社会保険事務所に着き、
裏の駐車場に入れようとしたら、
汗だくになった警備のおじさんが走ってきた。
「いっぱいで入れません。皆さんそこでお待ちです!」
と指さす方向に目をやると、
なんと十台以上ズラ~ッときれいに一列に並んで待っている。
ここはいつもガラガラだったのに、
一体なんなんだこれは!
「ここから歩いて15分くらいの所に
無料駐車場がありますから、
そこに停めてきた方が早いですよ」
と言われた。
30分かけてここまで来たのに、もう15分かよ、
と思いながらもやむなく移動した。
歩いて戻ってきて、事務所表入口が見えた時、
また愕然とした。なんと人が入口の外にまであふれている。
いやいやまさか、中に入れなくて外に居るんじゃなくて、
話をするために外に出てきてるんだ。
そうだ、そうに違いない。
ここは普通の社会保険事務所だ。
入りきれない程人が来るなんてことあるはずがない。
そうブツブツ言いながら中に入って今度は唖然とした。
狭い事務所の中が人、人、人でごったがえしている。
みんな「ねんきん特別便」のことで来てるのか?
スゲーッ!
一瞬もう帰ろうと思った。
しかし、高いガソリンを使ってきて、
その上15分も歩いてここまできたのだ。
そう簡単に引き下がれるか!
そう思い直して、係りの人に用件を伝えると、
整理券をお取り下さいと言われた。
発券機の番号を見て、目玉が飛び出た。
なんと41人待ちとある。
41人なんて、もう帰ろう、
ホントにもう帰ろう、と思った。
でも一応どのくらい待ち時間がかかるのか聞いてみようと、
係りの女性に尋ねると、
「2時間半くらいですね」
「えっ!に、に、にじかんはん?」
余りにこともなげに言われたので、
こっちがビックリして思わず声が裏返った。
少しでも早くならないものかと、
「ワタクシ忙しい体なんで、そんなには待てないんですよ」と
何故か緩んでもいないバーバリーのネクタイを
これ見よがしにキュッキュッと締め直しながら、
ワタクシとても忙しい重要人物なのよ、を装って言ってみた。
「まあ、バーバリーのネクタイじゃないですか。
服装からしても見るからにお忙しそうな方ですわねぇ。
そんなにお忙しいのなら、優先して順番早めましょう!」
の言葉を期待していたのに全く通じず
「皆さんそれくらいお待ちですよ。
だったらどうします?
出直します?」
と実にそっけない。
ありゃ。
こいつにはバーバリーの神通力は通用しないのか。
そもそもバーバリーというのはね、
功なり名をあげた者だけが身につけることができるブランドであり、
それを身につけているこのワタクシという人物はね・・・と
説明してやりたくなったが、そんなことしても無駄だし、
実際このブランドで持っているのは、
このネクタイとシャツとハンカチぐらいだから、
あまり語ってもボロが出るのでやめることにした。
しょうがない、出直しても同じことだから、待つことにしよう。
そうか、こんな田舎ではバーバリーは通用しないのか。
そう言えばワタクシが初めてバーバリーを買ったのは
イギリス旅行に行った時だったなあ・・・。
あの時免税店で初めてあの柄を見て・・・、
なんて思い出に浸りながら、
「ねんきん特別便」の封書を片手にしっかり握り締めたまま、
力なく待合室の椅子に腰掛けた。