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トラえもん!?

十代前半の和泉式部、定子、紫式部の三人に二十代の清少納言を加えた四人が中心の百合的日常。史実とは異なりますが、平安時代の女の子たちなので頻繁に和歌を詠みます。
『マーシュの魔術労働』はオリジナルの魔法学園もの

※昨日の続き

~永祚元年正月三日 山城国伏見・稲荷山~
(語り:諾子)
供花と食べ物を買いに、香子(紫)と二人で本殿へ向かう。
「あの巫女さんに訊いてみましょう」
そう言って先に行こうとする香子。
「え…?」
前方には巫女どころか、人の姿は見当たらないけれど…
「ちょっと紫さん、そちらじゃありませんわ。本殿は──」
一人で勝手に行ってしまう香子を慌てて追いかける。
「紫さん!何処へ行く気ですの?」
本殿へと続く参道を逸れて脇道へ入っていく香子。
「何処って、本殿でしょう?巫女さんが案内してくださいますわ」
呼び止めて話している間に、
「ですからその巫女さんは何処に──」
つい今まで向かっていた先を振り返ったあと、きょろきょろと辺りを見回す香子。
「…いない」
まるでたった今見失ったとでもいうように、戸惑って立ちつくす香子。
「最初から誰もいませんわよ」
参道を外れたこんな場所には狐の像も置かれていないし、見間違えるような物も特にない。
「んなわけねーだろ。あしはこの目でちゃんと見たよ。だからここまで追いかけてきたんじゃねえか。あんたは気づかなかったってえのかい!?」
一気にまくしたててから「しまった」とばかりに手で口を覆う香子。
「あ、あの…つまりわたくしは」
嘘をついているとは思えない。あれだけむきになるのだから確かに香子には何かが見えていたはず。
「もういいですわよ。猫をかぶらなくても…」
東国の田舎の漁師みたいな男言葉。おそらく香子の父が左遷された地方で覚えたのだろう。
「…じゃあ、お言葉に甘えて…悪いね、普段はこんなだからさ」
可憐で繊細に見える容姿と、歳の割にやや舌足らずな幼い声で、精一杯強がっているようで何だか可笑しい。
「はいはい。とにかく参道へ戻りましょう。本殿はあちらに──」
と、来た道を振り返ったつもりだったが…
「…あ、あら?」
どちらから来たのかわからない。すでに参道が見えないほど深く分け入ってしまったか。
(どうする…?)
許子も一緒とはいえ、山中に定子さまを残したまま私が失踪するわけにはいかない。
「あ」
いた、と呟く香子。
「…ほら」
指さすが、私には何も見えない。
「あなたには何が見えていますの…?」
巫女と言っていたが…
「えっ…あの娘が見えねえってことかい?」
やはり、香子にだけ見えているのね。
「ええ」
狐か霊か幻か…何にせよ香子を信じてついて行くしかないか。

(つづく)