当社のような小さいベンチャーキャピタルになると、ベンチャー企業と同じで"すべて"やる。
大きなVCだと、分業化されているが、小さいVCではそうはいかない。
昨年は、新しいファンドを作って資金調達をしていた。まさにベンチャー企業の資金調達と同じで、ファンドの企画書を書いて、有望そうな投資家をまわって出資を依頼する。当社の場合は、グローバルにアーリーステージ投資をしてハンズオンするというポジションと、何といっても過去のレコード(投資利回り;IRR)がセールスポイントである。
今回の調達活動では、ハワイの燃料電池部品のHOKUがハワイからNASDAQ公開実質第一号となり、当社として日米をブリッジするVC投資が有望であることのPOC(Proof of Concept)もあったことから、大いに期待していたが、残念ながら過熱するようなことはなく、素敵な投資家に加わっていただいたUPポイントと、いくつかの期待してプレゼンした投資家からはNG、特にいくつかの投資家からは、大きな会社が運営するファンドは良いが、(得体の知れない)小さなファンドへは投資しないと言われ、まだまだ日本に根強い寄らば大樹というか、サラリーマン根性というか、失望のDOWNポイントもあり、まあトータルでイーブンか。
資金調達が一段落すると、投資業務が始まる。最初が良いベンチャーと接触して投資する、いわゆるファインディング(発掘)である。海外ベンチャーへの投資は、当社の中では他のメンバーが主に担当しているから、というか僕の英語力では到底投資交渉はできない、国内のベンチャーへの投資案件の発掘、調査、交渉をする。発掘(=良いベンチャー経営者と出会う)の方法にはいくつかあるが、一番効率が良いのは知人からの紹介である。当社のポジションは、国内VCの中では一種ユニークであるから、それを理解してくださる仲介者の方からの紹介が過去の実績からすると一番可能性が高い。しかも当社へベンチャーを紹介してくれる方は、志の篤い方が多くて紹介フィーを当てにする人はいないし、実際に支払ったケースはない。
投資検討は、まず担当者が調査を行って、有望だと判断すれば、投資委員会でベンチャーがプレゼンを行い、VCが質疑を通して、その事業の有望性や経営者の人柄、経営力などを判断する。そこで課題が出れば、その課題解決が投資条件となる。GVCの場合、詳細な裏づけ調査はその後になることが多いが、日本のVCだと投資委員会の前に担当レベルで行うのが一般だろう。
次が投資契約・交渉である。日本の場合は投資契約を軽んじるところが少なくないが、実は投資契約の内容をつめるというか、投資条件を交渉するのは、重要なステップである。日本でも優先株制度や会社法施行で、さまざまな制度設計ができるようになったし、そうでなくても、昔からある投資契約における論点もいくつかあって、それを真摯に議論せず蔑ろにはできない。中には「契約書の記載はこうなっていますが、実際にはそんなことはしませんから・・」と言う社歴数ヶ月のVCリストもいるから要注意である。次元が低い話であるが、本当のことであり、主なポイントでは、決議事項の事前承認や、買戻し条項などは最低のポイントであろう。「優先株を使っているベンチャーには投資しない」というVCもあるそうだが、当社としては起業家の権利担保と、投資家のリターン確保のためには優先株を積極的に活用すべきだと考え、今後はそういった交渉もしていけたらと思う。
そして、投資をするとハンズオン活動が始まる。ハンズオンの形態はその会社ごとにさまざま。経営者が経営・事業に長けていて上手く行っているうちは、応援すればよいし、IPOに向けての準備でアドバイスしたり関係者と引き合わせをする程度だ。海外のベンチャーで日本進出を企画しているケースでは、日本での営業戦略構築を共同したり、販売パートナーとの場を設営したりする。
問題は上手く行かないときだ。投資して数ヶ月もすると見えてなかった課題や計画の欠点も見えてくる。購入確実としていた有望顧客との商談が最終段階でダメになったり、期待した販売パートナーの動きが悪くてトラブルになったりする。「ベンチャー投資だから仕方ないこと」でもあるが、これをいかになくすか?誤算がないレベルまで熟度を高めるか?が結局のところ、VCリストの腕の見せ所だろう。
最後が投下資金の回収である。投資したベンチャーがEXITすると、特にIPOであれば、市場で株を売却して、得られたキャピタルゲインを投資家に分配して一連の活動は終了する。小さなVCだと最後は株のディーラもやらないといけないが、これは難しい。VCリストとはまた異なる才能が必要だし、それに専ら市況を睨んでいる専門担当者も配置できない。
このほかにも管理のためのさまざまなレポーティングがかなりのウェイトを占める。投資家の方に適時開示を行い、また適宜状況を報告して定型/非定型のコミュニケーションを蜜に行うことは勿論だが、他にも税務当局や各種官公署への各種報告、届出もある。特にホリエモンや村上ファンドのこともあり、今後、さらに締め付けがきつくなるんでは懸念される。一律に規制の網をかぶせて、管理コストを徒に高くすることだけは避けていただきたい。
・・・結構、ベンチャーキャピタルもいろいろやることがあって、たいへん