右腕でスケートボードを担ぎ歩きながら煙草を吸っていた
煙草に火をつけてから10メートルぐらい歩いたところで後ろから声をかけられた
「おい、坊や」
最初自分じゃないと思った
「おい待て、こら!」
振り返ったら50歳ぐらいのチンピラ風のオヤジが立っていた
「何ですか?じじぃ」
「歩き煙草してんじゃないよ、臭いんだよぉ」
「じゃ空気を吸わなきゃいい」
オヤジが苛立ちを隠せない形相で歩み寄ってきた
「おまえ、地元はこの辺りか?」
「それがあんたにどう関係してるんだい?」
俺は濃い煙りを吐き出し灰をわざとらしく地面に落とした
「とにかく歩き煙草は禁止されてるからやめろって、煙草ばっか吸っているから背が伸びなかったんじゃないか」
頭にきた
出来る事なら板でオヤジの頭をかち割ってあげたい
「おまえな、おやじ、完全にメタボリック症だろうがこれ」
オヤジの腹に指を指して言い放つ
オヤジは意をつかれたかのように一瞬だけ眉毛を動かした
「殴れよ」
顎を上げながら顔を差し出した
こう言われて素直に殴りかかってくる奴はあまりいない
心の隙が多過ぎる
オヤジは俺に拳を見せてきた
立派な拳だこが異様なまでに膨れている
腕に覚えがなきゃわざわざ危険を犯してまで歩き煙草を注意などしてこないだろう
よっぽど正義感が強くない限りチンピラが絡んでる感覚に近い
「何者だい?おっさん」
相変わらず俺は煙りを吐いていた
「空手の師範をやっている」
「商売は他には?」
「宝石屋さ」
あやしかった
笑えるほどあやしかった
俺は声を出して笑った
「空手を教えているおかしなおっさんが、商売道具の拳を見せながら脅迫してきた、と警察に行こうと思うけどどう思う?」
オヤジは頭をかいている
白髪混じりの角刈りだった
「とにかく注意しただけだから」
面倒臭くなったのかオヤジは踵を返した
俺はオヤジの小さくなっていく背中を見ながら煙草を指に挟み遠くに弾き飛ばした
舌打ちがすぐに街の喧騒に掻き消された
~おしまい~