は、多数人が構成員となっている組合内部におい

   て、任意的訴訟担当を認めるか否かが争われた事案である。
    同判例も、訴訟信託を禁止した法の趣旨や弁護士代理の原則等を重視し、明

   文なき訴訟担当を無制限に許すことはせず、一定の要件が必要と判示した。そ

   の要件は、上記①②と同様である。
第2 設問1課題2
1(1) まず、本件判例では、他の組合員から訴訟担当となる旨の授権が書面でなさ

   れていた。そのため、本判決では①他の当事者適格を有する者からの授権があ

   った。
 (2)ア 一方で、本件では、他の相続人X2・X3からX1に対し、訴訟担当となる旨

    の授権が書面ではなされていないものの、口頭で為されている。
    イ そもそも、本件では、Aの死亡によりAの子であるX1・X2・X3は、Aを相続

    した(民法882条、887条1項、896条本文)。そして、遺産分割により、X1

    らは1/3ずつ本件建物を共有している。そのため、X1らは、相続財産に関す

    る本件訴訟の当事者適格を各自が有している。
    ウ そして、授権の形式については、明文ある任意的訴訟担当に関する30条が

    規定していないこととの均衡から、明文なき任意的訴訟担当でも、口頭での

    授権がされていれば足りると解する。
    エ そうすると、本件では、X1・X2から遺産分割協議の際に本件建物について

    の訴訟業務はX3が自己の名で行うよう取り決めがなされ、本件提訴をする際

    もX1・X2からX3が訴訟担当として訴訟をするよう授権を受けている。
 (3) 従って、本件でX3は、①他の当事者適格を有する者からの授権を受けたとい

   える。
2(1) 次に、本件では、X3を任意的訴訟担当にすることは、②弁護士代理の原則を

   害する。以下、その理由を述べる。理由を述べるに当たり、ⓐ構成員の性質、

   ⓑ構成員となる根拠、ⓒ明文なき任意的訴訟担当を認める必要性といった視点

   から、本件最判との異同を検討する。
 (2) ⓐ構成員の性質
    ア 本件最判の事案では、組合員が他の多数の組合員から任意的訴訟担当の授権

    を受けていた。他方で、本件では相続人3人のうち、X3が残りの相続人から

    任意的訴訟担当の授権を受けていた。
    イ 両事案で共通しているのは、共通の利害関係を有する者から授権を受けたと

    いう点である。
    ウ(ア) 他方で、両事案で異なる点の1つ目は、構成員数の大小である。組合

      の方が本件事案よりも人数が多く、明文なき任意的訴訟担当を認める必

      要が本件よりもあった。
     (イ) また、両事案で異なる点の2つ目は、構成員の属人的関係性の違いで

      ある。組合は組合契約により人的関係が築かれている。他方で、本件に

      おける共有は相続を原因としている。相続人たる地位は、身分関係によ

      り取得する者であるから、相続人間の属人的関係は強いといえる。
        これらの性質から、明文なき任意的訴訟担当を認めるか否かは、その  

      人的関係から、同担当を認めるべきか否かを基準に決せられる。 

       そうすると、本件では、X1・X2は時間的・経済的に訴訟遂行をした

      くないとしてX3に訴訟担当の授権をしたに過ぎず、X3を任意的訴訟担

      当として許すべきではない。
    エ 以上より、ⓐ構成員の性質からは、X3を明文なき任意的訴訟担当として許

    すことはできない。
 (3) ⓑ構成員となる根拠
    ア 本件最判の事案では、組合員は組合契約によって組合の構成員となってい

    た。他方で、本件では相続や遺産分割という身分法上の理由によって、本件

    共有関係の構成員になった。
      イ 相続が一度されると、その後、相続人が増えることは原則としてない。しか

    し、組合契約では、後発的に同契約をした者が構成員となることはできる。 

    この意味で、相続は組合と比べ、後発的に多数人が利害関係を有することが

    多くないので、明文なき任意的訴訟担当を認める必要性が乏しい。
    ウ 以上より、ⓑ構成員となる根拠から、直ちにX3を明文なき任意的訴訟担当

    として許すべきということにはならない。
 (4) ⓒ明文なき任意的訴訟担当を認める必要性

    ア 本件最判の事案では、組合員が多く、また組合契約の特殊性から更に組合員

    が増える可能性があった。また、訴訟自体、組合の利害関係に大きな関係を

    有していた。これらから、最判の事案において、ⓒ明文なき任意的訴訟担当

    を認める必要性は強かった。
    イ 他方で、本件では構成員は3名しかいない。そして、相続という特殊性か

    ら、以後、相続人が増えることは原則としてない。
     また、X1・X2が、X3に訴訟遂行をさせたい理由は、時間的・経済的

    負担が大きいというものに過ぎない。そのため、本件では本件最判と異な

    り、X1・X2には、訴訟信託をする真摯な理由がない。
    ウ したがって、本件では、ⓒ明文なき任意的訴訟担当を認める必要性がない。
 (5) 以上より、本件では、X3を任意的訴訟担当にすることは、②弁護士代理の原

