誤解☆ | PARAISO

PARAISO

リアルとバーチャルの交錯する覚え書きです

昔、主人の仕事で、ブラジルに住んでいたころのこと
短い旅行で、海辺のリゾートホテルに泊まったことがある


ホテルのプールの真ん中にデッキがあり、そこにお洒落なバーがあった
当然ながら水着で泳いで行かないと行けないし、水からあがって飲み物を飲む間、
周囲から丸見え!なせいもあるが、とにかく日中は暑いので一人も客がいなかった



夕方、ちょっと勇気が要ったが、旅は恥のかき捨てと主人と二人で行ってみた
甘いカクテルのお薦めを聞くと、ハイビスカスのような花を挿した奇麗なカクテルを出してくれた
夕日を眺めていい気分に酔っていると、ドイツ人の初老の夫婦が隣に来て座り
旦那様は奥様をいたわるように何がいいか尋ね、
私のグラスを指さして同じものを頼んだ
すると若いバーテンが、地元訛りのポルトガル語と身振り手振りで「できない」と言った


ざっくりわかる範囲で聞くと、
>これは、生花なので昼だけのカクテルです。夜は、ほらね、花がしぼんじゃうでしょ?
と言っている。
たしかに陽は傾き、花はしおれつつあるが、作ってあげればいいのに。
でも、訛りの強いノルチ(北部)のポルトガル語がドイツ人に通じるわけがないし
こんな田舎のホテルに、英語を話せる気の利いたスタッフなんているわけがない


ドイツ人の旦那様は、もう一度丁寧な英語で
>私の妻は、彼女と同じカクテルが飲みたいのです。
 何故できないんですか?彼女は、飲んでるじゃないですか?
と言っている
結局、花のない普通のカクテルとビールが二人の前に並べられた
上品な奥様は、すっかりしょげてしまって下を向き、小さい声で旦那様に愚痴をこぼしている


>ほらきっと『ブラジル人は馬鹿で嘘つきで意地悪だ』って言っているんだわ
と私がヤマカンで言うと、ドイツ語も少しはわかるらしい主人は
>そんなところだろうね
という
>あなた、英語で通訳してあげたら?ギャルソンも困り果てて、可哀そうだわ
というと、
>まあ、いいよ。
と言って、関わり合いたくない素振りだった。





可哀そうに。
あのドイツ人の奥さんは、二度とバカンスでブラジルに来ることはないだろう
せっかくベルリンーーレシフェの直行便ができたというのに。



そうやって、いろんなところで誤解は生じているのだ
私たちの知らないところで、それは淀んだり、流されたりしながら漂っていく。