本日の講義で発表希望者が不在(超!ショック)なので、講義で話すかわりに。
IPOしたベンチャーの社長が言うのは、「資本政策は後から取り返しが効かないから、用意周到に」と後悔めいたことを口にする。
反省の弁をもう少し詳しく言うと、
-自分のシェアが低くなった。
-創業者利益が思ったよりも少なくなった。
-経営権の危機または買収対策を練らなくてはならなくなった。
-株を与えた社員が公開したら即座に退職していった。
-VCのシェアが高くて、流動比率/個人株主が多くなりすぎた。
と言ったことのようだ。
これはファイナンスとヒューマンリソースの両面で議論ができる。
ファイナンス的には、必要な資金をどのように、いつ、いくら調達するか?
-銀行借り入れを上手く使えばシェアは下がらない、ただ社長の個人補償が必要だからリスクは大きくなる。
-VC等からの調達をできるだけ遅く、少額にすればシェアは保てる、ただVCとの交渉に時間とパワーを削がれる可能性がある。
上手く行ってしまうと、どうしても後半のことを忘れてしまうのだろうが、VCから余裕をもって成長資金を調達できれば、結果的に上手く行った場合には余分なシェアを与えたと後悔もしようが、それを持って得た時間と心の余裕は貴重かも知れない。要はバランス。
ヒューマンリソース的には、ベンチャーにとってストックオプションは人材募集の際に大企業ができない大きな武器だ。たまに「ウチは大企業以上の給与を支給してます」と言う立派なベンチャーもあるが、それで黒字なら何ら言うことはないのだが、オプションと言う武器の活用も当然選択肢としてはある。
その分、IPOしたらその果実を持ってさっさと退職する社員も出てこよう。ただ、それを嘆くのはこれもまたお門違い。IPOしたら、オプションに代わる会社の魅力を打ち出す必要がある訳で、少なくとも公開企業と言うバリューがあるはずでそれを有効活用できていないことこそ反省すべきでしょう。ただ、これも結局はバランス。
さて、懸案のタリーズを松田さんの著書を元に振り替えると、
-松田社長のシェアは会社設立時で29%、これは米タリーズと同じで筆頭株主
-その後、VC等から2回の資金調達を経て、大証ヘラクレスに公開
-松田社長は、公開後も借入をしてまで買い入れをしてシェアを高めた。
-さらにファンドと組んでTOBによる上場廃止をして非公開企業になった。
松田社長は、会社設立時のシェアについて、
「企業の経営者と所有者は別であるべきだと思う。たとえ創業者が経営者を兼ねていようと、株主から罷免される緊張感がなければ、健全な経営は難しいのではなかろうか。」
と述べている。
非常に高邁な考え方だ。
そして、結論的には幾多のいきさつを経て、松田社長はまさに「株主から罷免され」(少なくとも外形的には)た。
松田社長の目指す「文化の懸け橋になる」理念と、業績のギャップが一因とされる。
今やタリーズは、「お~い、お茶」の伊藤園の傘下で、中国スィーツから撤退し、コンビニでの販売を開始するなど新機軸を打ち出している。
会社創業時の松田社長のシェアをもっと高くしておけば・・・と外野からは思われて仕方ない。
とは言え、高邁な志を貫いた松田さんには敬服するし、その行動力、グローバルな視点と語学力、発想力、そして人心掌握術など経営者としては非常なポテンシャルを持ち、かつ得難い経験を積んだ訳で、今後に大いに期待したい。日本のためにも。ヨセミテでキャンプ暮らしをするのはもう一勝負した後にしてもらって。