と めざ
を取れたらいいなってみんながそれを目指してがんば
しょうがっこう
っている。そう・・・ボクは小学校とはまるでちがう
がっこうせいかつ お
学校生活にだけ追われてた。
かん あ こえ しだい ちい
げん関を開けて、「ただいま」という声も次第に小さくなり、
いま かお む あ あたま
今までハルの顔と向き合ってなでていた頭にもさわらなく
みず とき すく
なり、水を時どきかえてやることも少なくなってしまった。
こや なか かえ ま
それでもハルは小屋の中からボクの帰りを待っててくれて、
すがた み かなら た あ うわめ つ゛か
ボクの姿を見ると必ず立ち上がって上目使いでボクを
み あたま
見ていた。あれはきっと・・・頭をなでてって・・・
い
言ってたんだよね?
いま いた きも
今になってボクは、ムネが痛くてたまらない気持ちで
とき いちにち なか
いっぱいになってる・・・どうしてあの時、ボクは1日の中
すうふん すうびょうかん あたま
のほんの数分・・・いや、数秒間でもいいから頭をなでて
やらなかったんだろう・・・って。
う りょうしん いろ もの
ボクは生まれてから、両親から色いろな物をもらってきた。
わら おこ かな よろこ こころ まいとし き ひ
『笑う・怒る・悲しむ・喜ぶ』という心や、毎年決まった日に
び
おくられるたんじょう日プレゼントやクリスマス
プレゼントなど・・・
ハルは?
ふ かえ み つ もの
ボクは振り返ってみた。ハルの身に付けている物と
い くびわ あか くびわ
言ったら首輪だ。りんごみたいに赤い首輪や、ときには
ちゃいろ あか つ
茶色に赤いハートの付いたのとか。
さんぽ とき つ
それから散歩の時に付けるリードぐらいだろう。
でも、それもボクがあげたんじゃない。
もの
じゃぁ、ボクがあげた物はなんだろう?
「・・・・・・・・。」
にお つつ こ
ボクはもう、ボクの臭いをかいでこないハルを包み込む
あ
ようにだき上げた。
みず
『水だ』
みず
ボクは、水しかあげたことがない。
おも め たいりょう しおみず だ
そう思ったら、ボクの目から大量の塩水があふれ出した。
とう かあ ごじゅっしゅるい いろ ぴつ
ボクはお父さんやお母さんから50種類もある色えん筆や、
とう しごと か
お父さんが仕事でもらったメダルとかを借りたりしたことが
なに
あるのに、ボクは何もかしてあげなかった・・・
としだま かね ちょきん なに
それに、お年玉でもらったお金を貯金して、何かオモチャ
か よ いろ かんが とき
でも買ってあげれば良かったとか色んな考えがその時
おも あつ こえ で
になって思いついた。のどが熱くて声も出ない。
あたた いろ おも
まだ温かいハルをだきしめながら、色んな想いが
なみ おお こう
かけめぐり、その波のように大きくなった後かい
にムネがつぶれそうになった。
あ かる
”あぁ・・・ハルってこうしてだき上げると、軽くはないね。
おも かん
”そんな重みを感じた。
いえ つか
ハルの家として使っているケージから、フローリングと
いた だ
いう板をしきつめたリビングに出してハルのために
ざぶとんをひいてあげた。
いた ま つめ いた かあ
板の間じゃ冷たくて痛いでしょう?ってお母さんが・・・
よこく げんき
そして、ハルは予告なく元気がなくなったわけじゃ
なかった・・・・
びょうき よちょう
病気の予兆みたいなのはあったんだ・・・・。
さんぽ で かん
このころには散歩に出かけようとしても、ハルはげん関
で うし さ こうどう からだ いちぶ
から出たくないと後ろに下がる行動をとったり、体の一部
がはれてたりしてた。
あとなんど さんぽ つ だ い
その後何度も散歩へ連れ出そうとしても、いやだと言って
ひ かん
いてボクがグイッっとリードを引っぱると、ハルはげん関
まえ かいだん お とき
前の階段からすべるように落ちてしまった。この時、
びょうき し おも
どうして?たまたま?ってまさか病気で死ぬなんて思い
きも じぶん
たくなくて、だけどショックな気持ちは自分には
み わら
ごまかせなくて、どんなテレビを見ても笑えなかった。
びょういん つ い いしゃ いちょう おと
もしも病院へ連れて行ったら、お医者さんは、胃腸の音
き い
を聞いてけんさしましょうって言うだろう。それから
ようにゅういん い
”要入院です”ってきっと言われる・・・
にが くすり の ふくさよう で つら おも
苦い薬を飲まされて、副作用も出て辛い思いをする
りょうしん ようす み
かもしれない。両親もそんなハルの様子を見て、
なお はんだん
治らないだろうって判断した。
いえ さいご とき す ほう
だったら家でゆっくりと最期の時を過ごした方がハルに
とってはいいのかもしれないって。それなのに、ボクが
もの みず
ハルにあげられた物は水だけだった・・・・ボクは・・・
うつわ か
その器でさえボクが買うことはなかった。
いま いき と み お なみだ
今にも息が止まりそうなハルを見て、こぼれ落ちた涙を
い
そででふきながらボクは言った。
かあ みず
「お母さん・・・ボクはハルにお水しかあげられなかった・・・。
みず まいにち
それにそのお水だって毎日じゃない・・・・。」
かあ すわ あたま
お母さんはハルをかかえるボクのそばに座り、ハルの頭を
い
やさしくなでながら言った。
みず おも
「そのお水・・・ハルにとってはどんなものだったと思う?」
い だいじ みず おも
「え・・・生きるための大事なお水・・・だったと思う。」と、
こた
ボクは答えた。
い みず かあ
「まぁ、生きるためのお水だよね。でもね、お母さんは
おも みず
こうも思うの・・・。ハルはとってはうれしかったお水・・・
まえ
お前からもらったプレゼントだって。
あたら みず の
だってね?その新しくてキレイなお水を飲むことが
でき こと いぬ ほんとう あ まえ
出来た事、犬にとったら本当は当たり前じゃないの。
みず むかし そと か
そのお水があったから昔、外で飼われてた
のらいぬ むかし なが いっしょ
り、野良犬ばかりだった昔よりも長く一緒にいられた
おも にんげん みず の
んだと思うの。人間だって、よごれたお水を飲んで
いたらおなかをこわすでしょう?
