家では見慣れてしまったので今更感があるのだが
父は退職した時に、自分の部屋に置く机を買った。

KOKUYOのスチール事務机+袖机(3段キャビネット)+車が5個付いた事務用椅子である。
色は、ほんの少し緑がかった薄灰色のアレである。
昭和の時代から社会人の人は知っているかも知れないが
机と同じサイズの透明のデスクマット付き。(緑の下敷きも付いてる)
そう、事務仕事用の会社の机そのものである。

各種クリップや綴紐、鉛筆、ボールペン、万年筆、ハサミ、カッター、修正液、ホチキス、輪ゴム、消しゴム、付箋などは一番上の小引き出し。
ちなみに、若い人は見たことがないだろうけど、付箋は白地に端だけが朱色の舐めて付ける→二度と取れないタイプ

2番めの小引き出しには、おせんべいの缶に入れたハンコ一式と2つ穴パンチが2種類。
住所や氏名の横ゴム印、数字印、「済」印、「至急」印、くるくる回して日付をセットする印が数種類、一回押すと数字が自動で増えていくナンバリングスタンプ。

長引き出しには50cmプラ定規、30cmの竹製物差し、そろばん、原稿用紙、職場から持ってきたらしいB5サイズの罫線用紙が複数。

そのまま仕事が始められるラインナップである。
唯一違うことは、それらを使ってする仕事が無いこと。

そこで3段目の引き出しに入っているファイルの出番である。
そのへんにある紙類は、軒並み2つ穴パンチで穴を開けられ
受付日の印、ナンバリングされて綴じられる。
領収書だろうがカタログだろうが関係ない。

そんなわけで、父の話はいつも唐突である。
ファイルに閉じられた紙様達の中からランダムに今日の話題が提供されるからだ。

今日の言いがかりは自動車保険。
父「Tの奴が儲けようと思って保険料を2年分も取りやがった」
Tさんは、自動車保険の代理店の人。

まず言い分を聞く。

自動車保険は1年毎に契約していて、1年毎に払っているはずなのにこの書類を見ると2年分取られている。

おっ!今日の解決時間は世界新かも\(^^)/

では、私が謎解きをして差し上げましょう。
これは自賠責の保険証、Tさんが扱ってるのは任意保険。

私「自賠責は車検の時に2年分払うでしょ。車検場で代行して手続きしてくれる奴だからTさんは関係ないよ」

父「何言ってんだ。保険はずっと1年契約だ。Tから賄賂でも貰ってんのか!」

--賄賂って ┐(´д`)┌ヤレヤレ
--世界新、遠のく

私「だから、これは強制保険でしょ。任意じゃなくて、車検の時に入る保険の方だよ。そもそも自賠責の保険証は車検証と一緒に車の中に入れておいたほうが...」

 --ってか、これコピーじゃん。ジジイの受付日の印が押してあるし。
 --自賠責の保険証をコピーして保管してる人初めて見たわ。

父「とにかくTはずるいんだ」

 --Tさん、完全に冤罪被害。

私「任意保険の○○保険会社の証書は? 比べてみると分かるよ」

その日は、任意保険証を探したが見つからず、Tさんの冤罪は晴れず終い。

ゴミまでファイリングしてあるのに、大事に取っておくべき任意保険の証書が無いとか...バカとしか言いようがない。

こうやって「Tさんはずるい」という記憶だけが刻まれてしまう。
おまけに私は、そのTさんから賄賂を受け取ってる悪いヤツである。

この傾向は認知機能が落ちる前からで、
元々の性格なのだろうが、暇さえあれば妄想で敵を作り妄想で喧嘩し妄想で勝利して悦に入る。

父が頻繁に言う言葉に「怒鳴りつけてやった」というのがある。

満足そうに電話を切って「怒鳴りつけてやった」というが、実際はそんな大それた事は全くできない。

ずっと聞いていても同じ話を繰り返しているだけ。

何せ長電話なので先方は大変だなとは思うけれど、電話で怒鳴ったり声を荒らげているのはまず見たことがない。

家族は父の妄想の一番の標的になる。
母が一番の被害者だ。

何もしていないのに、妄想で作り出した罪をなすりつけられ
怒鳴られ叩かれる。

これが、家族みんなが父と関わらないようにしている一番の理由である。