俺は歩くことを止めた・・・。
大好きな君の手を放してまで、それをほっとくわけにはいかなかったんだ・・・・
他の人ならどうするかな?
もし、好きな人が間違ったことをしていたら・・・・
間違ってるってちゃんと言う?
それとももう過ぎたことだからと通り過ぎちゃうのかな・・・?
でも、俺にはそれが出来ない。
そこまで首を突っ込むべきじゃないって俺を責めるかな・・・・?
分かってるよ。
余計なお世話だって。
でも俺は好きだから・・・・
好きな人には真っ直ぐでいて欲しいだけなんだ。
どんな事であっても、俺は逃げないからさ・・・
信じてよ。
二人で行けば・・・いいだろう?
大丈夫、俺、大丈夫だから。
話の流れでするような告白なんてもうしないからさ・・・・
もう二度と、君を困らせたりなんかない。
ただ、俺がそうしたいだけ・・・・
君の思いを悲しいだけのものにしないために。
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さっきまで手を繋いで、軽やかに風を受けていた二人で歩く道は
もうそこにはなかった・・・・
急に風を冷たく感じて、本当は泣きそうだったんだよ。
「ドンウ・・・今更行ってどうするの?彼はもう、昔の彼じゃない。」
「本当にその意味が分かってるの?オルンちゃん・・・・
君がした事は・・・・君だけの思いだけでした、単なる自己満足で
自分勝手なことだよ?」
「ドンウなら・・・分かってくれると思ったのに・・・・
あなたも私を拒否するのね。」
「違うっ違うっ!!違うよ?オルンちゃん・・・・そうじゃない。
彼は記憶になかったんだろ?オルンちゃんと過ごした日々の事を・・・」
「そうね・・・山を降りて新しい生活が真新しくて
私の事なんて忘れてしまった・・・ううん、忘れたかったのよ。」
「・・・・・・そんなことない・・・・そんなことないよ!!オルンちゃん!
彼はきっと君に捨てられたと思って、ずっと傷ついていた筈だよ。
だけど、それでも大好きだった人をすっかり忘れるなんてこと・・・ありえないよっ!!」
「そうかな・・・・人間なんて所詮忘れる生き物・・・昨日、一昨日のことすら
忘れて・・・・存在してたことさえ消してしまうのよ。ドンウ・・・あなたも人間だから
きっとそうね・・・私ったら馬鹿よね。彼にも・・・あなたにも何を期待していたんでしょう。」
「オルンちゃん・・・・。」
そう呼んだ名前が・・・・遠い昨日のように思えて苦しい。
君が遠い目をする度に、俺の存在まで消えてしまうんじゃないかって怖いんだ。
本当は羨ましかった・・・
オルンちゃんの彼が。
氷漬けにしてしまうほど、愛されてるなんてさ・・・・
ははっ・・・俺なんて・・・なんだったんだろう?
俺なんて、ただの人間。
大嫌いな・・・人間で。
彼の代わりだったのかな・・・って、突き刺さる。
一つ一つの君の言葉と目線。
そして、その瞳は俺を通り越して誰かを見てるんだね?
それは憎しみに満ちた瞳で・・・俺を見るあの柔らかくて優しい瞳は
もうどこにもないんだね・・・・
「思い出したわ・・・・私・・・人間が嫌いだって。
勘違いなんかじゃなかった・・・」
「だからっ!?だからもう、俺の言葉も信じないって言うの?
俺と過ごした日々を忘れるって?そんなのやだよ・・・簡単に忘れられるもんか!!
俺がオルンちゃんの為に、一生懸命やってきたからじゃないよ?
それだけじゃないんだよ?俺は・・・・俺・・・本当に・・・。」
「やめて・・・・ドンウ。
私は雪の精霊・・・人とは相容れないもの・・・・でも、いいわ。
そんなに彼に会いたいなら行きましょう。」
【また・・・・そうやって俺を拒否するんだね・・・・?
