いよいよ、恐怖の親知らず抜歯の日が来た。
朝起きて、寝室の絹のカーテンを
勢いよくあけて空を見ると、
見事に晴れ渡った、
曇り空だった。
なんのこっちゃ。
今日は特別な日だ!
そう思って普段は行ったこともない
近所の神社まで足を運び、
今日のメインイベントである
親知らずを抜くと、いう巨大行事が
無事に済むことと、世界平和を
祈願した。
世界平和を祈ったのは、神様に
「ん? なになに、
世界平和を願う?
今どき、珍しいジェントルマンだ。
こんな、殊勝な心がけの者に
抜歯の痛みや苦しみは与えられないのぉ。
よぉ~し、今日は何の苦痛もないようにしてやろう。」
という思し召しをもらおうと思ったからだ。
何という見苦しい下心・・・、
とは分かっていても、
小さい時以来、歯なんか抜いたことない、
このワタクシは、
この数日、その恐怖に恐れおののく、
震える子鹿状態だったのだ。
そして、予約の午後5時半少し前、
自慢の黒塗り愛車を歯科医院の前に
キキーッと、カーレースばりに、
意味もなくブレーキ音を出して乗り付けてみた。
受付を済ませ、診察室の椅子に座って待っていると、
額の真ん中に、まん丸反射鏡をつけた例の悪魔が
やってきて、言った。
「ゴッホさ~ん。今日は抜歯ですね~♪」
「ん? 語尾についてるこの音符は何なんだ?
まさか、この抜歯を楽しみにしてたのか?
や、やっぱり悪魔だぁ~~!」
そして、椅子が後ろに倒され、
ほぼ仰向け状態で無抵抗になった
ワタクシの右側に悪魔が、
左側には、その助手の看護師さんがついた。
ふ、二人がかりで抜くの?
ふ、二人でやらないと、抜けないのぉ?
心の中で思う言葉まで震えてきた。
ワタクシ、その戸惑いを自慢のつぶらな瞳を
パチクリさせて、表現してみた。
そんなワタクシ必死のパチクリ攻撃など、
全くものともせず、
悪魔の両手がワタクシの口に伸びてきて・・・、
ついに、
抜歯が、
始まった・・・。