WEB2.0で有名な梅田さんの新刊「シリコンバレー精神-グーグルを生むビジネス風土」が発刊になった。

この本自体は5年前の「シリコンバレーは私をどう変えたか-起業の聖地での知的格闘記-」そのままで、「文庫のための長いあとがき」が新しい部分だ。古い部分を適当に焼きなおして、新刊にすることもできただろうに、さすがは高潔な梅田さん(=勝手な類推)だ。

前著を読んでワクワクするのを覚えたのは、確かフィックスターズを創業した後だったから、2002年の秋か、冬だったと思う。

勿論、梅田さんにお会いしたことは無いが、すれ違ってはいそうだ。新著の写真も「近藤淳也(=はてな社長)撮影」でもあり、背景を見るとどうもフィックスターズが事務所を構えていた鉢山のようだ。前にも書いたが、はてなと当社は、同じNTTコム鉢山ビルで、廊下を挟んで向かい側に居を構えていた。

はてなのやっていることは、ブログでNo1というのは知っていたが、手作りのオフ会を開いたり、ビジネスは「人力検索?」だ~あと、当時全く理解できなかったが、梅田さんが取締役に就任されたと聞いてビックリ!&「WEB2.0」を読んで、人力検索の狙う「あちら側の世界」を聞きかじるにつけ、VClistとしての先見性のなさに絶望するところ。

今では、はてなさんはシリコンバレーへ本社移転だし(日本拠点はまだ鉢山のようですが)、フィックスターズも10月から品川(ウ~ム、ちょっと格落ち)ですが、互いに頑張りましょう!

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と、話が大きくそれたが、新著のあとがき(=今回の新論部分)で梅田さんはこういうことを言っている。

「つまり、その本質にこの仮構を内包する起業家主導型経済には、構造的にバブルの萌芽が組み込まれており、モラルハザードの誘惑も潜んでいるということなのだ。逆にそう腹をくくることこそ重要なのである。バブルやモラルハザードの発生自身を頭から否定するのは、起業家主導型経済そのものを否定することと同義なのだ。ここに、起業家主導型経済とそれを支える新興市場の構造的な難しさがある。」

まさに今、日本でもっとも重要なポイントを、正鵠を得ていると思う。


新興市場のまさにシンボルである東証マザーズはその門戸を新興企業には閉ざしかけているやに見受けられ、また金融サービス法は元々同法がライブドアや村上ファンド事件の反省から出発していることもあって、ベンチャーやファンドに対して、過去の貢献を認めつつも苦しいながらに規制の方向やに読める。

勿論、東証の志ある担当者や、政策当局でわかっている人は、ベンチャー風土を育てるべく奮闘している。

しかしながら、日本社会全体の風潮は逆風である。彼らも孤軍奮闘であろう。

ホリエモンに「頭の悪い人は損しちゃいますよ。へへへ」と罵られて、いい気がしないのはわかるが。


ただ、守り育てるべきはチャレンジするアントレプレナーか、乱高下を当然理解しながら結果責任を放棄するデイトレーダーか。

新興市場に公開するベンチャーは、東証一部に上場している成熟した会社ではない。規模や体制も、経営の歴史も比べるべくはないが、だからこそマザーズな訳で、それらを備えた会社は一部市場に上場していて、かつ安定志向の投資家は一部市場の会社に投資すれば良い。IPOしたとは言え、マザーズのベンチャー企業は、梅田さんの言う「仮成功」に過ぎなくて、事業リスクも高いのは当たり前で、それでもそういう若い会社にも相応のエクイティ市場が必要だということで始まった新興市場のはずだし、投資する側もそういうリスクを十分理解したうえで株式を購入しているはずだ。

確かに開示された情報が虚偽であれば、それに基づく判断は補償されても良いかも知れない。ただ、新興市場であれば、虚偽情報の開示リスクも、経営者リスク・組織リスクとして加味すべきだ。少なくとも自分は、期末に売上利益が計画未達であれば、当然達成すべく大号令はかけて、押し込みに全力を挙げるだろうが、メイキングはしない。虚偽を報告してまで楼閣を築こうという意図が無いし、虚偽楼閣を維持するほど「頭が良くない」からだ。

新興市場には、リスクがつきものである。リスクがあるからこその新興市場である。

投資家も十分理解して投資をして欲しい。新興市場株への投資は、ある意味、将来性を判断し、経営者を吟味するなど、VC投資と同じなのかも知れない。

それを過度の投資家保護に走ったり、ましてや市場の閉鎖という最悪の事態にならないよう、是非関係者にはお願いしたいところだ。またマスコミも、先般、日経新聞が新興市場の課題をクローズアップしたネガティブキャンペーンを展開していたが、あまり偏った報道はせず、どうも振り子の振れ幅を増長する記事は止めていただきたい。


何においても「個」「自分責任」のシリコンバレーと、「組織」「責任回避」の日本で根っこからの環境が異なることは理解しないでもないし、それが「悪い」ことばかりだというつもりも毛頭ない。ただ、それ一辺倒ではダメだ、ということで始まったベンチャー制度の整備のはず。一部の犯罪者のために、全体が腐ることのないようにしていただきたい。



メラメラ