赤が目に飛び込んでくる。


「あ。」


紗千(サチ)は小さく声をあげた。細く白い手首に、一筋の赤。今まで気が付かなかったが、カミソリの歯で怪我をしていたらしい。気付いたとたん、鈍い痛みが走る。


すぐにシャワーで洗い流した。シャワーの粒が傷口にあたり痛かった。


シャンプーを洗い流しリンスをつける。手を洗いながら傷口を見た。傷口は再び紅い線で示されていた。もう一度洗い流す。それからまた、傷口を眺めた。じっと見ていると、すぐに真っ赤な血液が盛り上がっていくのが分かる。ぼんやり眺めていると、傷口がぱっくり口を開けているように見えた。


ふと思う。ぱっくり開いた口に吸い込まれていきそうだ。この中は、自分自身だ。なんとなく思うと、傷口は底無しでなんでも吸い込んでしまうような、あるいは何かが出てくるような気がした。


そっと傷口にくちづける。一瞬ためらった後、軽く吸いつけた。じわり、と鉄にも似た、独特の嫌な味が広がる。不味い。しかし……もう一度さっきより強く吸いつける。


顔をあげた。小さく、声にならない声を漏らす。


しばらくぼぉっとした。




はっと気付く。傷口をまた洗い流した。口をすすぐ。鉄の味が仄かに残っていた。

手で押して止血。

もともと小指の先ほどの傷だ。数十秒押さえているだけで、傷口は綺麗にふさがった。


湯船に浸かりながら……。少女は奇妙な喜びと、寂しさを抱いていた。