叔母が今の施設に入所したばかりの頃、私が面会で叔母のいるフロアに行くと、

いつも叔母を呼びに行ってくれるおじいさんがいた。
私は人の顔を覚えるのが苦手なので、叔母より先に入所していた人なのかどうかは分からないが、私とも少し話しをしたり、面会のための席も叔母に譲ってくれる親切な人だった。

が、面会の回数を重ねるうちに、その人がどうも叔母だけに親切にしているような気が薄々してきて、介護士さんに「あの方は元々叔母と知り合いか何か?」と聞いてみると、衝撃の事実を知らされた。

そのおじいさん(Wさん)は、叔母との結婚を考えていると叫び

この事は施設内でもちょっと問題になって、叔母は浮世離れしているというか そういう事に疎いらしく「Wさんは親切な方ね」という扱いらしいのだが、Wさんの方は日々猛烈アタックを試みているらしい。
施設では、階を分けたほうが良いのではという意見も出ていて今は様子見中との事。

私もそれを聞いてからWさんを何となく避けるようになってしまい、挨拶はするけれど以前のようには話せなくなってしまった。

そんな折、施設内のお祭りがあって私も参加し、叔母とお祭りメニューの混ぜご飯を食べていると いつの間にか隣りにWさんが。

叔母は意に介さない風だが、私はちょっと身構えた。

するとWさん、突然
「C子さんと結婚していいですか!」

え、これは「娘さんを下さい」の姪バージョン?
違うな…叔母バージョン?
そもそもこの登場人物のシーンに合致する名称はあるのか。
いや、呼び方なんて考えてる場合じゃない。

私は口の中の混ぜご飯のしめじを中途半端に噛んだまま動けない。

--これ、返事したほうがいいの?
--でも、なんて返事するの
--OKもできないし、面と向かってお断りもできない

そこに助け舟。
近くにいた介護士さんが「Wさん、1階でカラオケ大会やるから行きましょう」と言って連れて行ってくれた。
介護士さんに目で挨拶し、私はようやく しめじを飲み込んだ。

その後すぐコロナで面会できなくなってしまい私も二人の様子を見ることはできなくなってしまったが、結局二人が結婚することは無かった。