まいにち まえ ころ
それに毎日じゃなかったからってお前が殺した
わけじゃないでしょう?」
「うん・・・でも・・・。」
まえ みず ひ
「じゃぁ、お前がお水をあげなかった日はどうだった?」
かあ いもうと
「お母さんや妹があげてた・・・・。」
せわ
「そうだよね?みんなでハルのお世話をしてたの。
ながい
だから、ハルはとても長生きしてくれたよね。それに、
りゆう ふう じぶん
どんな理由があってもそんな風に自分をせめちゃ
かな
だめよ。ハルがよけいに悲しむでしょう?
じぶん しゅうせい しあわ おも
ハルがね、自分の終生は幸せだったって思える
みおく
ように見送ってあげなきゃ。」
「うん・・・・そうかな・・・?そうなの・・・かな・・・?
つごう がっこう い
でもっ!でもボクは、ボクの都合で学校に行ったり、
りょこう い いえ
旅行に行ったりして、ハルだけを家に
お
置いてったから・・・」
なみだ み
とめどなくあふれてくる涙でもう、ハルが見えない・・・。
わか とき よこ ちい
お別れの時をハルは横になって小さくうなって
ま
待っているから。
み かあ い
するとそんなボクを見て、またお母さんは言った。
じつ かあ おも まえ
「実はね、お母さんずっと思ってたんだけど、お前は
みず ほか
お水だけじゃなくて、他にもたくさんあげていたもの
があるの。」
な
「ボクが?無いよ・・・そんなの・・・。」
「ううん、あるの。」
なに
「何?」
まえ まいにちまいにち
「それはね、お前だけが毎日毎日”いってきます”
こえ こと
”ただいまハル!”って声をかけてあげてた事だよ。
こえ き しなもの
その声を聞くことがハルにとってはどんな品物よりも、
さいこう かあ
最高のプレゼントだったんじゃないかなってお母さん
おも にんげん はな
は思うな・・・。ハルは、人間のように話せないけど、
こころ おも
心はあると思う。
まえ こえ ちい こえ おとな たび
お前の声が小さくなっても、声が大人になる度に
か こえ き たび た あが
変わっていっても、その声を聞く度に立ち上がって、
ひょうげん おも
うれしいよ!うれしいよ!って表現してたんだと思うよ。」
「そうかな・・・そうだったらいいな・・・でも、ハル・・・
まえ た あ とき
ごめんね?お前がもう立ち上がらなくなった時、
こえ き
もっともっとボクの声を聞かせてあげれば
よ つら とき
良かった。ハル・・・ありがとう。ボクも辛い時、
かん あ
げん関を開けたらハルが
ま き
待っててくれた気がして、うれしかったよ・・・・。」
い せなか お ま な
ボクはそう言って、背中を折り曲げるようにして泣いた。
よる てんごく たびだ い
その夜、ハルは天国へと旅立って行った。
つくえ む ふでばこ
ボクはそれから机に向かって、筆箱をガチャガチャと
ぴつ て
かきまぜるようにえん筆を手にした。
うま ぶんしょう ちい てがみ
そして、あまり上手くはない文章だけど、小さな手紙
か つぎ ひ
を書いた。次の日にはペットをまいそうしていくれる
つ い
ところへハルを連れて行った・・・
からだ てんごく つ い
ハルの体を天国へと連れて行ってくれるところだ。
つ あいだ なに おも なんぼん
そこに着くまでの間に、ただ何も思わず、何本もの
でんちゅう み みおく ちゅうしゃじょう つ
電柱ばかりを見つめて見送った。駐車場に着くと、
わ てっぱん じめん
ドロよけなのか分からないけど、鉄板が地面に
お おお おと た
置いてあって、ガタンッガタンッと大きな音を立てた。
くるま かあ にもつ も
車をおりてボクはお母さんの荷物を持ってあげて
うけつ む
受付らしいところへと向かった。
じっかん よこびら
ボクはまだ実感がわかないまま、その横開きのとびらを
あ やさ ふうふ えがお
カラカラと開けると、優しそうな夫婦が笑顔でむかえ
おお ゆうめい てら
てくた。そこは、大きくて有名なお寺なわけじゃないけど、
たち しょうばい ほんとう しんせつ
おじさん達は商売というよりも、本当に親切でやって
かね と ほそ
いるほどのお金しか取らずに、細ぼそとやっている
たち ほう
ようだった。そんなおじさん達の方しんや、やさしい
えがお み あんしん
笑顔を見て安心した。
ゆうき だ こえ だ
