あの日も丁度、こんな雨だった・・・。
雷鳴轟く中、自分の不甲斐なさを思い知らされるような・・・。
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「ソンヨラ~イロナ~学校に遅れるよ~!!」
オンマの声で目が覚める。
いつもと変わり映えのない日常。
「ん・・・ヴぅ~~~ん・・・くぁっ~~~~!!!」
伸びをしながら起き、リビングへ向かいお腹をボリボリ掻き毟りながら
オンマにおはようのポポをする。
「オンマァ~・・あれ?あいつは?」
「何言ってんのぉ~ほんとにこの子はぁ・・・弟ならとっくに学校へ行ったわよ!」
「んがぁあ~~~・・・・」
膝を折らないままソファに倒れこむ。
「ソンヨラ~?あんた今日劇団レッスンの日だからね~?忘れんじゃないよ~?」
「うぅ~ん・・・わかってるよぉ~・・・」
オンマに半ば無理やりトーストを咥えさせられ、いそいそと制服に着替えた。
「今何時なんだぁ~?・・・・・」
突然、細くてまるっこい眼が一気に毛穴まで開いた。
全身冷や汗が出るような感覚に襲われながら猛ダッシュで
学校へ向かった。
「やっべぇ!遅刻じゃん!!」
家を出て暫くすると急な坂道が続いている。
『地獄坂』と呼ばれ、大体ここで無意味な競争が始まったりもする場所だ。
「んあぁぁあぁあああああ!!!!!!」
いくらソンヨルに長いコンパスがあろうとも、体力の差で毎度この坂で
抜かされて負けてしまう。
「ぢぐじょぉぉおおおおお!!!!」
感受性の高いソンヨルは毎朝こうして悔しさから始まって行く。
「あ~ら?ソンヨルおはよう~!」
「ちっ!出たなマヌケ女!!」
「フンッ!うるさいわよ。あたしに勝とうなんて千年早いっての!」
そう言って自転車で追い抜く、この垢抜けない女の子は、
ソンヨルの小学校の時からの幼馴染だ。
「ぶぁ~か!男に勝つ女なんて、女じゃねぇ!」
「べぇ~~~~っ!!」
舌を思いっきり出して変顔してから、先へ学校へ行く彼女は
とても美人とは程遠い、小さくてとてもこじんまりとした子だ。
「ったく!なんだよ。アイツは!!高校生にもなって、男勝りで、
なんの色気も感じないよ。大体なんだあの黒ブチの眼鏡はっ!!」
そういうソンヨルも黒ブチの眼鏡だったが、自分の事は置いておく
タイプだった。
ソンヨルはブツブツと文句を言いながら、息を切らして校門へと急いだ。
キーンコーンカーンコーン・・・・
キーンコーンカーンコーン・・・・
始まりの鐘がなる。
ソンヨルはあともう少しの所で門を閉められてしまった。
「あぁ~~~!!!!!!!待ってくれぇ~~~!!」
もう駄目だ・・・・。よしっ!裏から入ろう。
そう思ってすぐさま学校の裏側に廻った。
「へっへっへ~ここは俺様が遅刻防止に作っておいた秘密の抜け穴だぁ~いっ!」
と、そこへたどり着くと何やら誰かがその穴から潜り抜けようとしていた。
「やっ!!おいっ!?誰だよ?そこは俺の穴だっ!!!」
ワケの分からない小学生並の理由でソンヨルは叫んだ。
「キャッ!!」
ソンヨルがその穴を使わせまいとして、体を引っ張った。
「うわっ!!まさか???」
その子は学校で有名な女の子だった。
学年はソンヨルよりも2つ上の先輩だ。
その清楚で、大人びた顔つきの先輩は
校内一の美人だった。
なんと言っても色気がある。
ソンヨルは動揺を隠しきれなかった。
「なっ!!なななななっ!!!!なんで、さゆりさんがっ!!?」
「あはっ、見つかっちゃったぁ~。というか、私の事知ってるの?」
「もちろん知ってますよお~!!先輩は有名ですからっ!」
「あはっ、そうなんだ?あ、でも、ごめんね?でも、この事は内緒にしといてね?」
「あ・・はい・・・。で・・・でも、なんでさゆりさんが?」
「なんでって・・・遅刻しちゃったからよw」
「この穴、最近見つけたんだぁ~。もしかして、君が作ったの?」
「あ・・はいっ!そうなんです!!」
「じゃっ、私も時々使ってもいいかな?」
「もっ・・もももももちろんですっ!」
「ふふっ・・じゃぁ、2人の秘密ねっ?!」
そうして、2人は出会った。
「先輩っ!やばいよっ!遅刻遅刻!!」
「あっ!いっけない!!急ごう!!」
2人はバタバタと走りながらなんだか意味もなくおかしくなって、
笑いながら教室へと向かった。
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「ププププ・・・なんて顔してんの?鼻の下伸びてるわよ?
だっさい、ださださソンヨル!!」
幼馴染のサキがお出迎えの嫌味を言う。
「うえるせぇな・・お前のそのネーミングの方がださいだろっ!」
と言ってソンヨルは後で仕返ししてやろうと、思った。
「ニヤニヤして気持ち悪ぅ~いっ!」
『アイツむかつくなぁ~・・・どうにか仕返ししてやる!
