椅子に座ってはみたものの今から二時間半待ちである。
こんなことなら本か何か持ってくれば良かった。
周りを見渡しても時間つぶしになるようなものは何にもない。
ある訳ないか、ここは社会保険事務所なのだ。
よし、この時間を利用して当社の経営について
今一度考察してみよう。
そもそも利益の根源となっているものは何か。
その中で見直しする点はないか。
う~ん、と考えていたら、どこからかテレビの音が聞こえてくる。
まさか社会保険事務所にテレビなどあるはずがない。
う~ん利益の根源となるものは・・・、
いや、やっぱりテレビの音が聞こえてくる。
これは竹内マリアの曲だぞ。
利益の根源をちょっと置いといて、
曲が聞こえてくる方にフラフラと行ってみた。
あった。
狭い待合室のような所にテレビがある。
そこに大好きな竹内マリアが写っている。
♪ふしぎな、ふしぎな♪ピーチパ~イ♪。
大ヒット曲、不思議なピーチパイを歌ってる。
懐かしいなぁ。
思わず最前列に腰をおろして画面に見入ってしまう。
利益の根源はどこかに吹っ飛び、頭の中は
時空を超えて一気に学生時代にタイムスリップしてしまった。
あの頃はジーンズはベルボトム、
髪は長髪、酒はジンライムだった。
あの時のみんなはどうしているかなぁ、
なんて考えていたら曲が変わった。
おっ、次はこれまた大ヒット曲「駅」である。
いいぞぉぉ。なんて見ていたら次々とヒット曲が披露され、
どんどん時間が過ぎていった。
次の番組はラジオ体操である。
♪タンタンタタラッタッー♪
ラジオ体操はとても体にいいと聞いた。
そういえば体操しようと思ってこのCDを買ったんだ。
CD聞きながらしようとしたけど、
振りを全く覚えてなくてできなかったんだ。
これはいいチャンスだ。
これを見て振りを覚えよう。
竹内マリアといいこのラジオ体操といい、
なかなか有意義な待ち時間になってきた。
これも普段の行ないがとてもよろしい
ワタクシに対する神のおぼしめしに違いない。
そうこうしている内に番組はニュースになった。
そうか今日はそんなことがあったのか、
フムフム。
なんてしていると
「ろっぴゃくじゅうきゅーばんの番号札でお待ちのかたぁ~」
のアナウンスが聞こえてきた。
ワタクシである。
なんと二時間たたない内に呼ばれてしまった。
もう少しテレビ見ていたいという気もしながら呼ばれた窓口に座った。
係員は若い女性である。
うん?
カワユイではないか。
なかなかどうして今日は結構いい日かもと、ほくそえんだ。
「ねんきん特別便お持ちですか?」
「はい、持ってます」
と見せようとした。
まっ、まずい!封書を握り締めたまま、
大好きな竹内マリアとラジオ体操に見入っていたので、
手に力が入ったのかクシャクシャになっている。
このままでは見えにくい。
特に年金納入したのに空欄になっている部分を
しっかり見せないとだめだ、
書類のシワを手でよいしょ、よいしょとを伸ばした。
それがおかしかったのか、係員がクスクスと笑っている。
う~ん、笑顔もなかなかカワユイぞ。
どうです今晩ご一緒にお食事でも、と
口に出そうになるのを必死で抑えながら、
「はいっ!」
と渡した。
「ああ、この期間が空白になってるんですねぇ、ちょっと調べて来ます。」
納入記録が残ってないから空白になっているはずだ。
だから納入していることを訴えにワタクシはここへ来たんだ。
さて、どういう風に言ってやろうか、
と必要以上に眉間にシワを寄せて考えていると、
カワユイ係員が戻って来て、
「納入記録ありました!」
「へっ?あっ、あったんですか?」
「はい、ありましたよ。確認できましたので大丈夫ですよ。」
あの~私の立場は?
と眉間のシワが、
とまどい気味に訴えているのを手で隠しながら、
「あっそうなんですね。よっ、良かったです。」
完全に拍子抜けしてしまった。
でもよく考えてみれば、
竹内マリアは見れたし、
ラジオ体操の振りも確認できたし、
係員はカワユかったし、
年金払ってるのも確認できたし、
メデタシメデタシの「ねんきん特別便」の一日であった。
スゲッー!