これも今となっては昔のことだが、絵仏師良秀という人がいた。
家の隣から火が出てきて、風が覆いかぶさって火が迫ってきたので(良秀は)逃げ出して大通りに出た。

 ☆おし:意味を強める
 ☆おほふ:上にかぶせる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

人が良秀に書かせている仏もいらっしゃった。また着物を着ていない妻子などもそのままの状態で内にいた。
(良秀は)それも知らないで(構わず)ただ逃げ出したことを良いことにして、向かいの家の表に立った。

 ☆おはす:いらっしゃる。おいでになる。
 ☆衣:衣服。着物。
 ☆さながら:そのままの状態で。もとのまま。
 ☆内:ものの内側
 ☆つら:おもて。そば。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見るとすでに火がわが家に移って、煙・炎がくすぶり出したとこをまで良秀はほとんどずっと向かいの家の側に立って、眺めていたところを「驚きあきれたことだ」と言って人々が観まいにきたけれど、あわてなかった。

 ☆大路:都会の幅の広い道路
 ☆くゆる:けむる。くすぶる。
 ☆おほかた:世間並みであるさま。ほとんど。
 ☆あさまし:①意外だ。②興ざめだ。③情けない。④見苦しくいやだ。⑤嘆かわしい。
 ☆とぶらふ:①心配して聞く②訪問する。見舞う。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「どうしましたか」と人が言ったところ良秀は向かいに立って、家が焼けるのを見てうなづいてそして時々笑った。
良秀は「ああ大変なもうけものをしたとことよ。長年下手に書いたものだなぁ」と言うときに見舞いに来た人達は「これはどうしてこのように立っていらっしゃってるのか。驚きあきれたことだなぁ。怪しげな霊がとりつきなさったか。」と言ったので、「どうして怪しげな霊がとりつくはずがあろうかいや、とりつくはずがない。長年、不動尊の火炎を下手に書いてきたことであるなぁ。今見ると、このように燃えるものだなぁと悟ったのである。これこそもうけものだ。この道を専門として世に生きていくには、仏だけでも上手に書き申し上げならば百も千もきっと家ができるだろう。お前さんたちこそこれといった才能もおありにならないので、ものを押しみなさる。」と言ってあざ笑って立っていた。
その後であろうか、良秀の「よぢリ不動」と言って、今に至るまで人々は称賛しあっている。

 ☆いかに:①どのように。どんなに。②どうして。なにゆえ。③どのくらい④どんなにとさぞかし。⑤なんとまぁ
 ☆うちうなづく:うなづく。がてんする。
 ☆あはれ:ああ。しみじみとした趣がある。
 ☆年ごろ:長い年月。数年来。
 ☆こは:これはまぁ  
 ☆かくて:こうして。このようで。
 ☆わろし:よくない
 ☆あしく:悪く。へんに。へたに。
 ☆心得:①理解する。②引き受ける③気をつける
 ☆のち:あと。以後。
 ☆夜にあり:世の中に生きている。生存している。
 ☆おはす:いらっしゃる。おいでになる。おありになる。
 ☆めづ:①可愛がる。愛する。②褒める。称賛する。