ボクは勇気を出して声を出そうとしたけど、のどが
こえ で
つまって声が出なかった。
て
でも・・・あいさつはしなくちゃって手をグーにして
い
にぎりしめ、「こんにちは・・・」って言った。
しごと たち
そこで仕事をしているおじさんに、ボク達はこれから
おこ せつめい う かあ しき
行われることの説明を受けた。お母さんがおそう式を
もう こ ようし しめい か
してもらうために、申し込み用紙に氏名を書いたり、
じゅうしょ か み かあ て
住所を書いているのを見ていたら、お母さんの手が
わ
ふるえているのが分かった・・・。
み
ボクは見なかったことにして、カべにかざられている
しゃしん いんさつ もじ なに つか わ
写真や、印刷された文字とか、何に使うのか分から
きぐ め か おわ ま
ない機具に目をうつして書き終わるのを待った・・・・。
べつ へや あんない
そしておじさんはボクらを別の部屋に案内した。
さいご わか ことば たち い
おじさんが最期のお別れの言葉をボク達に言った。
しあわ かお
「とても幸せそうなお顔をしてます
よ わ
ね・・・かわいがられてたのが良く分かります。」
さい まえ かお み い した
祭だんの前のハルの顔を見てそう言った。ボクは下を
む おとうと かお
向き、弟はそんなボクの顔をのぞきこむように
みあ ほんとう さいご
見上げてた。もう本当に最後なんだ・・・って
おも ちか からだ
思ったから、ハルへとゆっくりと近づいて、そっと体を
ひ すこ
なでると、もう皮フは少しかたくなっていた。
し
これが”死”なんだ・・・・。
ほうほう てんごく つ
ハルはペットだから、どんな方法で天国へ連れて
い おも にんげん おな
行ってくれるのかと思っていると、人間と同じように
ねんぶつ とな はじ
おじさんは念仏を唱え始めた。
じかん しず かん
ボクはなんだかこの時間が静かに感じた・・・
はい はこ
そして、ハルの入った箱に、
か てがみ からだ よこ お
書いてきた手紙をそっと体の横に置いた。
てがみ か
その手紙にはこう書いた・・・
えがお
『ハル・・・たくさんの笑顔をありがとう。ハルがボクを
しん ま ちい おも たいせつ やくそく
信じて待っていてくれたその小さな想いを大切にするって約束するよ。
らい ちい おも まも
だからボクはしょう来、その小さな想いも守れる
さつかん だれ びょうどう かんが
けい察官になる。誰にでも平等に考えることが
でき こころ つよ さつかん やくそく
出来るやさしくて心の強い、けい察官になるって約束する。
やくそく は いろ こと せん
その約束を果たせるよう、これから色んな事にちょう戦
せいか み
したり、けいけんしたりしてその成果を見せられるように
しっぱい せいこう
がんばるよ。どんなに失敗したって、成功するまで
ボクはあきらめない。
じゅうまんおくど みまも
十万億土で見守っててほしい。』って、
か そと で ぶつぞう
そう書いた。それからまた外へ出たところには仏像が
たち せん くば
あるそうで、おじさんはボク達にお線こうを配った。
ちゅうおう お ぶつぞう すみいろ
中央に置かれた仏像はもう炭色になりそうな
いろ あしもと
色をしていて、その足元にはたくさんのカンヅメや、
ふうしゃ はな あつ
風車、お花やオモチャなどが集まっていた。
かみさま さけ
それから、神様にもおそなえしているお酒もあった。
じゅんばん ひ つ て あ てんごく
みんなで順番に火を付けて手を合わせ、天国で
ふく ねが てんごく
ハルの福がたくさんあるように願った。ハルは天国へ
い おも で
行ってしまったけど、ハルとの思い出や
こころ き
心が消えるわけじゃない・・・
は しゅうまつ そら みあ おも
ボクはそう、よく晴れた週末の空を見上げて思った・・・・。
つぎ つき
それから次の月・・・・
いま じんせい にかいめ あた
ボクは今、人生において二回目の新しい
つうがくろ ある だ
通学路を歩き出す。
えき ま お さくら はな
駅のホームにひらひらと舞い落ちる桜の花びらと、
す ひ せ
ハルと過ごした日びを背にして。
さいご あたら ふく
『最後に・・・・ボクの新しいせい服を
K-pop★恋愛小説 INFINITE・防弾少年団・その他