30歳になったら、
私は自分へのプレゼント、大人になった記念に
スーツを新調しようと思っていた。
もちろんターゲットは
”シャネル
”
それまでブランドの服なんて袖を通したこともなかったし、
似合うとも思ってなかったけど
スタンダードな、シャネルのツイードのスーツは
私にとって、立派な大人の女性としての
象徴のように映っていたのだ。
29歳最後の月、
今まで恐れ多くて入れなかった、
シャネルの門をくぐり、ふかふかの朱色の
毛足の長いじゅうたんを踏みしめて、
バッグや小物が置いてあるフロアを抜け、
その奥の、さらに人気のないフロアに陳列されている
スーツやドレスに憧憬の眼差しを向けながら
一番無難なベージュの基本色を選んで
店員さんに声をかけ、袖を通させてもらった。
はじめてのシャネルは、かなりサイズが大きくて、
鏡に映った自分はちょっととまどいの表情を見せていたけど、
でもオートクチュールなので、
その辺は全てお直ししますという説明を受け
勇気を出して「おいくらですか?」と肝心の値段を聞いてみた。
店員さんは、値札を手に取り、
涼しい顔で「¥630,000になります」と答えやがった。
いやいやいやいや、ちょっと待ってよ。
¥630,000って!!
29歳のまっとうな生活を送っている慎ましいOLには、
とても手の出る値段じゃない。
いや、39歳のOLだって手は出ないと思う。
というか、まっとうな庶民には、とても手が出る値段じゃない。
社食で¥350の日替わり定食に¥80円のプリンをつけようかなんて
日々迷っているOLには、63万円も285万円も、
買えないっつーことじゃ大差はない。
自分の許容範囲でも想定範囲でも受容範囲でもない。
あー、それにしてもびっくりした。63万円って!
心臓とまるっちゅーねん。
しかもそれ、JKのお値段で、あまりにも衝撃が強すぎて、
スカートはおいくらまんえんだか、
すでに記憶にもないんだけど、
スーツにすると100万くらいするんだろうね。
いや~、さすがです。シャネル。
多分、私には一生縁がないでしょう。
その後、シャネルではパーティバッグを購入しましたが、
小物の素敵な物を一点持っていると、
ドレスが1万円でも全然OKです。
というか、もうすでに、それで何回も結婚式に行ってます。
たとえ1万円のドレスでも、
シャネルが全てを引き立たせてくれます。
ドレスは何度も同じものを着れませんが、
バッグならまったく引け目を感じません。
そして、今、このバッグを
さも自分で買ったかのように言いましたが
夫に買ってもらいました。ごめんなさい。
30歳の記念には、記念に残る品ではなく、
敗北感を胸に、シャネルを後にしたわけです。
それにしても、都内に行くと、
シャネルどこにでもありますよね。
需要あるんですかね??
あるんでしょうね。
銀座にシャネルビルありませんでしたっけ。
うーむ。
世の中まだまだ、知らないことがたくさんありそうです。