   則を害する。
3 よって、X1による訴訟担当が明文なき任意的訴訟担当として認められない。
第3 設問2
1 裁判上の自白の意義
 (1) 意義
   裁判上の自白とは、口頭弁論又は弁論準備手続きにおいて当事者が自己に不利

  益な事実を認めることをいう。これは、弁論主義第2テーゼの内容である。すなわ

  ち、自白した事実については、裁判所はそれを判決の基礎としなければならな

  い。
 (2) 趣旨

   裁判上の自白は、弁論主義第2テーゼに基づく。そのため、裁判上の自白の趣旨

  は、実体法上採られている私的自治の原則の訴訟法的反映である。
 (3) 効果
  ア 裁判上の自白の効果は、㋐不要証効(179条)、㋑不可撤回効、㋒当事者拘

   束力である。㋐は自白した事実について、裁判所はそれを判決の基礎としなけ

   ればならないとする内容である。また、㋑は、一度自白した事実を当事者は撤

   回することができないとする内容である。そして、㋒は、自白した事実は当事

   者間にも拘束力が及ぶとする内容である。
  イ まず、㋐不要証効については、㋑不可撤回効、㋒当事者拘束力とは異なり、

   179条に規定がある。そのため、㋑㋒と異なり、主要事実だけでなく間接事実

   や補助事実にも生じる。
  ウ 次に、㋑不可撤回効については、明文上規定がない。これは、弁論主義第2テ

   ーゼから導かれる効果である。そして、弁論主義の対象となる事実は、後述の

   様に主要事実のみである。そのため、㋑は主要事実にのみ生じ、間接事実や補

   助事実には生じない。
  エ 次に、㋒当事者拘束力についても明文上規定がない。そして、裁判上の自白

   には、㋑不可撤回項が生じることから、当事者間にも拘束力を及ぼすべきこと

   になる。そのため、㋒は㋑と同様に、主要事実にのみ生じ、間接事実や補助事

   実には生じない。
2 裁判上の自白の要件
 (1) 前述した裁判上の自白の定義からすると、裁判上の自白の要件の1つは、陳述

   が口頭弁論又は弁論準備手続で為されたことである。 
 (2) 2つ目の要件は、当事者の陳述である。
 (3) 3つ目の要件は、当事者の陳述が、自己に不利益な事実に関するものであるこ

   とである。
  ア(ア) 同要件のうち、「自己に不利益」とは、相手方が立証責任を負う事実

      を意味する。その理由は、実体法と訴訟法の調和、そして基準の明確性

      である。
   (イ) この要件と関連する問題として、先行自白が裁判上の自白といえるか

      という問題がある。先行自白とは、相手方が立証責任を負う事実を、相

      手が主張する前に自分が認めることを意味する。
       相手方が主張責任を負う事実を先に自分が認めても自白は成立しな

      い。しかし、その後、相手方に自分の行った不利益な事実を認める陳述

      を援用されたときは、両当事者の意思が合致したことになるので、先行

      自白を通常の自白と同様に扱えることとなる。
  イ(ア) 同要件のうち、「事実」とは、主要事実を意味する。なぜなら、間接

      事実や補助事実は、証拠と類似の機能を有することから、これらについ

      てまで自白の拘束力を認めると、裁判官に不自然な事実認定を強いる

      こととなり、自由心証主義(247条)を害するからである。
   (イ) この点に関し、評価根拠規定における「事実」とは、それを基礎づけ

      る事実、すなわち評価根拠事実や評価障害事実等を意味する渡海する。

      なぜなら、過失等の評価根拠規定は、それ自体は抽象的で規範と同視で

      き、それを基礎づける事実こそ、当事者が主張すべきだからである。
3 本件における判断
 (1) まず、本件陳述は、Ýが第1回弁論準備手続期日で行ったものである。そのた

   め、本件陳述は、「陳述が…弁論準備手続で為された」という要件を満たす。
 (2) 次に、Yは本件訴訟の被告である。そのため、Yの陳述は、「当事者の陳述」

   という要件を満たす。
 (3) そして、Yの陳述は、「当事者の陳述が、自己に不利益な事実に関するもので

   あること」という要件を満たす。理由は、以下の通りである。
  ア(ア) まず、本件陳述が、「事実」と言えるかを検討する。
   (イ) 本件陳述は、①「令和3年10月以降、自分の妻が、本件建物におい