気づかないフリ・・・・思いを言わせてはくれないんだね・・・・】
「うん・・・・。」
そう返事をするやいなや、彼女は吹雪を巻き起こして俺を巻き込んで
その山へと誘った・・・・
深い深い山とその森は、鬱蒼とした木々が生え、
気味が悪いくらいにひっそりとしていた。
何人たりとも足を踏み入れてはいないであろうその森には
風に吹かれて粉々になった氷の音だけがサラサラと聞こえている。
どこの国とも言えない、どこの場所だとも決め付ける事も
出来ないほど、神秘的な湖が森の中にあって、そこの1箇所だけに
光が入ってきている。
そこに到着して俺は口を開けたまま辺りを見渡した。
ザワザワと聴こえてくるのは、森の声だけで他には何も聞こえてこない。
すると何処からともなく、ゆっくりとした足音が聞こえてきた。
サクッ・・・サクッ・・・サクッ・・・・・・
ピッタリと止まった音に俺はまだ口を開けたままだ。
目の前に現れたのは少し大きめの狼だった。
いや・・・少しだと言えるだろうか・・・・
見たこともない大きさだ。
その狼は近寄ってきて、俺の手を鼻でつつき見上げた。
「何・・・・?こっ・・・こんにちは・・・。」
すると、狼は歩き出しては振り返ってくるから、オルンちゃんに
どうすればいいか視線を送ると、オルンちゃんは頷いて一緒に行こうと
歩き出した。
「森の狼・・・・あんなに大きなのいたかしら・・・。」
オルンちゃんはそう言うけど、俺は首をかしげる他になく
ただ後を歩くしかなかった。
思ったよりもすぐにその場所には辿り着いた。
「ここ・・・そう、ここよ・・・・でも、私なんだか・・・・。」
「どうしたの?」
「確かにここだった筈なのに、何か頭に引っかかるの・・・・。」
「・・・・?それで・・・・彼はどこ?」
「見ての通り・・・・いないわね・・・。」
「ほんとにここっ?ここに・・・・氷になった彼を置いていったの?」
「・・・・・・・・・・・・・そう記憶してた筈なんだけど。」
「あるワケないじゃない。」
どこから現れたのか、あの少女・・・・・
「また君か・・・・一体どうやって俺たちのところに現れるのっ??」
「私たちの後をつけてたの?」
「そんなことどうでもいいでしょ?それよりここにいないワケ・・・知りたい?」
「何か・・・知ってるのね・・・。」
「勿論よ。だって私が彼を助けたんですもの・・・。」
「えっ!!なんでっ!!??君はいつから・・・・俺たちを・・・っていうか
オルンちゃんのこと見てたんだよ・・・。」
「ずっとよ・・・もうずっと前から。生まれたときからって言ってもおかしくないかもね。」
「それじゃぁ・・・あなたは神?」
オルンちゃんは眉を潜めてた・・・
本当に少女の事を知らないみたい・・・。
「いいえ、神は今どこにいるのか・・・分かっているでしょう?
それが私じゃないことも・・・。」
「あぁっそうか!神はソンジョンの中にいるんだもんね・・・・
じゃぁ・・・君は何者なんだ?・・・・って聞いても教えてくれないんだっけ・・・。」
「それより、何故余計なことをするの?勝手に彼を解放したなんて。
傷ついたのは私なのよ?」
「何を言っているの?オルンさん・・・・傷ついたのは彼も同じだったでしょ?」
「そんなことなかったわ・・・彼は私から離れて山を降りたじゃない。」
「あの時のこの森のこと・・・忘れたの?」
「・・・・?」
「あなたはあの日・・・・彼からの結婚の申し込みに行けなくて、
沈み込んでいたじゃないの。人にもならずに・・・・。」
「それが?だって受けられる訳ないじゃないの。私は人間として
彼に会ってたの。それを今更精霊だって?言えるわけないじゃない。」
「それは何故?彼を信じられなかった?ううん、違うわよね。あなたは
自分が傷つくのが怖くて逃げたのよ。彼に本当の事を言って、
恐れられるのが怖くて・・・・」
「違うわっ!!言ったものっ!!そしたら、彼は怖がって逃げたのっ!!!」
