初夏のような晴天の朝だった。公園で鶯が啼いていたが姿は見えなかった。
朝食に昨夜のカレーを食べた。こんなに美味い料理を朝から食べられるなんて幸せな事だが、子供達はパンやチョコクリスピーを食べていた。勿体ない。犬が散歩中にうんちをしたが、自分で踏んでいて悲しくなった。
通勤中、チェコ共和国について調べた。ハプスブルク家に支配されていた期間をチョコ人は黒歴史だと思っていると書いてあったので驚いたが、それはデマであると補足があった。紛らわしい。チェコ人の英語の先生に会うからだ。もう15年近く前になるが、チェコに強い憧憬を抱いていた。きっかけはサッカーからだ。当時、チェコの情報というのはあまり日本語テキストでは落ちていなくて、主な情報源は「チェコ人になりたい女の子」なる女性の運営するウェブ上の何かか、発刊されたばかりの「CUKR」というチェコ情報誌だった。だが俺は好きなものに一途な女性というのがどうも苦手で、それはバンドやアイドル、あらゆるものに対する熱量の高い女性ファンには近づきたくなかった。なぜかを言葉にするのは難しい。多分嫉妬なんだと思う。その女性と関係がある人物なのか知らないが、ネドヴェドを猛烈に好きなユーベファンの女性のブログだかを見ていたら嫌悪感のようなものを抱くようになり、チェコの情報に触れるのが怖くなった。それと渋谷にあった「ano」というチェコ料理屋が無くなり(後になって移転しただけだと知った)、チェコ代表から好きだった選手達が抜けていくにつれ、自分のサッカーに対する関心も薄くなっていった。これについてはCATVの無料チャンネルだったJsportsで放映されていたBundesliga(チェコ人選手が所属するチームが多かった)が、WOWOWだかJsportsの有料チャンネルに放映権が移った事が大きい。その後は何年かで変わるチェコ代表のユニフォームを買う時以外は思い出すことがなくなっていた。
前職の同僚だったOが始めた英語のプライベートレッスンが羨ましくなり、自分も始めようと英語教師を探した。基本的には面白そうな国籍とルックスで選ぼうと思い、教師選択のページをクリックしまくり、15ページ目でチェコ人の女性を見つけた。かつての遠き憧れの地だったチェコ。新婚で夫婦ともに来日しているらしかった。迷わず彼女に決め、連絡を取り、ようやく今日会うのだ。英語を習うのよりチェコ人からチェコの話を聞くことに重きを置いてしまうが、この際なんでもよかった。予備で選んだフランス人の方に先に会う事になったのは自分の人生らしくて、それはそれで良かった。
昼飯はバターコーヒーにした。本当は朝飲むべきだったと思う。しかしカレーの誘惑に負けた。
19時半にオフィスの階下にあるスタバに来てもらう事になっていたので、相当集中して仕事をした。人生で初めてチェコ人と対話する。気持ちが高揚し、顔が赤くなるのが自分でわかった。20分前には仕事に区切りをつけ、謝礼を渡す封筒を作った。準備は概ね万端だった。英語以外は。
スタバの奥の席に彼女は1時間前からスタンバイしていた。AN先生はおそらく20代後半で、綺麗なチェコ人女性だった。マイファーストチェコが彼女で良かった。英語は昨日のフランス人女性よりも聴き取りやすく、優しかった。俺の関心事を教材にしてくれるらしい。スロバキアの話も聞いた。英語に関する事以外は上手くいった。次に会う約束をした。3週後くらいには彼女はチェコに一時帰国するらしい。その間、彼女は自分の旦那のレッスンを受けないかと誘われた。チェコ人の男性。夢みたいだ。相手にとって得する事は何もないが、自分にチェコ人の友人が出来るみたいで興奮がしばらく冷めずにいた。オフィスに戻った後もナチュラルハイが続いた。そのせいで退勤後に近くのラーメン屋に入ってしまった。旨かったが、もうしばらくはラーメンは食べないようにしようと決意した。外国人と外国語で話すのは自分にとって本当に難しい。話す事がないからだ。日本人同士なら話題は考えなくても口先が上手く言葉を見繕ってくれる。自分は誰かと会話をする時、技術を使ってしまう。話したい事がないので、つい小手先のテクニックでその場を取り繕う癖が染みついている。英語を使う時、自分にはその技術が無く、対人に対する真価を問われる気がする。真っ裸のようだ。俺はこの難題をチェコを活用して乗り越えたいと思う。楔を打つのだ。結局昨日は勉強せずに寝てしまった。今日こそは勉強する。
洗い流しをして休憩したら猛烈に眠くなってしまった。結局勉強はしなかった。