何してやろうかな・・・。』
授業中そんな事ばかりを考えて過ごした。
学校が終り、この後、劇団に入っているソンヨルは、
レッスンを受けに行く事になっている。
「今日はレッスン日~♪」
と、鼻歌交じりででレッスン場に向かう。
ソンヨルは今、演技の練習が楽しくて仕方がない。
将来の夢は俳優と既に決めているようだ。
それがどんなに厳しくとも、今は絶対に諦めない覚悟で熱心に通っている。
レッスン場までは街から少し離れているため、バスを利用していた。
「バスまだかなぁ~・・・?」と、道路に首を伸ばし遠く見つめたり、ベンチに座ったり
とまるで落ち着きがない。
そうこうしているうちにバスが到着した。
耳にイヤホンして音楽を聞きながらバス乗り込む。
空いている席に座ると、サキがあっかんべーをして胴衣を担ぎながら、
バスと反対方向に自転車で通り過ぎて行った。
「んなっ!なんなんだよ。アイツはっ!!いちいち俺に嫌がらせしやがって!!」
ソンヨルにとってサキはいちいち勘に触る子だった。
しかし、小学校の時はとても仲良く遊んでいたものだった。
いつも鬼ごっこやモノマネごっこをして、昨夜見た面白いテレビ番組の
真似をしては楽しく遊んでいたものだった。
ソンヨルは暫くその子が男だと思い込んでいる程だった。
女の子と知ってからも、その容姿からか、なんの違和感もなく
ずっと友達でいられた。
いつからか、思春期になって制服もスカートになったこともあり、
段々お互い意識し始めた頃、その感覚にどうしていいか分からず、
その恥ずかしさを隠す為に、互いに意地悪をするようになっていった。
いわゆる悪友だ。
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劇団のレッスンを終え、やぁ~今日も頑張ったとソンヨルがしみじみ
感じていると、さゆりが突然目の前に現れた。
「あれ?今朝会った・・・」
先輩が声をかけてくる。
突然の出来事にソンヨルの動揺は隠せない。
毎度毎度、動揺してばかりな自分に、なんとか男らしさを出したい年頃でもあった。
ソンヨルは咳払いをし、真顔にするか、笑顔にするか悩んだ結果、
爽やかに笑顔で挨拶しようと決めた。
「あっ!さゆりさん!!こんにちは。偶然ですね。」
「うん!え・・・っと・・」
「あ、僕、イ・ソンヨルです。覚えてください!!」
と最高の笑顔で微笑むソンヨル。
「あ・・うんっ!よろしくね?ソンヨル君。」
なぜかちょっと吹き出したさゆりにソンヨルは『?』だった。
「あ、さゆりさんはここで何をしていたんですか?」
「あ、私ね、すぐそこでバイオリンを習っているの。」
「わぁ~・・バイオリン・・・素敵ですね!」
もう、バイオリンという響きだけでソンヨルは舞い上がっていた。
こんな素敵な人が彼女だったらなぁ・・・
ソンヨルの心に明るい炎がついた瞬間だった。
「あ、さゆりさん、メアドとか聞いてもいいですか?」
「うん。いいよ。」
あっさりと連絡先を教えて貰ってソンヨルは宙にも浮かぶようだった。
「あっ!そうだ!!さゆりさん、今度映画でも観に行きませんか?」
続けていきなり映画に誘うソンヨル。本当に気が早い。
「えっ?!まぁ・・いいけど。いつにする?」
そうしてさゆりとのデートに早くもこぎつけたソンヨルだった。
来週の日曜日・・・。早くデートの日が来ないかと指折り数えていた。
夕食を済ませ、部屋のベッドで横たわりながら今日の事を思い返していた。
「わぁ~・・俺って結構行動力あったんだな・・・。あと、何日で日曜日だ?」
あまりに舞い上がっていて、頭で数えることもできずにカレンダーを眺めた。
「1・・2・・3・・・むふっ・・あと3日後かぁ~・・・何の映画観に行こうかな・・・。」
色々なシチュエーションを考えて妄想が止まらない。
「映画を観て・・・食事もして・・え?食事ってどこでしようか・・・。
サユリさんの好きそうなとこってどこだろう・・?サキだったらその辺のおでん屋で
いいんだけどな・・・うんうん・・アイツにはお洒落なカフェなんて似合わないやっ!ププッ!!」
ソンヨルは頭の中でも喧嘩しているようだ。
「てか、アイツ今日!!!そうだ・・・仕返ししないと・・・
う~ん・・何がいいかな・・・よしっ!!」
ソンヨルはいたずらに使う道具を持って夜コソコソと出て行った。
「よしっ!フフフフ・・・見てろよサキめぇ~・・・これで明日、俺は勝つ!!」
ソンヨルは明日の朝に勝負をかけて、いたずらをしておいた。
果たして明日何が起こるのだろうか・・・・・。
それは、神のみぞ知る事である・・・。