トラえもん!?

トラえもん!?

十代前半の和泉式部、定子、紫式部の三人に二十代の清少納言を加えた四人が中心の百合的日常。史実とは異なりますが、平安時代の女の子たちなので頻繁に和歌を詠みます。
『マーシュの魔術労働』はオリジナルの魔法学園もの

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※昨日の続き

~永祚元年正月三日 山城国伏見・稲荷山~
(語り:諾子)
相変わらず私の目には見えない“巫女”を追って歩く香子に、私もついて行く。
「…ねえ、紫さん?」
「ん、何だい?」
気になったので一応訊いておく。
「その…巫女とやら、どのような姿ですの?」
「ええと、白の小袖に朱の袴に…」
「そうではなくて…中身のほう」
ああ、と理解して笑う香子。
「狐の尻尾なんざ生えちゃあいねえよ。ちゃんと人の姿してらぁ。許子より年下の女童だけどな」
物の怪のたぐいではないということか。
しかしやはりただの子供ではないらしく、巫女は山歩きに慣れた様子でどんどん先に進んでしまうという。
時折姿が見えなくなると立ち止まって香子を待ち、追いかけるとまた逃げるように歩きだす…とのこと。
「どこ行った…?」
また巫女を見失ったところで、朱塗りの祠が見えた。
「ここは…」
「御膳谷です」
香子とは異なる少女の声を聞いた気がした。
朱塗りの祠が建つ峯からは、渓谷が見渡せる。その眺望に暫く目を奪われていると、
「!」
不意に祠の扉が開いた。巫女に招かれたようで、香子が祠に入る。
「…いいのかい?」
巫女と言葉を交わしている…?
「ありがたく貰っとくよ」
子供の頭を撫でるようなしぐさをみせたあと、香子は祠の中から何かを持ち出してきた。
「御膳の谷とは、よく言ったもんだねえ」
大きな包みの中身は、鳥の子にぎりの頓食。餅米を炊いて卵形に握ったものだ。
※平安時代のおにぎり
「至れり尽くせりだね」
白木の枡が、ふたつ。一方には干した大根の漬け物、もう一方は山で採れたと思しき蕗を炊いたものが、ぎっしり詰まっている。
「許子たちも腹空かしてる頃だし、早く持ってってやらねえとな」
長者社の傍には井戸もあったから、ここで食べるよりいいだろう。
「…あら、雨?」
ぽつ、ぽつと天から水滴が降りそそぐ。
「えっ!…きゃ><」
駆け出したとき雨に気をとられ、木の根か何かに躓く香子。
「…あ」
食べ物をしっかり抱えたまま転びそうになる香子を、なんとか抱きとめた。
「危ないわね。何故手の物を離さなかったの?」
頭を打ったりしたら一大事だ。
「大事な鳥の子だからさ…」
許子たちのために…か。
「あの…清原殿」
雨が強くなってきた。
「雨宿りしていきましょう」
香子を抱きしめる。
「…はい」
頬を染めてうなずく香子。腕の中で小さく「ありがとう」と呟いた。

(つづく)