「どうしたらそんな記憶が・・・・彼はあなたをずっと待ってたの・・・
毎日毎日・・・・きっといつかと願って・・・。でもあなたは一人で勝手に
落ち込んで、精霊の姿ままで時を過ごしてしまった。」
「だからって何が・・・・。」
「それが問題だったの。あなたは知らなかったの・・・・・
精霊でいる時間の方が長いって。精霊のままで数日いたら
あっという間に人間の時が早まるのよ?」
「時間が・・・早まる?」
「精霊の1日と人間の1日の長さが違うってこと・・・・・・
本当はね?数年は彼は待ってたの。
でも・・・とうとう諦めて山を降りたの・・・悲しくて悲しくて、森の木々を倒して行った。
そうやって暮らしてたけど、そんな毎日に疲れてある日山を降りた。」
「な・・・なによそれ・・・・そんなの知らないわ!!」
「オルンちゃん!!落ち着いてっ!?落ち着いて話を聞こう・・・ねっ?」
俺は興奮するオルンちゃんを抱きしめて、落ち着かせた。
ほんと損な役回りだな・・・・w
でもいいさ・・・君の心が早く軽くなって欲しいから。
「あなた何者なのっ!!?突然来て、ずっと見てただなんてっ!!」
オルンがいつになく興奮して言うと、少女は悲しそうな表情を浮かべた・・・
「ごめんなさい・・・・・・今はそれしか言えなくて・・・
だけど、みんなを混乱させたいんじゃないの。私はできる限りのことを
伝えたくて・・・ごめんなさい・・・・。」
「まぁまぁ・・・俺も正直君が誰なのか知りたいけどさ、本当に言えない
理由があるんだよね?」
「はい・・・ドンウオッパ・・・ごめんなさい。
会えるか分からない未来で、必ず話しますから・・・・。」
「会えるかわからないのに話すって、言ってることが無茶苦茶じゃない。」
「オルンさん・・・・ごめんなさい。でも1つだけ言えることは、私が誰かを
話すと、私は消えてしまうんです・・・・。私のこの姿は今、仮の姿なんです・・・。」
「それで?彼の話・・・続きがあるんでしょ?」
オルンちゃんはようやく少女の話に耳を傾け始めた。
「山を降りてからもしばらくの間、彼は塞ぎ込んでいました。
お酒ばかり飲んで、山で会った最愛の人の話を毎晩おとぎ話をするかのように
話していたみたい・・・それを不憫に思った店のマスターが知り合いの女性を紹介
したんです。」
「それで・・・話してるうちに仲良くなったのね・・・・そこに私が来たって
どうにもなることじゃなかったのね。私・・・私・・・馬鹿みたいね・・・・。」
「オルン・・・ちゃ・・・・。」
顔をそむけてしまった・・・そんな顔を見れなくて。
胸が痛い・・・胸が痛いよ・・・こんなにも近くにいるのに、君は遠くなってしまった。
傍にいるだけでいいなんて、俺には思えない。
すぐ傍にいるのに、その手を掴むことができないんだよ。
せっかく・・・・握れる手があるのに・・・・
ドンウはギュっと拳を握り締める。
「オルンさんがそんな彼を知らずに、凍らせてしまったの。
彼が裏切ったっていう記憶は、記憶違い・・・・悲しみのあまりにそう思わなければ
自分を保てなかったのね・・・・。」
オルンは顔を手で覆って、静かに泣いた。
その涙が指の隙間からこぼれ落ちて、雪になる・・・・・
ポタポタと落ちる度に、涙の氷はダイヤモンドのように固まった。
ドンウはそれを拾い上げて、そっとポケットにしまいこんだ。
その雫は溶けることなく、そこにあり続け、ドンウが何を思ったのか
どうしてもそれをそのままにしておくことができなかった。
「私はオルンさんが消えてから、彼をすぐに氷漬けから解放したの。
過ちをさせたくなかった・・・・そして・・・悪いとは思ったけど人間の彼にとって
こんな体験の記憶は重すぎると思って、私がオルンさんとの日々を消して
普通の人間として最期まで暮らせるようにしていたの・・・・
ずっと言えなくて・・・・言えるこの時を待っていました。」