      て何回か料理教室を無償で開いたことがあった」、②「X1は夫婦でそ

      の料理教室に毎回参加していたが、賃料の話など一切出なかった。」を

      内容としている。
       これらの主張は、XY間の賃貸借契約において、XY間に賃料不払いによ

      る信頼関係の破壊がなく、同契約は解除の要件を満たしていないことを

      主張するために主張された事実である。すなわち、①②は、信頼関係の

      破壊という評価根拠規定を基礎づける事実の不存在を基礎づける事実で

      ある。
   (ウ) したがって、本件陳述で主張された①②の事実は、自白の対象となる

     「事実」である。
  イ(ア) 次に、L1は本件陳述を賃料不払いではなく、使用目的違反を理由とす

      る解除原因を基礎づける事実として主張している。この場合、Yが先行し

      て行った主張は先行自白となるかを検討する。
   (イ) 解除原因は、解除を主張する者が主張立証責任を負う。そうすると、

      使用目的違反を理由とする解除において、本件陳述の①部分は、Xらが

      主張立証すべき事実であった。それをXらが主張する前に、Yが主張し

      た。そして、同主張を前提にXらが使用目的違反を理由とする解除原因を

      口頭弁論で主張したので、XらはYの先行自白を援用したといえる。
   (ウ) したがって、本件陳述は「当事者の陳述が、自己に不利益な事実に関

      するものであること」にあたり、裁判上の自白が成立している。
     (4)ア 以上より、本件陳述が裁判上の自白にあたるとしても、Yとしては同

      自白を撤回することを望むと考えられる。なぜなら、YはXらには解除原

      因がないことを導くために本件陳述をしたにも拘わらず、それを違う構

      成により解除原因とされたからである。自白の撤回の可否が問題とな

      る。
     イ 前述した、自白の不可撤回効や当事者拘束力からすれば、裁判上の自

      白は原則として許されない。しかし、常に裁判上の自白の撤回を許さな

      いとすると、かえって不都合な場合がある。そこで、この様な場合は、

      例外的に自白の撤回を認めるべきである。
       具体的には、㋐自白した事実が真実に反し又は自白した者が錯誤に

      より自白した場合、㋑刑罰に当たるような行為により自白をした場合

      (338条1項5号)、㋒相手方の同意がある場合には、例外的に裁判上の

      自白を撤回できると解する。
     ウ 本件陳述は、事実はあるので、㋐反真実性はない。しかし、Yは賃

      料不払いによる無催告解除に反論するためになされたのであり、使用目

      的違反の解除の評価根拠事実として用いられるとは考えていなかった。
       したがって、本件陳述は、㋐自白した者が錯誤により自白した場合

      にあたる。
     エ よって、Yの本件陳述には裁判上の自白が成立するが、Yは撤回でき

      る。
第4 設問3
1 既判力の遮断効の根拠
 (1) 既判力(114条1項)とは、確定判決の後訴への通用力を意味する。この既判 

  力は、判決主文にのみ及び、判決理由中の判断には原則として及ばない(同

  項)。判決主文にのみ拘束力を及ぼせば紛争解決としては原則として十分だから

  である。
 (2) 既判力が認められる趣旨は、紛争の一回的解決を図り、紛争の蒸し返しを防止

  する点にある。この趣旨を実現すべく、既判力が生じる場合、前訴判決主文中の

  判断と矛盾する主張が後訴で主張されたときは、同主張は既判力により遮断され 

  る(既判力の消極的効力・遮断効)。
   そして遮断効は、前訴手続迄に生じた事由に生じる(民執法35条2項参照)。
 (3) このように強力な効果をもつ遮断効が正当化される根拠は、前訴において手続

  保障がされていた点に求められる。すなわち、当事者は前訴手続の事実審口頭弁

  論終結まで、新たな事由を主張して争うことが手続保障されていた以上、後訴で

  主張できる事実は、前訴手続の事実審口頭弁論終結後に生じた事実となる。
   もっとも、この遮断効の根拠からすると、前訴手続の事実審口頭弁論終結前に

  生じた事由であっても、前訴で当事者が手続保障を受けることができなかった事

  由については、既判力(遮断効)は生じないと解すべきである。
2 解除権行使の主張の遮断
 (1) Xらは、後訴で用法順守義務違反を理由として解除権行使の主張をすることを

  検討している。本件判決の既判力によって、Xらの解除権行使の主張を遮断するこ

  とは相当か。
 (2)ア 後訴でXらが主張する解除原因は、Yの用法順守義務違反である。これは、

   令和3年1月から令和5年1月までの間に行われた本件セミナーが用法順守義務違

   反にあたるという内容である。前訴手続の事実審口頭弁論は令和5年4月であ

   るから、上記事由は前訴手続の事実審口頭弁論までに存在した事由である。
    そうすると、本件解除原因は、本件判決の既判力によって、遮断されるのが

   原則である。
    イ しかし、本件セミナーがXらを認識したのは、本件判決後である。そうする

   と、Xらが前訴手続き中に本件解除原因を主張することはできなかった。この意

   味で、Xらが前訴手続で主張することの期待可能性がなかった以上、同事由につ

   いては前訴で当事者が手続保障を受けることができなかったといえる。
    したがって、本件では例外的に後訴で用法順守義務違反を理由とする解除権

   行使の主張は遮断されない。
 (3) よって、本件判決の既判力によって、Xらの解除権行使の主張を遮断すること

  は相当ではない。
                                    以上