彼女は壁のポスターに指を指しながら、被っていた帽子とメガネを外しました。すると彼女の長い髪がスルッと背中まで垂れ下がり、振り向いた顔は紛れも無くポスターの女の子、つまり彼女は僕の憧れのスーパースター、『銀河ヒカル』だったのです。
良 「ほっ、本物だ!何でヒカルちゃんが?」
ヒカル 「ビックリした?ごめんね。」
良 「とっ、とんでもないです。」
ヒカル 「疲れちゃったね。」
良 「そっ、そうですね!コッ、コーヒーでも入れますね。」
(pipipi)テレビのスイッチ音
ヒカル 「ありがとう。アレッ?テレビ壊れているの?どのチャンネルも砂嵐だよ!」
(pipi、pipi)
良 「本当だ。」
ヒカル 「あのさあ、良君は私のファンなの?」
良 「はっ、はい!がっ、学生の頃からの・・・」
ヒカル 「へー!」
良 「じゃっ、じゃっ、ヒカルちゃんを追いかけていた人は?」
ヒカル 「マネージャー。悪い人と言ったけど・・・」
良 「どうして、逃げたりなんか?」
ヒカル 「・・・良君は神様を信じてる?」
良 「ええ。僕はいつもお願いしていますから。」
ヒカル 「お願い?何を?」
良 「そ、それはちょっと・・・。」
ヒカル 「私ね、仕事をやめたいと思っているの。」
良 「エーッ!」
ヒカル 「良君にこんな事、話していいのか分からないけれど・・・」
良 「話してください!」
ヒカル 「・・・好きな人がいるの。」
僕は少しショックだったのですけれど、彼女の透き通った瞳に見つめられ黙って話を聞いていました。
ヒカルちゃんの好きだった人は彼女の幼馴染なのだそうです。
ヒカル 「私がデビューした時、きっと邪魔になると思ったのね。彼は突然私の前から姿を消したの。」
良 「突然ですか。」
ヒカル 「それから毎日彼を探し回っているのだけれど、見つからなくて・・・」
良 「そうだったんですか。」
ヒカル 「私ね、毎日神様にお願いしているの。偶然でも何でも、彼に遭わせてくださいって!」
良 「・・・遭えたらいいですね。」
ヒカル 「最近見かけたよって、芳江と言う友達から連絡が入ったのよね。それでテレビの番組を抜け出し
ちゃった。」
良 「・・・これからどうするの?」
ヒカル 「・・・とにかく友達のところに行くつもり。」
良 「神様・・・」
ヒカル 「エッ?」
良 「きっと神様いますよ。僕の神様はルーズだけれど、いつかきっと夢を叶えてくれる。僕はそう信じ
ているんです。だから、ヒカルちゃんも自分の神様を信じて。あきらめないで!」
ヒカル 「ありがとう。」
良 「いえ。」
ヒカル 「君と話したら、何かスッキリしちゃったなあ。」
良 「ヒカルちゃんに思われているなんて、その彼は幸せですね。」
ヒカル 「・・・彼に逢いたい。」
ヒカルちゃんはそう言うと、僕の胸に顔を埋めて来ました。泣いている彼女をそっと抱きしめ、このまま朝にならないでと僕は思いました。それと、全国の『銀河ヒカル』ファンには申し訳ないけれど、幸せのピースサインを送りたい気分でした。
良 「ピース!」・・・・・
ヒカル 「良くん、良くん!」
良 「んー、ピース・・・・」
ヒカル 「起きて。もう朝よ!」
良 「エッ?いつの間に眠ってしまったんだろう!」
ヒカル 「アッ、雪!」
良 「本当だ!」
ヒカル 「今日、クリスマスだったね。」
良 「フエー、寒い!」
ヒカル 「私、色々考えたけれど、みんなにこれ以上の迷惑はかけられない。」
ヒカル 「・・・もう行くね。」
良 「大丈夫ですか?」
ヒカル 「テレビや新聞に騒がれて落ち込んじゃうかも!・・・。」
ヒカル 「その時はまた来てもいいかな?」
良 「勿論です。」
(ドアを開ける音)
ヒカル 「いろいろありがとう、元気でね。」
良 「ヒカルちゃんも!」
ヒカル 「アッ、そうだ!良くん・・・」
良 「エッ?」
ヒカル 「良くんは、神様に何をお願いしているの?」
良 「・・・ヒカルちゃんみたいな彼女が欲しいって!」
彼女は僕を抱きしめると、綿雪の降る街の中に消えて行きました。
『ザー・・・』テレビが回復する
良 「あれ?テレビが直ってる!」
テレビ 「・・・結局、昨日から今朝にかけて電波はまったく使えず、全国の放送局はお休みになっちゃいま
した。だから、昨日のニュースはありません。いやあ、今年のクリスマスは不思議なクリスマスで
すねえ。」
ニュースでは太陽の黒点活動のせいだなんて言っていますけれど、本当はみんなの願い事が多すぎて神様が混乱したのかも知れませんね。メリークリスマス!
良 「ゲッ、もうこんな時間!会社に遅刻しちゃうよー!」
村崎 良、もうすぐ23歳!今日も神様にお願いしています。「愛しの神様、早く彼女がほしいよおー!」
終わり
作 vanillacoco(hiro・i)2004/11/15hirosakisi あおもり