「そう・・・・そうだったのね・・・良かった・・・私、彼の命を奪ったのね。
自分勝手な思い込みで・・・でもっ・・・でもっ本当は待っていてくれたのね・・・。
ありがとう・・・・ありがとう・・・・。」
「いいんです・・・・私も謝らなければいけないんです・・・。」
「謝る・・・?何を・・・・。」
「オルンんさん・・・思い出したのでしょう?ドンウとは以前に
出会っていること・・・・・。」
「ぁっ・・・・そうね・・・・・。」
「その話を・・・・ドンウオッパに・・・。」
俺にずっと体を向けなかったオルンちゃんが、ようやく俺の方へと
体を向けて目を見つめてくれた。
「ドンウ・・・・私、彼とのことがあってから、久しぶりに人里に降りた時、
初めて見たのがドンウ・・・あなただったの・・・・」
「えっ!?俺っ??」
「うん・・・あなたは寒そうにして、寒いのは嫌だとか言ってたから
やっぱり来るんじゃなかった・・・って後悔して帰ろうと思った時に
あなたは急に雪で遊び出したのよ。」
「あはっw雪は綺麗で楽しいからね!そうだったそうだった・・・寒かったんだけど
上着さえ着て、遊んでればあったかくなるしねw」
「そう・・・そんなことをひとり言のように言って楽しそうに
雪と遊んでた・・・私は帰る足を止めて、暫く見てたの。
あんなに楽しそうに雪遊びしているのを見るのは久しぶりだったから。」
「あっ何?子供みたいだって言うんでしょぉ~?w」
「ちょっとね?そう思ったけどそんなことより、生きる条件の中で
与えられた環境を楽しく上手に過ごす事ができる人なんて珍しいなって
見とれてしまった・・・・それで、声を掛けようかなって思ってて、そしたら・・・。」
「私と会ったの。」
と、少女は言った。
「そうだわ・・・あの時のあの子はあなただった!!」
「私は・・・・あぁするしかなかったんです。オルンさんが忘れてしまった
過去を思い出し、それを精算すること・・・・・それには人と最初から心を
分かち合う必要があったの・・・・。ドンウオッパを見た時から、きっとオルンさんは
できるって私は考えました。あんな突然自分を失ってしまうのは酷い事ですよね・・・
自分を忘れ、何者だったかもわからなくしたのは、そうする必要があると思ったんです。」
「過去の記憶を持ったままじゃ・・・・先入観とか、辛い気持ちからのスタートだと
マイナスからスタートするのと同じだから?」
「ドンウオッパの言う通りです。何も分からない自分と、人じゃないという状況の中で
どれだけ人と関われるか・・・・それが今、この世界に必要なことでもあるからなんです。」
「無理な事を無理だと最初から諦めずに・・・耐えられるか?
それが本当の鍵なのね。」
「はい・・・・乗り越える力です。それを持つ人間のプラスとマイナスの心が
私たち異世界の者達にはない不思議な力を引き出すと思っています。」
「そっか・・・・分かった!!じゃぁ、オルンちゃん、俺達はそういう意味では
親友だなっ!!それならきっと乗り越えられるよね!よぉ~しっ!!
今度こそ行くよ!!ミョンスのところに!!」
「ドンウ・・・・・。」
上目使いに苦笑するオルンちゃんは申し訳なさそうだった。
でもいいんだ!
オルンちゃんがこれで前向きに再出発してくれればさ。
大丈夫・・・・・・好きな気持ちは悪いことじゃないもん。
別に・・・思っててもいいよね?
俺の気持ちが今、伝わらなくてもいい。
でも、今まで通り俺は俺からオルンちゃんの手を繋ぐ!!
俺がそうしたいから・・・・
「ドンウッ!!」
俺は勢いよくオルンちゃんの手を引いた。
「オルンちゃん!行こっ!!ミョンスが待ってる!!」
そう言って、目の力を作動させて、あの場所へと向かった・・・・
この時・・・オルンちゃんが少し・・・微笑んだように見えた。
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